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質の高い教師の確保のための環境整備

2024年(令和6年)6月14日に、同月28日を期限として、「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について (審議のまとめ)に関する意見募集(パブリックコメント)がありました。所管は文部科学省です。

パブリックコメントの入力画面
文部科学省 初等中等教育局 財務課

この「審議のまとめ」は、パブコメを受けて、7月26日に「答申(案)」へとバージョンアップしました。次の事項が掲載されています。
・更なる学校における働き方改革の在り方
・教師の処遇改善の在り方
・学校の指導・運営体制の充実の在り方


1.パブコメとしての問題点

答申(案)には次のとおり書かれています。 

「審議のまとめ」を取りまとめた後、これに対して広く国民の皆様から意見募集を行い、18,000 件を超える御意見をいただいた。このように多数の様々な御意見をいただいたことからも、今回の審議内容に対して国民の皆様が高い関心を寄せていることが改めて明らかとなった。特別部会においては、いただいた御意見も踏まえ、このたび、本答申を取りまとめるに至った

答申(案)第2ページ

でも、この答申(案)にはパブコメによる修正はほとんど入っていません。ほぼ原文のままです。
私は10個の意見を提出しました。私の意見と似たような意見は「意見募集(結果概要)」に載っていましたが、他の人の意見かもしれません。
他の人の意見が多すぎたので、埋もれてしまうのは仕方のないことです。

なので、このnoteにおいて、私見を述べます。

特に、「教職調整額」の議論が、非論理的に進められていることに異議を唱えさせていただきます。

なお、私は教育関係者ではなく、ただの、おっさんです。教育現場のことは知らず、論理だけで書いています。

 

2.公立と私立の違い

教師は、一般行政職とは異なり、「勤務形態の特殊性」があるため、時間外手当を支払う制度は不適切だ、というのが答申(案)の考え方です。
そして、従前どおり「教職調整額」を一律に支給することとするが、その額を引き上げるべし、としています。

ここで注目すべきところは、国立学校や私立学校では、「教職調整額」ではなく、時間外手当の支払いがなされているのですから、公立学校も同様の処遇ができるのではないか、という議論です(53ページ)。

なので、実は、論点は、「勤務形態の特殊性」が先ではなく、公立学校と私立学校では何が違うのか、という議論が先になる、と私は考えます。

答申(案)では、公立学校は私立に比べて多様性があると述べています(53ページ)。

公立の小・中学校等は、域内の子供たちを受け入れて教育の機会を保障しており、在籍する児童生徒等の抱える課題が多様であることなど、国立・私立学校に比して、公立の小中学校等においては相対的に多様性の高い児童生徒集団となり、より臨機応変に対応する必要性が高いこと

一方、国立学校や私立学校は、教育研究方針や建学の精神等に基づく特色ある教育を行うことを掲げており、その教育方針を踏まえて入学を希望する子供たちが選抜等を経て入学する教育機関であるという性格を有している。

中学校の生徒 1,000人当たりの公立学校、私立学校、国立学校のデータは、以下のとおり。なお、小学校や高等学校においても、おおむね同様の傾向が見られる。
特別支援学級に在籍する生徒数(令和4(2022)年度) 公立:34人、私立:0.4人、国立:3.8人
通級指導を受けている生徒数(令和3(2021)年度) 公立:9.2人、私立:0.1人、国立:0.3人
不登校生徒数(令和4(2022)年度) 公立:62.7人、私立:29人、国立:28.9人
外国人生徒数(令和4(2022)年度) 公立:9.8人、私立:5.8人、国立:1.7人

答申(案)第53ページ

答申(案)では、この多様性に対応するため、時間外手当制度ではなく、「教職調整額」制度が適切であると述べています。

多様性とは程度の問題ですが、公立と私立で数字に大きな差があるので、公立学校は多様であると言えます。

しかし、生徒が多様であることと、時間外手当制度・「教職調整額」制度の是非論とは論理的には関係無い、と私は思います。


3.勤務態様の特殊性

ここで、「勤務態様の特殊性」の議論に戻ってきて、生徒の多様性と賃金制度との関係性の議論をすることになります。
つまり、生徒が多様である場合、時間外手当制度は不適切であって、「教職調整額」制度が適切であることの是非の議論です。

