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部活動の論点

部活動に関する論点を整理した論文を見つけました。
音楽系ですが、全ての部活動に通じています。

表題:『音楽系の部活動の今を探る中学校吹奏楽部に関する8つの所感―時間的余裕と専門的指導に余力をもち冷静に音楽と向き合える場になることを願って』
著者:新山王政和(シンザンオウ マサカズ。愛知教育大学)
収録:音楽教育実践ジャーナル/15 巻 (2017)

この論文は、次の記事で紹介されていました。


この論文に触発され、私なりに部活動の論点を以下のとおり整理しました。


1.重要な論点

(1)教育全体の中の位置付け

部活動は教育活動の一環として行われています。
「一環」という視点が重要です。
他の教育活動との相互補完の中で部活動の意義が定義されてきます。部活動単独で意義を述べることは危険です。
また、具体的な事例では特殊化している場合もあるため、一般論として議論する場合(例えば、下記のようにCopilotで回答を得る場合)と、具体的な活動の中で周辺的事情を含めて議論する場合とを分けた方が良いでしょう。


(2)発達段階

子どもの発達段階によって教育のあり方が変わります。
イメージとしては、幼稚園児を左端に位置付け、社会人を右端に位置付け、その中間に、小学生・中学生・高校生・大学生を配置し、グラデーションがあるように考えれば良いのではないでしょうか。

幼稚園児は、脳が発達しておらず未分化な状態です。
社会人は、脳が完成し各種活動が分化しています。
この中間に、小学生から大学生までがあります。
例えば、幼稚園児には教科教育も部活動も無く、それらは融合しています。

教育問題を議論する場合、どの年齢層を対象にしているのか明確にした方が良いでしょう。


2.教育的意義

学校教育は、理科や社会科などの教科教育が主になっています。
しかし、伝統的な教科教育だけでは、他者への認識や他者との協同や意見交換を学ぶ量が少ないと思います。
これを補うため、部活動には一定程度の教育的意義はあります。

2024年12月30日にWindowsパソコンに実装された人工知能Copilotに、部活動の意義について問うた回答は下記のとおりです。

しかし、この回答には注意が必要です。
既述のとおり、教育全体の中での部活動の位置付けや、発達段階、学校が有している各種資源、そして、具体的な部活動のあり方によって意義は異なってきます。

例えば、先輩のやっていることをコピー&ペーストしているだけだったり、なんら創造的な活動をしないのであれば奴隷化教育になります。これでは、将来を創り上げる若者を育てることにはなっていません。
もちろん、発達段階によりますので、対象が幼稚園児であれば、コピー&ペースト(ものまね)で良いと思います。

1. 身体的・精神的な健康の向上
部活動に参加することで、運動能力や体力が向上し、健康維持に繋がります。また、継続的なトレーニングや競技によって、精神的な強さや忍耐力も育まれます。
2. 仲間との絆の構築
チームワークや協力の重要性を学ぶ機会が増えます。同じ目標に向かって努力する仲間との絆が深まり、人間関係の構築やコミュニケーション能力の向上にも寄与します。
3. 自己規律と時間管理
定期的な練習や試合のスケジュールに従うことで、自己規律が身につきます。また、勉強との両立を図るために時間管理のスキルが求められるため、計画性や効率的な時間の使い方も学ぶことができます。
4. 成果と達成感
目標に向かって努力し、それを達成することで得られる達成感や喜びは、生徒の自信を高め、自己肯定感を育てる重要な要素です。成功体験を積むことで、次の挑戦への意欲も高まります。
5. 人間性の成長
部活動を通じて、リーダーシップや責任感、他者への配慮など、人間としての成長が促されます。多様な経験や挑戦を通じて、自己成長の機会が得られます。
6. キャリア形成の一助
特定のスポーツや芸術において優れた成果を残すことで、将来的なキャリアパスが広がることがあります。推薦入試や特待生制度など、進学や就職において有利になることもあります。

