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愛しきロングフィード 〜照山颯人選手への惜別〜

2024J2リーグ第31節、ホームで迎えたVファーレン長崎戦。この試合には、在籍僅か半年で移籍した、照山颯人選手も出場しました。
 
在籍時にはチームの中核として攻守に活躍を見せた同選手。個人的に、今年のチームでは、谷村選手と並び最も頼りにしていた選手でした。

その彼が、対戦相手として帰ってくる…

移籍前後から試合までの心境を、ホームタウンの一人の住民、かつ照山選手に魅せられたファンの一人の目線から、記してみます。

記事公開の順番を差し替えたこともあり、試合から時間が経ってしまいましたが、改めて、惜別の意味も込めて、投稿します。

前回の記事はこちら。

それでは、よろしければお読みください。


○大量移籍の2023シーズンオフ。特にDFに不安を感じていた


2023シーズンのいわきFC、終盤まで残留争いに巻き込まれ、最終順位は18位でした。しかし、田村監督再就任以降は巻き返しを見せ、後半戦のみの成績では8番目の勝ち点を上げました。

この躍進を支えたのが、遠藤選手(現 J1アルビレックス新潟)と家泉選手(現 J1北海道コンサドーレ札幌)の、強固なCBコンビでした。

シーズン当初から、対人での強さを発揮していましたが、中盤戦以降、強固な対人守備に加え、相手CFの前に出て積極的にパスカットを狙う、そこから鋭い縦パスを打ち込む等、プレーの積極性が向上し、攻守の中核となっていました。

しかし、両選手は昨シーズンオフにJ1にステップアップを果たします。また、DFの中核だった2選手に加え、江川選手や黒宮選手も退団。チーム全体でも15人が移籍しましたが、特にDF陣に不安を感じる中で開幕を迎えました。

そのような中、2024シーズン開幕戦、3バックのセンターに立ったのが、昨シーズンJ3ベストイレブンに選ばれ、J3今治から移籍してきた、照山選手でした。

○第2節、岡山戦。初めて見た照山選手は「上手さ」で守るディフェンスと、圧巻のゲームメイキングを見せてくれた

開幕戦のアウェー水戸戦を0ー1で落とし、ホーム開幕戦の第2節岡山戦を迎えました。この試合でも、照山選手がDFの中央に立ちます。

私はこの試合で、2024シーズンのチームを初めて見ましたが、昨シーズンに比べて、DFラインが組織立っていると感じました。

前半、岡山が優勢に勧めますが、巧みなラインコントロールで何度もオフサイドを取り、ピンチの芽を摘み取ります。

また、サイドを突破され、中央にクロスを送られても、ゴール前に到達する前に弾き返してくれます。クロッサーとゴール前を結ぶラインを、ボールサイド側のDFがしっかりと封じていました。

何度かラインブレイクを許すシーンもありましたが、DF陣の予測と反応がよく、シュートブロックに入ることができています。

その際、闇雲に体を投げ出すのではなく、クロスコースを切りつつ相手を追い詰め、選択肢がパスまたはシュートに絞られたところで一気にアタックしており、冷静さと上手さを感じました。

昨シーズンのDFラインも、対人守備は非常に強固でしたが、今まで見られなかった、ディフェンスにおけるセンスやスキルを感じることができました。

そのDF陣を、中央で照山選手が統率していました。

一方の攻撃面ですが、照山選手が中心となり、DFやアンカー、そこにWBも交えた短、中距離のパス交換で全体をコントロールしつつ、突如前線に強烈な縦パスを送ったり、両WBの裏や、サイドに流れたFWに送る絶妙なロングフィードでチャンスを創出し、チーム全体を司るようなプレーぶりでした。

長短のパスを織り交ぜて巧みにゲームメイクし、一発のロングフィードでチャンスを作る。一流のQB※注1のように感じました。岡山戦が終わる頃には、個人的に「ブレイディ照山※注2」と名付けていました。

