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組手。正面の襟と対角の襟。どっちがいいの?(全文無料)
今日も今日とて柔術は楽しい。
・右手で相手の正面の左の襟を持つ形。正面の襟はフロントカラー(front collar)、セイムサイドカラー(same side collar)、順襟(じゅんえり)などと言います。たまに柔道襟といった言い方をする人もいます。
・右手で相手の対角の右の襟を持つ形。対角の襟はクロスカラー(cross collar)などと言います。たまにクロスグリップともいいますが、これだと対角の袖のグリップと混同しやすいです。
1.どっちが優秀、ということはない
結論から言うと、正面の襟と対角の襟、どっちのほうがいいかということはないです。どちらもメリットデメリットがあります。技や状況によって使い分けます
ただ一般的に、対角の襟の方が強いと言われます。(「強い」の定義によりますが)
何が強いのか、以下解説していきます。
2.二つの違い
・正面の襟は防御に優れている(押す力が強い)
・対角の襟は攻撃に優れている(引く力が強い)
上記が一般的なイメージです。ちょっと不正確ですが。。。
もちろん、正面の襟の方が攻撃に優れている場面や、対角の襟の方が防御に適している場面もありますが、イメージとしてこう考えておくと整理しやすいです。特に初心者の方は。
もう少し細かく見ていきます
3.正面の襟の特徴
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正面の襟はリーチが長い。押すと距離を長く取れる。
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①グリップを作りやすい
②距離を作ることができる。押せる。肩を止められる
=防御に優れている
①グリップを作りやすい
→実際にグリップファイトをしてみると分かりますが、正面の襟の方が取りやすいです。遠い距離(対角の襟が届かない距離)でも正面の襟は取れます。近い距離でも対角の襟より正面の襟の方が近いので取りやすいです。
②距離を作ることができる。押せる。肩を止められる
=防御に優れている
→正面の襟は相手の肩をしっかりと押せます。押したときに距離を作りやすいので防御するときに優秀です。対角の襟でも押せますが押したときの距離が正面の襟より短いので潰されやすいです。防御するとき、エスケープするときは距離を作りたいので正面の襟の方が向いてることが多いです。
ちなみに、カントチョーク、ベースボールチョークは正面の襟を持つ組手の技です。ベースボールチョークは正面の襟というより奥襟かもしれませんが。
4.対角の襟の特徴
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①グリップを作りづらい。
②強く引くことができる。
=攻撃に優れている
①グリップを作りづらい
→先ほどの逆。実際にグリップファイトをしてみると分かりますが、いきなり対角の襟を取ろうとしてもけっこうブロックされます。正面の襟が取れる位置でも対角の襟は届かなかったりします、対角の襟は遠いので。
②強く引ける
=攻撃に優れている
→正面の襟を持つより、対角の襟は強く引けます。ガードから強くコントロールしてアタックするときは引く動きが多いのでそういった場面では対角の襟のほうが向いています。
また、対角の襟を取ると、十字絞め、小手絞り(ループチョーク)、一番絞り、片手絞め(襟ギロチン)、突っ込み絞め、といった絞め技への移行がしやすいのでそういった意味でも攻撃に優れています。
5.二つの比較
まとめます
作りやすさ
正面の襟:グリップ作りやすい
対角の襟:グリップ作りづらい
防御≒押す力
正面の襟:強く遠くに押せる。距離を作れる。
対角の襟:押しづらい、距離を作りづらい。
攻撃≒引く力
正面の襟:対角の襟よりは強く引けない
対角の襟:強く引ける
6.使い分けと戦略
グリップの作り方
とりあえず、いきなり対角の襟を作るのは難しいので、最初は正面の襟を取ることが多いです。そのまま正面の襟の組手でいくもよし、対角の襟の組手で作り直すもよし。
いきなり対角の襟取れるならそれでも全然いいですが、少し難しいです。
例
正面の襟を取って相手を止めて、余った手で同じ襟を持ちます。両手で片襟を持つ形(襟2on1)。それで対角の襟のグリップができます。そこで相手が足や袖を取りに来たらその袖を取れば対角の襟と袖を取った片袖片襟の形になります。
「どちらの肩を押したいか」「どちらの肩を落としたいか」で選ぶ
どちらの襟を持つべきか悩んでいるとき、「どちらの肩を落としたいのか」「どちらの肩を止めたいのか」を考えると答えが見つけやすいかもしれません。ちなみにどっちでもいいこともあります。
襟持ちスパイダー(正面の襟)
片方の肩を下げてもう一方の腕を吊り上げる形を作りたいです
正面襟引く+スパイダー
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これが対角の左襟だと相手の右肩を下げることができません。ちなみに襟持ちスパイダーをタランチュラガードというらしいです。強そうなクモです。