2024年12月30日、人工知能Copilotに部活動の意義について問うた回答

このCopilotによる回答は部活動を美化しすぎています。

肝心なのは、学習者を中心に考えることです。
しかし、実際には、学習者中心ではなく、「定員割れによる廃校を防ぐため」という大人の都合があるのかもしれません。


3.専門化か汎用化か

キャリア形成を考える場合、学習教育の方向性として、
専門化(Specialization)と
汎用化(Generalization)の
2個があります。

少なくとも、幼稚園児は汎用的にまんべんなく学ぶことが必要です。

その逆を考えると、大学生は専門化が良いのかな、と感じるかもしれません。少なくとも、就職してしまえば就いた職業での専門家になります。

しかし、これは若い年代だけを取り出して考えた場合です。
長い人生全体を学習期間であると考えた場合には、大学生であっても、文系や理系といったわくにとらわれずに、幅広く学んだ方が良いです。
大学4年間で専門的に学んだといっても、社会人から見れば初心者です。

あるコンピュータ会社の経営者が言っていましたが、
高等専門学校卒業者は、専門能力は高いが、そこだけだ、
4年生大学卒業者は、専門以外の経験を積んでいるので、有用だ、
ということです。

このことは地域社会に住む高齢者を観察すればわかります。
「まちづくり」を考える場合、その地域だけでしか生活をしてこなかった高齢者は、過去の町と現在の町しか知りません。なので、その2者間での比較・評価しかできません。これにより皆様がお馴染なじみの「自治会・町内会の問題」が発生します。
しかし、複数の町で住んだ経験があれば、その複数を比較・評価できますので、思考に幅が生まれます。

このことは会社経営にも言えます。
その地域でしか働いてこなかったのであれば、中間管理職までであれば成功するでしょう。
経営トップで成功するためには、東京でも働くなど複数の地域・職種・決断の経験があった方が良いでしょう。

中学生や高校生という、伸びしろが大きい時期に、1個の部活動だけにノメリ込むのは学習機会の損失です。
もっとも、周りの大人は、そのような一貫性をホメソヤシますので、学習者自身は有頂天になり、満足してしまうでしょう。そして、部活動至上主義者が再生産されていきます。
誰しもが自分が受けた教育が一番良いと考えています。
教育によって自尊心(自己肯定感)を高めてしまうことには注意が必要です。


4.その他の論点

部活動のあり方を考える場合、「専門化 or 汎用化」という論点の他に、
●学校が公立か、私立か
●部活で習得する技能が将来役に立つかどうか
●体育会系が強いか、どうか
●部活動のための専門教職員・外部指導員がいるか、いないか
●都会か、地方か
●地域社会や政治家の影響を受けるか、受けないか
●スポーツ産業などの業者の影響を受けるのかどうか
●働き方改革に照らして妥当なのか、それとも、それを考慮しないのか
●評価軸は何か
●学習者が中心なのか。廃校を回避するなど、他の目的のためか。
などの論点によって、具体的なあり方は異なってくるかもしれません。

新山王さんの論文には次のように書かれています。

吹奏楽(ブラバン)がブームのように言われているが、これらの書籍で取り上げられているものは音楽的な内容に深く触れるものは少なく、吹奏楽の活況さとは、実はメディアや音楽産業によって作り上げられたもの

「3 メディアに作り上げられた吹奏楽部」(39ページ)

この論文は音楽に関するものですが、運動部活動については「スポーツ産業によって作り上げられたもの」と言い換えができるのではないでしょうか。

どこぞの学校の教育活動を見ていると、教師自身が、教育的観点からの評価軸を持たず、メディアで報じられることを評価軸にしているのではないか、と感じてしまいます。


5.帰宅部問題

上記のような論点からの議論は盛んに行われてきたかもしれませんが、抜け落ちている論点があります。

部活動をする子どもは教育支援を受けています。

しかし、部活動をしていない子どもにとっては何もメリットがありません。

公的教育資源を差別的に配分している、と言えるのではないでしょうか。

以上

#部活動