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高齢者の就業率が上昇し2人に1人が働き続ける時代に。将来への経済的な不安だけではなく、新しい挑戦で自己実現へ。
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65歳以上の高齢者も元気に働いている方が益々増えています。総務省統計局の発表した「労働力調査」によると、一番上の図表で、2024年の65歳以上の人の就業者は930万人、12年前の2012年が同596万人でしたので、大きく増加しています。
二番目の図表で、65歳以上の人の就業率をみると、2024年は25.7%と4人に1人は働いています。12年前の2012年が19.5%と5人に1人でしたが、6.2%ポイントも上昇しました。
高齢者を前期・後期に分けてみてみましょう。65~74歳を「前期高齢者」と呼びますが、2024年の就業率は43.7%とおよそ2人に1人が働いています。12年前の2012年には、同30.4%とおよそ3人に1人でした。75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいますが、2024年は12.0%と10人に1人以上が働いています。
三番目の図表で、男女別にみてみましょう。2024年の就業率は、65歳以上で、男性34.2%と3人に1人以上、女性19.1%とおよそ5人に1人が働いています。12年前と比較して、いずれも上昇しています。要するに、男女を問わず、高齢者もよく働くようになっているということです。
日本の高齢者の就業率が上昇している背景には、複数の要因が複合的に作用しています。主な理由とその背景にある社会情勢についてみてみましょう。
まず、「少子高齢化」といった人口構造の変化と、労働力不足が挙げられるでしょう。日本は世界でも有数の少子高齢化の先進国です。このため、若年層の減少により、生産年齢人口の減少を余儀なくされています。多くの業界で人手不足が深刻化しています。人手不足による労働力不足を補うために、高齢者の労働市場への参加を促す政策が推進されています。
政府は、高齢化の進展に合わせて、「高年齢者雇用安定法」をこれまで数回にわたり改正し、企業に対して定年年齢の引き上げや継続雇用制度の導入を義務化しました。直近では、2021年4月に改正法が施行され、70歳までの就業機会の確保が努力義務とされました。これにより、高齢者が働き続けやすい環境が整備されつつあります。
こうした施策を受けて、かつ目の前の人手不足を補うため、企業側も、高齢者の経験や知識を活かせるよう高齢者の働きやすい環境を整えています。定年退職後も嘱託社員やパート社員として雇用したり、短時間勤務やフレックスタイム制など、柔軟な労働形態を導入し、高齢者が働き続ける選択肢を増やしています。
一方、高齢者にとっては、切実な問題もあります。これまでの蓄えの不足に加え、将来への不安や物価高から、年金だけでは老後の生活費を賄えないと不安を感じる高齢者が多くいます。年金の支給額の実質的な減少が懸念される中、老後の生活資金の確保を目的に、安定した収入を得るために、働き続ける人が増えています。
それ以上に、高齢者の働くことへの意識の変化もあります。働くことは、心身の健康維持に繋がるという健康意識の向上です。適度な労働は、認知機能の維持や生活習慣病の予防に役立つという認識が広がっています。医療技術の進歩や生活水準の向上により、日本人の平均寿命は延び続け、健康寿命も延伸しています。高齢者が元気に働ける期間が長くなり、働く意欲と能力のある人が増えています。
また、 高齢者の中には、まだまだ社会の役に立ちたい、社会貢献したい、活躍したいという意欲を持つ人が多くいます。働くことを通じて、社会との繋がりを維持し、自己実現を求める高齢者が増えています。
高齢者の中には、これまでの経験で培った能力や習得した技術・スキルを活かせる仕事だけでなく、新しい仕事に挑戦したいと考える人もいます。多様な働き方を選択し、社会的な意義や生きがいの追求です。単なる収入のためではなく、新たな自己実現のために働く人も増えています。
これらの要因が複合的に作用し、日本の高齢者の就業率は上昇傾向にあります。今後も、少子高齢化が進む日本では、高齢者の就業はますます重要な役割を担うと考えられます。このように、経済的要因や社会的な変化、高齢者の意識の変化などが相まって、高齢者の就業率は今後上昇し続けると予想されます。