ちなみに対角の左襟を持つこともなくはないです。(片袖片襟から一時的に二頭筋に足裏を当ててコントロールするなど)
片袖片襟(対角の襟)
片側の袖と襟を引いて強く引く形を作りたいので、これは対角の襟を引きます。
対角の襟引く + 同じサイドの袖引く
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これも、右手で正面の正面の襟を持つ形(いわゆる柔道組み)でも悪くはないです。正面の襟の片袖片襟は相手との距離を作りやすいので防御力に優れていてバランスがいいです。
でも攻撃重視で強く引きたいなら対角の襟を持つ形が良いです。
この対角の襟を持つ形が一般的な「片袖片襟(collar and sleeve)」として定着してますが、一応正面の襟でも片袖片襟(collar and sleeve)です。英語だと「same side collar and sleeve」「front collar and sleeve」とか呼ばれます。
ニーシールドハーフ(対角の襟)
これは肩を押したい(止めたい)場合の襟の選び方。
ハーフでは相手が左手でマクラや襟を取りに来るので左肩を止めたいです。なので対角の襟(左襟)を持ってフレームを作って止めます。
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実はこれも場合によっては正面の右襟を持つこともあります。相手が左手でマクラを取るのではなく右肩を入れて距離を潰しに来ることがあるので、その時は正面の襟をとって右肩を止めます。
その他のガード
・デラヒーバはどちらの襟でも効果的。レッスルアップ系のアタックは正面の襟(遠い側の襟)、デラヒーバサイドに尻もちつかせるときは対角の襟(近い側の襟)がオススメ(逆でもできる)
・リバデラは襟を取られたくないので対角の襟を取ることが多い。
・ラッソ―、スパイダーは正面の襟が多い
・片袖片襟はどちらでもよいが、一般的には対角の襟を持つのが強い
・ハーフは対角の襟(肩)を抑えることが多い
取れる方を取る
どっちの襟でもいいときもあれば、どちらかの襟がいいときもあります。ただ、毎回ベストの襟を取れるとは限りません。
「本当は対角の襟持ちたかったけど取れなかった」という場面で無理に襟を取り直してグリップを失うのが最悪です。場合によってはその襟のままいったほうがいいかもしれません。
それは自分の技量やガードの種類によります。
それぞれの戦略
正面の襟は防御に優れていて、対角の襟は攻撃に優れています。
なので、
・正面の襟のガードはアタックを磨く(足にコネクトする、頭を下げる崩しを磨く)
・対角の襟のガードはディフェンスを磨く(足裏を相手に当て続ける技術、ガードキープ、ガードリテンション)
という意識を持つと欠点がカバーできるので上達につながるかもしれません。
7.トップのときの襟グリップ
ここまでの内容のほとんどがボトムの話が多かったですが、トップでも襟グリップのどちらを持つか問題はあります。
まず、ハーフになるまでは高い位置の襟を持ったらダメです。相手の足を越えないうちに高い位置の襟を取りに行くと三角や腕固めをされます。
「ハーフに行くまでは肘を相手の骨盤のラインより前に出さない」というのがトップの組手の基本原則です。
そして、基本的にトップでは正面の襟を持つことが多いです。使いやすくて押すことも引くこともできるので。あと、対角の襟を持つとアームドラッグで流されやすいです。
でも、対角の襟を持つこともあります。ハーフのときに脇を差す側の手で対角の襟を取ります。これだけだと流されるとバックを取られてしまいますが、肘~前腕で相手にプレッシャーをかけます。前腕で相手の顔を反対に向かせたり(クロスフェイス)、十字絞め(クロスチョーク)に移行することも可能です。
普通は正面の襟を持って相手の左半身(ファーサイドの肩)をコントロールしますが、この場合は肘で相手の左半身をコントロールするイメージです。
Lo and Romulo knee cut passing - YouTube 1:13くらいから対角の襟を持った攻めをしています。
あと、かつぎ系のパスだとかついだ手で対角の奥の襟をとることがあります。
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まとめ
どちらの襟を持ってもそんなに変わらないよ、ということもありますが、こういったディティールで差がつきます。たかが襟、されど襟。
技ごとにどちらの襟を持つのかを一つひとつ覚える丸暗記スタイルもいいですが大変です。本記事のコンセプトと哲学を知っておくと、なぜそちらを持つのかの意味が分かるので、整理・理解して覚えやすいです。
普段のスパーで、なんとなく襟を持っている方は一度立ち止まって、どちらの襟がいいか考えてみてください。上達のきっかけが見つかるかもしれません。
2025/2/25 アンディ
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