「何手先を読むか」と技のつなぎの話 （柔術と将棋①）（全文無料）
今日も今日とて柔術が楽しい。最近は極めにこだわっています。力でなくタイトさと正確さで極めたいですね。
今日の投稿は何手先を読むかの話。将棋と柔術が似ていると感じることが多いでので柔術と将棋の話はシリーズにしたいなと思ってます。
※将棋と柔術は全く別物です。柔術は体を使ったチェスとか将棋ということもありますが、自分はそんなことはないと思います。あくまで共通点が多いというだけです。
１．将棋は何手先まで読むか
棋士の方がインタビューか本で、「棋士は何十手先を読むと思われがちですが、実際は2、3手先くらいです。読もうと思えば何十手先まで読めますが、ほとんどの場合その通りには行かないので意味がありません。」という旨のことを言っていました。
これが、まさに柔術の技のつなぎと同じです。
また、将棋では「初級者は2手目（相手の指し手）が読めない」と言われます。自分に都合のいい2手目を予想してしまうことが多いです。ここも柔術に似ています。
※棋士が何手先まで読むかについては最後の追伸で深掘りしているので興味のある人はどうぞ。
２．柔術は何手先まで読むか、柔術の技のつなぎについて ～数珠つなぎ～
今回の記事は、こちらを参考にしました。有料会員限定ですが、安くて他の記事も読めるし面白い内容なのでおすすめです。
数珠つなぎのように技をつなげていく
柔術における技のつなぎ。何手先まで読むか。
トップ選手の寝技はMMAでも柔術でも蟻地獄のように技がつながっているように見えます。トップ選手は自分の思う通りに相手を動かして、ファーストコンタクトから極めまで先を読んで動いてように見えます。しかし実際は数珠つなぎの様に、変化するシチュエーションごとに展開を読んでいます。都度、相手のリアクション1～3手先を読んで動いていると結果的に「すべて計算通り」といった風にみえるのでしょう。
シチュエーション①で、考えられる展開１～3手先を読む
↓
自分のアタック＆相手のリアクション
↓
シチュエーション②で、考えられる展開１～3手先を読む
↓
自分のアタック＆相手のリアクション
↓
シチュエーション③で、考えられる展開１～3手先を読む
・・・
将棋と同様に、その場面で考えられる手（リアクション）は無数にありますが、実際に有効な手（リアクション）は1～3手くらいのものです。有効でない手はほとんど考える必要がありません。（例えば背中を向けるべきでないところでその動きをしてきたところで、相手は不利になっているだけなので読まなくても対応できます）
図で解説
実際のスパーでの思考とは違うのですが、イメージをつかむのにちょうどいいのでフローチャートを使いながら説明します。
柔術の展開はとにかく膨大
将棋では一見同じように見える局面でも1マス駒の位置がずれるだけでその後の展開が変わってきます。柔術も同様です。何が言いたいかというと、とにかくシチュエーションや考えられるパターンは膨大なのです。そのすべてを何十手先まで読むのは不可能です。脳のキャパが足りません。
「何十手も先を読む意味がない」の理由
図のように「引き込み」→「袖取る」→「スパイダー」→「相手立つ」→「スイープ」→「クロスニーパス」→「サイドから腕十字でフィニッシュ」と読み切ることはできますが、こんな風にはいきません。どこかで相手のリアクションが変われば別ルートに入ってしまいます。トップ選手のスパーを見るとすべて読み切って動いているように見えますが、さすがにここまで読み切っていることはないでしょう。先ほども書いたとおりシチュエーションごとに１～３手リアクションを読んでコントロールしているのだと思います。
先読みと技のつなぎ
実際は絶えず変化する細かいシチュエーションによって技のつなぎは変わるので、このフローチャートは正確ではありません。あくまでイメージです。
といったイメージで、数珠つなぎのように「そのシチュエーションごとで先を読む」ことを繰り返してるのが実際のスパーです。
ちなみにこの例ではアタックで説明しましたが、ディフェンスでも技のつなぎは同様です。相手の次のアタックを読んでそのスキをついてスペースを作ったりエスケープします。
補足① 展開が読みやすい技、読みづらい技
柔術の展開は膨大ですべて読むのは不可能といいましたが、中にはリアクションを限定できる技があります。例えば50/50ガード。これは相手を固定しているので展開が読みやすいです。しかし展開が読みやすいから楽かというとそんなことはなく相手も展開が読みやすいです。
・展開が読みやすい技
例：四の字ハーフ、50/50、ワームなど
メリット：リアクションを限定できるので読みやすい。得意の形で勝負できる。経験値の差を埋められる
デメリット：相手もこちらの動きを読みやすいので、細かいディティールやフィジカルや精度を求められる。
・展開が読みにくい技
例：オープンガード系全般、遠距離系パス
メリット：いろんな展開で攻められる。相手の知らない技や意識してない技がきまりやすい。
デメリット：リアクションを読みづらい。アドリブや先読みが求められる。経験値に差があると知らない技でやられる。
補足② 何手も先を読むこともある
ここまで書いてきたことと矛盾しますが、相手をコントロールした状態からだと相手のリアクションを限定させられるので何手も先を読むことは可能です。そのリアクションを取らざるを得ない状況（それ以外のリアクションだとやられてしまう状況）を作っているのです。
サイドからニーオン仕掛ける
↓
相手は膝を押してくる
↓
押してきた腕の脇を取ってキムラロック
↓
