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都立大学の件以降、僕はカウンターに入っても江とはそのことに関しても話すことはなかった。何…
翌日の夕方、江が出勤するのを待って昨日のことを訊いてみた。 「ごめんなさい。いけなかった…
電話を受けている先生は、お母さんの相談を聞き、その気持ちを肯定するようにハイハイと応えな…
何の準備も用意もしていない傍若無人な人間を客としてもてなしてくれるのは、主客が転倒した行…
都立大学の受付によると、先生は学校にいるとの事でそのまま先生に電話を繋いでもらった。 「…
僕は親戚の縁で、パチンコ店と焼肉店、そして同じ建物にある喫茶店を任されていた。 社長は顔…
暫く時が過ぎた。 夏の陽の傾きと、長くなった陽の影を隣のビルの縁に見て、僕は軍艦マーチが喧しいパチンコの店内に入っていった。 江の「告白」があって、それからは、僕は彼女に対して努めて静観しようとしていた。 カウンターでは江がいつもの笑顔で迎えてくれる。大きな声で「おはようございます」と挨拶があった。 コンピューターの前に立ち、ひとつひとつの台を呼び出し、チェックしながらふと気が付くと、傍らで江がホールに流れる「軍艦マーチ」を足でリズムを取りながらそのメロディを口づさんでいた。
しかし、彼女の反応は芳ばしくなかった。 「早瀬さんは知らないのよ。今の中国の若い幹部や官…
だが日付も六月四日に移ってからの事態の急変は、それを伝えるニュースを見ていた僕には驚きだ…
単純な対話の連続が僕たちの会話だ。彼女のよく聞き取れないことに関しては紙に書いたが、僕の…
江小薇は、まずタバコの球数と、そこに表示されたカタカナをメモし、読み方を周りに教わりなが…
次の日、僕は事務所で事務員の甲さんに江小薇の話をした。 「中国の人に勤まるのですかね。中…
僕は名前を書いた紙に連絡先を入れてもらい、明日連絡する約束をした。 採用の可否は僕たちで…
一九八九年五月。 簡単な休憩を終えて、僕は三階から階段を駆け降り、パチンコ店の二階の事務所に向かった。 事務所を照らす電球は切れて、その一角だけが薄暗くなっている。 闇に沈んだドアの前で、ふと時計に目をやると、針は午後七時を指していた。 僕はいつものように、勢いよくドアを開いた。 明るい蛍光灯の光の中に、バチンコの店長が所在無さげに立っている。側に見知らぬ女性が佇んでいた。 僕は軽く会釈をして、奥にある水道で顔を洗いに足早に二人の前を通り抜けると、店長が後ろから声をかけてきた