私は、答申(案)(審議のまとめ)の「(2)教師の職務と勤務態様の特殊性」(50~51ページ)に関する意見を次のとおりパブコメとして提出しました。

時間外勤務命令は、時間管理に関する外形上の職務命令であって、追認とか許可という性質であり、「教師自身の自発性・創造性」が脅かされるものではありません。
教師が管理職に事前に連絡することによって、それを受けて管理職が教師あてに外形上の「職務命令」を発することは可能であり、「教師自身の自発性・創造性」は維持されます。
これによって管理職も学校業務全体を把握することができます。勤務時間管理をしないのであれば、事件・事故が発生した場合、管理職は状況を事後に知ることになり、危機管理の観点から問題です。
●「臨機応変に対応」するにしても、前例があるはずですし、毎回突発的に発生するわけではないので、「どの程度まで行うかについて」管理職に報告・相談をすれば勤務時間管理はできると思います。
●「教師の判断に基づく業務」と「指揮命令に基づく業務」を「正確に峻別することは極めて困難である」と書かれてありますが、具体例やデータが詳細に記されておらず、抽象論が前提であるため、このような結論を導き出すことは不当です。
●「精緻に切り分けて考えることは困難である」からといって切り分けること自体を放棄することは不当です。昭和の時代は切り分けが困難だったかもしれませんが、外部人材やコンピュータの活用ができるようになったこと、労働法令の順法意識の向上、時間外勤務を全くしない教員にも教職調整額が支給されるのは不公平であること、及び、ブラック労働をする教員の姿を見て育つ子供への教育的悪影響等を鑑みれば、切り分けることを前提に制度設計をするのが妥当です。
学校・教師が担う業務に係る3分類」によって切り分けてあるのですから、切り分けは可能です。

私が提出したパブコメの意見

 

「学校・教師が担う業務に係る3分類」(文部科学省)

生徒が多様であるということは、課題を抱える生徒が多いということです。しかし、課題を抱える生徒が多いことを論拠として、時間外手当制度よりも、「教職調整額」制度が適切である、とする具体的な説明は答申(案)に書かれていません。
勤務時間外に保護者に連絡・面談をしたとしても、それを管理職に報告することとして、教師に時間外手当を支給すれば良い、と私は思います。


4.部活動の不平等問題

部活動は勤務時間外なので、それに係る時間外手当を支払うよう求める意見が世間に出回っているように感じます。
部活動は生徒の立場から見れば自主的な活動ですが、顧問教師の立場から見れば教育活動の一環なので、顧問教師に賃金を支給することは妥当だと思います。
そして、その賃金を正当に支払うためには時間外手当という形が妥当だと私は思います。
顧問をしていない教師にまで一律に「教職調整額」を支給してしまうことは不当だと思います。

答申(案)には
「どのような業務をどのようにどの程度まで行うかについて、個々の教師の裁量によって判断する余地がより大きい」(51ページ)
と書かれており、これが「教職調整額」制度を必要とする論拠だとしています。

しかし、この説明は、言いたいことの結論だけを言っているにすぎません。具体的な論拠がありません。裁量判断と「教職調整額」制度とを結び付けることの論拠が書かれていません。

むしろ、裁量判断した勤務時間を管理職に報告し、それを管理職が認めた場合に時間外手当を支給する、という制度にする方が適切だ、と私は思います。

ただし、この問題は、これだけでは収まりません。

部活動顧問に賃金を支払うとした場合、その部活動をしている生徒に金銭という形で便宜を図ったという外形になります。

つまり、部活動をしていない子どもと、している子どもの間に、金銭面で教育の処遇格差が生じるのです。

もっとも、顧問教師への顧問料を支払おうが、支払わないでおこうが、子どもが受ける教育便宜は同じではあります。そういう意味で、顧問制度そのものに制度上の欠陥があります。

公共機関が、税金で集めた原資を、部活動をしている子どものためだけに支出することは不公平です。帰宅部の子どもにも税金で集めた原資(教育資源)をなんらかの形で配賦すべきです。

ただし、困難を抱える子どもへの優遇的教育支援は正当であると考えます。 

以上

#学校教育 #部活動 #働き方改革