試合自体も、ラストプレーで同点に追いつく劇的な展開でしたが、照山選手個人のプレーを見ただけで、この試合に来た甲斐があったと感じました。

年間チケットを購入して迎えた2024シーズン、このスキルフルなディフェンスとゲームメイクを一年間見れることが、本当に楽しみだと感じました。

同時に、素人目にも、攻守共にJ2上位レベルの選手に見えました。1年で、J1、あるいはそれ以上にステップアップする可能性がある。この1年間、しっかりとプレーを目に焼き付けようと思いました。

※注1 QB(クォーターバック)
アメリカンフットボールのポジション。特殊な場合を除き、チームの攻撃はすべてQBのプレーから始まる。
※注2 ブレイディ 
NFLスーパーボウルを7度制した歴代最高クラスのQB、トム・ブレイディ選手。

○活躍、離脱。一瞬の復帰と、突然の別れ

それ以降の活躍はご承知の通りです。チームは開幕以降好調を維持し、最高4位にまで躍進しました。ホーム清水戦やアウェー横浜FC戦でも、強豪相手に互角の戦いを演じることができましたが、その攻守の中核には、照山選手がいました。

チーム内での存在感と重要度も高まり、キャプテンマークを巻く機会が増えました。昨年は、失点時にチーム全体が下を向いてしまうことが多かったですが、新加入の立川選手や大森選手などと声をかけ、盛り立てる姿が多く見られました。

インタビューでの発言や、プレーする表情からも、勝利への意欲とプロとしての野心を感じ、好感と頼もしさは、シーズンが進むにつれて、高まっていきました。

そのような中、5月下旬のホーム徳島戦、腰痛を発症して負傷離脱。その前後から、順位の近い相手との直接対決に敗れるなど、チームには少しずつ停滞感が漂い始めました。

チームはDF陣に負傷者が相次ぎ、ベンチにDFの交代メンバーが居ないという苦しい状況が続きました。それでもなんとかプレーオフ圏内至近で踏みとどまり、ホーム横浜FC戦で照山選手が復帰。この試合は0−4で敗れるも、内容はネガティブではなく、ここからの巻き返しを期待しました。






https://iwakifc.com/2024/07/07/teruyama/

横浜FC戦の後、夏の移籍期間を迎えました。期間突入直後、ちょうどお昼の時間帯でした。チームの公式ラインから、一通の通知が届きました。照山選手の完全移籍のリリースでした。


携帯を見つめ、しばし呆然としました。その時の真夏の強い日差しと、日差しが生み出す黒く濃い影とのコントラストが、今も印象に残っています。

しかしその直後、福島ユナイテッドから堂鼻選手が加入。すぐにフィットし、活躍を見せてくれたこともあり、移籍の喪失感に向き合う間もなく時が過ぎていました。

向き合いたくなかった、目を背けていただけなのかもしれませんが。

それからしばらく経ち、嫌でも向き合わざるを得ない機会が訪れます。ホーム長崎戦、照山選手が、対戦相手として帰ってきます。

○ハワスタに初めて響く大ブーイング。憎しみじゃなく、ロングフィードへの恐怖心が、声に変わった。

迎えた第31節、ホーム長崎戦。照山選手の移籍後、初の対戦となる試合でした。

J1チームや海外であれば、特大のブーイングで迎える状況ですが、いわきFCファンは、文化として、あまりブーイングを推奨していない印象がありました。

また、在籍時はとても応援していた選手でもあります。試合当日まで、どう迎えていいか決めかねていましたが、選手紹介時に少しブーイングが起こり、さらに戸惑いが大きくなりました。

リアクションを決めかねている中、試合が始まり、程なく、DFラインで照山選手がボールを持ちます。

直後、ハワスタに初めて本格的なブーイングが鳴り響びきました。その中に一際大きく聞こえる声に気づきました。自分の声でした。

そうしようと心に決めていた訳ではなく、自然に、いつのまにか声を発していました。周りの様子を見て、後追いで、苦笑いを浮かべながら、パフォーマンスとしてブーイングすることはあるかもな?と思っていましたが、思いっきり叫んでしまっていました。

憎しみをぶつけている訳ではありません。ロングフィードへの恐怖心、ただただそれだけです。

同時に、ロングフィードの行く先がなぜ加瀬じゃないのか?なぜ有馬や西川が、縦パスを受ける側でなく、君にプレスをかけないといけないのか?という悲しみと、敵として改めて眼にした素晴らしきプレーへの恋しさもありました。

