金メダルかんだ河村市長問題 - 表敬訪問とは
金メダルかんだ河村市長問題について、多くの論評は、メダルをかんだ件及び問題発言に重点を置いています。
他にも重要な問題があります。次の4点です。
1.表敬訪問を、市役所が手配していたこと
2.アスリートは称賛すべきものであるという世論形成
3.金メダルを材料にした代理戦争
4.けがれ思想に通じるメダル交換
1.表敬訪問を市役所が手配
表敬訪問に関する基礎知識を得るには、次の記事が良いです。
「表敬訪問」の「表敬」とは「敬意を示す」。「訪問」は「相手先に出向く」です。(中略)今回だと後藤選手が「ありがとうございます」との意を市役所を訪れて伝える側で、市長は敬意を受ける側となります。
この、市長への敬意を示す訪問を、市役所側が手配していたのです。
名古屋市スポーツ戦略室の説明では、今回の後藤選手の表敬訪問は、(中略)市が勤務先のトヨタに表敬訪問を依頼した。(中略)
名古屋市スポーツ戦略室の担当者は取材に対し、表敬訪問について「(中略)表敬訪問を設定することは税金で運営する市政の責務と考えている」と説明した。
敬意という、相手への尊敬の念を表明する行為を、市役所が、関係する市民に、依頼していたのです。
市長による自作自演の自画自賛ですね。
個人の立場に立てば、尊敬の念を表明すること・価値があると思うことを明言することは、とても重要な振る舞いです。
それを、市役所は、市民に「市長への尊敬の念を表明しに、市役所まで来てください」と依頼したのです。
市長による個人問題であれば、4年の任期期間だけの問題です。
しかし、市役所が業務として行っているのであれば、市長交代後も、役所が組織的に、自作自演の表敬訪問を行い続けることになります。
また、同様の問題は、他の役所でもあり得ると思います。
市長の個人問題であると捉えずに、組織のあり方論として問題の解決をすることが大事だと思います。
この「BLOGOS しらべる部」による追及は、良い所を突いていると思う。
従前は、このような追及を、大手メディアが担っていたと思います。
大手メディアが弱体化したことにより、相対的に、中小メディアが発言することになってます。
2.アスリートを称賛する世論形成
「アスリートを称賛すべきである」という世論を形成しようとしている。
それは、次のNHKの報道から分かる。
後藤投手が所属するトヨタ自動車はコメントを発表しました。
この中で、今回の行為について「不適切かつあるまじき行為」としたうえで、「金メダルはアスリートの長年にわたるたゆまぬ努力の結晶であり、コロナ禍でメダルの授与ですら本人が首にかけるという状況下でアスリートへの敬意や称賛、また、感染予防への配慮が感じられず、大変残念に思う」としています。
そのうえで、「河村市長には責任あるリーダーとしての行動を切に願う」としています。
トヨタ自動車は、アスリートへの敬意や称賛は必要である、という主張をしています。
アスリートを称賛することにより、その雇用主を自画自賛するという構図です。
この流れの中で、市幹部は謝罪文書を受付のスタッフに渡しました。
名古屋市によると、河村氏と副市長、スポーツ市民局長、市長室長は5日午後、豊田市のトヨタ自動車本社を訪問。市はトヨタ側に配慮し、河村氏自らが訪問することは避け、副市長が代理で河村氏の謝罪文書を受付のスタッフに渡した。
アスリートへの敬意や称賛は必要という意見に対して、230万人都市・名古屋市の首長が謝罪をするのですから、アスリート及びその雇用主(トヨタ自動車)への英雄視が、一層高まるでしょう。
金メダルはアスリートの長年にわたるたゆまぬ努力や、雇用主の支援の結晶ではありますが、多額の公的資源の浪費の上に成り立っています。
東京五輪を楽しむ、というのは主観です。
楽しめない国民も多数います。
主観的な感動が、東京五輪の成果です。
トヨタ自動車は、実態の無い情緒(感動を楽しむこと)が主な成果である東京五輪に加担しました。
アスリートを支援することにより、社会格差助長(不公平感の助長)に加担したばかりか、敬意や称賛まで求めています。
「名古屋 河村市長がかんだ金メダル 新たなものに交換へ」(2021年8月12日 NHK)
何故、交換しなければならないのか?
理由を明言していません。明言することが、できないからでしょう。
交換する理由は、次のとおりであると、私は推測します。
アスリートへの敬意や称賛をすべきである。
金メダルをかんだことにより、その金メダルはケガレてしまった。
ケガレたメダルを所持することは、アスリートを侮辱することである。
新品に交換することは、河村市長へのあてつけになり、230万人都市の首長をおとしめることにより、逆に、アスリートが偉大であることを日本社会に思い知らせることになる。
3.金メダルを材料にした代理戦争
愛知県知事が再発行を言い出したため、アスリート自身「交換しなくても良い」などと言えないですね。
誰のための金メダルなのでしょうか。
「河村市長がかんだメダル “再発行を” 愛知 大村知事」(2021年8月10日 NHK)
これについて、愛知県の大村知事は、記者会見で「大変残念な事案だ。後藤選手にどう謝罪するのか、河村氏はしっかりと対応してけじめをつけてほしい」と述べました。
そのうえで「可能であればメダルを再発行してほしい。前例はないとは聞いているが、関係者とも話し合っていきたい。自分としても話していきたい」と述べました。
大村知事が言い出すと、いかにも、政治対決が本音という印象を持ちますね。金メダルを材料にした、代理戦争ですね。
4.けがれ思想に通じるメダル交換
上の記事はNHKが情報源でしたが、次は朝日新聞が情報源です。
「河村市長がかじった金メダルを交換へ 費用はIOC負担」(朝日新聞 2021年8月12日)
関係者によると、IOCの最高位のスポンサーであるトヨタ自動車側が事態を重く見て、IOC側にメダルの交換を要請。(中略)
河村市長はメダルをかんだ翌5日に「宝物を汚してしまい、配慮が足りなかった」と謝罪し、(以下省略)
金メダルを、何故、交換しなければならないのか?
誰も明言はしていない。
私が上記に記したとおり、汚れた(ケガレた)ためでしょう(推測)。
河村市長も「宝物を汚してしまい」との発言です。
このような、非科学的で、宗教性の強い発想を明言することは、発言者の知性が疑われることになります。
ゆえに、交換することだけを求め、その交換する理由(ケガレたため)をクチにしないのです。
クチにはしないものの、ケガレ思想があることは、明確です。
記事にあるとおり、トヨタ自動車がIOC側にメダルの交換を要請、ということです。
日本を代表する、科学の最先端を行く企業が、非科学的なケガレの思想を伝搬させることは残念です。
以上