相手が脇締めて固まる
↓
バックにまわってキムラトラップ（Ｔキムラ）作る
↓
相手が起き上がって向き合ってくる
↓
足フックしてバックテイク
また、「ディープハーフスイープからカミツキパス」「クロスニーから腕十字」「ワンレッグエックスのスイープからそのままフットロック」のようにセットに組み合わせる技もあるので、そういった技も数手先まで読めることがあります。
将棋も展開の多い中盤は３手先くらいしか読めませんが、終盤に詰みが見えると何手も読んで連続王手で詰ませに行くことがあります。ここも似てますね。
まとめ 先を読む力の鍛え方、技のつなぎの上達の仕方
前段階：技を覚える
先を読む、技をつなげるためにはそもそもある程度技を知らないとできないので、技が足りないと思う人はクラスに出て教則動画見て打ち込みしましょう。
スパーで「ストック＝引き出し（パターン）」を増やす
「技のつなぎ」＝「相手のリアクションに応じて動くこと」です。相手のリアルなリアクションが得られる練習はスパーリングです。いろんなアタックをしていろんなリアクションを引き出しましょう。この「アタック→リアクション→アタック」の繰り返しが技のつなぎになるのです。この「アタック→リアクション→アタック」のストック＝引き出し（パターン）を何個も自分の中に増やしましょう。トライフォースの芝本先生の言葉を借りると「スパーはストック集め」です。
よく、「どんな技も単純な動きや基本的な技の組み合わせ」といいます。それを言い換えると「複雑な展開もストックの組み合わせ」となります。数珠つなぎのように。試合では見たこともない展開や複雑な状況になることがありますが、自分の中にストックがあればそれを引っ張り出して技をつなげることができます。
また、スパーはストック集めであると同時に、「状況に応じて適切なストックを引き出す」、「ストックを組み合わせて新たなストックを作る」のトレーニングにもなっています。
自分の考えるストック集めのポイントは、「先を読んで考えてスパーする」（＝相手の動きを予想しながら動く、シチュエーションを見て動くこと）と「スパーを記憶する」です。これらを意識してやることでストックが増えて先を読む力や技のつなぎが上達します。
①知らない技、身に付いてない技は打ち込みで覚える。
②スパーで考えながらやる。相手のリアクションを予想しながら動く。
③スパーを記憶する。インプットして考える。
長くなりましたが、一言でまとめると
「相手のリアクションを意識してスパーをして、いろんな技のつなぎを身に付ける」
です。
読んでいただきありがとうございました。良い練習をする手助けになったら嬉しいです。
2023/10/11 アンディ
追伸 将棋は何手先まで読めるのかの深掘り
こちらは興味のある人だけどうぞ。ただの素人将棋ファンのまとめなので参考程度に。
結論から言うと「何手先まで読むとかそういう話ではない」「場合によって変わる」というクソみたいな結論になります。
初心者は1〜3手先しか読めない、中級者は4〜7手、プロは何十手先まで読む、というようなことはありません
もう少し分かりやすく言うと（不正確ですが）、
「序盤は細かく読まずに大局の流れを読んで、中盤は指す度に3～5手読む、終盤は詰みが見えたら一気に何十手も先まで読み切る」
といった感じになります。
以下解説していきます。
将棋の対局のパターンは理論上無限にあると思うのですが、プロの棋譜を研究したある論文だと、将棋の対局のパターンは10の22乗（10000000000000000000000）通りほど考えられるそうです。これはもう数学の世界なので自分にはよくわかりません。。。
興味ある人はこちらをどうぞ
https://www.nara-wu.ac.jp/math/personal/shinoda/legal.pdf
将棋の初手は30通り、対局が進むと各局面の指し手は80通りほどになるそうです。
序盤 初手～40手（場合によって変わる）
序盤は研究が進んでいるのである程度のところまではパターン化しており、そこまで細かく読むことは少ないです。ちなみにパターン化した展開を「定跡（じょうせき）」と言います。この段階では読みというよりも作戦の探り合いみたいな感じになります。
中盤 駒がぶつかってから
対局が進んだ中盤の3手先は約512000通り（80×80×80）あります。たった3手先だけで。とはいえ、その局面で考えられる手というのは3～5くらいで残りの75手はほとんどありえない手になります。なので、実際、3手先を読むのは27～125パターン（3×3×3 ～ 5×5×5）の局面を脳内で読んでいることになります。なのでたった3手でも正しく読むのは難しいのです。
終盤 詰ませに行く段階
終盤は、手元に取った駒があるのでさらに複雑化するかと思いきや逆です。王を詰ませに行くので、実際に考えられる手は絞られます。（理論上の局面の指し手のパターンは中盤より増えることが多い）
終盤は「〇手詰め」といって連続王手をかけ続けて詰みまで読むことがあります。そういった場合は10手以上先まで読む場合も。「詰将棋」では100手を越える作品もあります。プロ棋士は100手以上読むことも可能なのです。とはいえ実際の対局では100手以上連続で王手をかける場面はありえないので実際の対局で100手先を読むことはないです。
なので繰り返しになりますが、「将棋は何手先まで読むの？」という問いの答えは「場合によって変わる」というクソみたいな答えになります。
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