これらが混じり、昂り、声となって、ハワスタに溢れたように感じました。自分は、そうでした。

試合開始直後は、珍しくパスの乱れが見られ、その様子がさらにブーイングを招いたように思います。

しかし、しだいにハワスタの空気にもアジャストし、絶妙なバックスピンのかかったロングフィードで、いわきのDFラインを押し下げ、プレスに来たWBの裏にはチップキックでパスを送られ、徐々にプレスをいなし、持ち前のゲームメイク力を発揮するようになっていきました。

試合は0-2で敗れました。

当日は突発的な大雨に見舞われ、同行者の体調もあり、後半途中でスタジアムを離れざるを得なくなりました。が、体のいい言い訳に、飛びついただけにも思えます。

照山選手のパス、その脅威をこれ以上感じたくない、その素晴らしさを、これ以上見たくない…そのような気持ちを抱えながら観戦を続けることが、苦しかったんだと思います。

○照山颯人選手への惜別


ホーム岡山戦で一目見て、素人目にも、J1で戦える選手だと感じました。

そしてこのセンスとスキルに、いわき仕様のフィジカルが加われば、それ以上の飛躍も望めると期待しました。

チームの応援という枠を超えて、照山選手個人のプレーを見ること自体が楽しみだと感じ、金を払う価値があると感じさせてくれました。まさにプロのプレーでした。

半年で出たのは残念でしたが、実力のある選手であり、それ自体は仕方がないと思っています。怒ってるのは行き先がJ2だったこと。君にJ2はふさわしくない。早くJ1に行ってくれ。長崎をJ1に導いてもいいし、個人昇格でもいい。

もし長崎が今年J2にとどまったとして「来シーズンこそは皆様との夢を叶えるため、長崎のために全力でプレーします。俺が勝たせます」みたいな、白々しいコメントとともに残留する姿だけは見たくない。

うちを半年で出たんだ。義理や人情で動くタイプじゃないだろう?チャンスがあれば、躊躇せず貪欲に挑む。そうしてここまで来た選手だというのは分かる。君はそれでいい。

君は対戦相手として脅威的だった。脅威的過ぎた。90分そのロングフィードの脅威に晒されるのは耐え難い。楽しんで試合を見れない。ボールを持てば、常に喉元にナイフを突きつけられているような緊迫感がある。そんな選手は他に居なかった。悪天候があったとはいえ、初めてハワスタで中座させられた。

(J2同士の対戦では)ハワスタには2度と来て欲しくない。2度とハワスタで見たくない。君のプレーは眩しすぎるし、怖すぎる。

必ず今年J1にいってくれ。どんな形でも。

来年以降、カップ戦などで、J1戦士として凱旋するなら、大歓迎だ。

半年でいわきFC「出身」と認めるのは、今いる選手や、長年ハードトレーニングを積み、優勝、昇格、残留に貢献してきた選手たちに失礼だ。

しかし、トレーニングについては、ここでよく学べたはずだ。これからも鍛え続ろ。いわきFC「に在籍経験のある」選手として、簡単に吹き飛ばされる姿は見せるな。相手がJ1の選手でも、海外の選手でも。

ハワスタで素晴らしいプレーを見せてくれて、また在籍中に多くの勝ち点をもたらしてくれて、本当にありがとう。金を払う価値のある、正にプロフットボーラーのプレーだった。

今回の選択も、感情を抜きにした、プロとしての決断だったんだと思う。

感傷的に過去を振り向くようなタイプではないだろうけど…振り向かずに、どこまでも行って欲しい。J1、その先まででも、行ける力はあるはずだ。



当初公開時には、この後、長崎戦で話題になったブーイングについて、さらにそこから派生して、ヤジや声援についての私見に関する項目がありましたが、合計約8,000字と、あまりにも長すぎる記事となったため、番外編として分割しました。

次回は田中謙吾選手の引退に関連した記事を思案中です。水戸戦前後には公開したいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。(旧8,000字バージョンを最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。また、お疲れ様でしたした)

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