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高校無償化 - 公平性とは何か

高校授業料無償化の議論は、
公共と民間の役割分担のあり方
公平性のあり方
に関する実務的な議論であり興味深いです。

この教育に関する話題を、教育学者ではなく、経済学者の観点から見ていきます。

結論として、日本維新の会が推進する政策を論破してしまいます。


日本経済新聞社は、47名の経済学者に高校授業料無償化に関するアンケートを実施し、その結果を公表しました。
経済学者が語るところの、公共と民間のあり方や公平性のあり方とはどのようなものでしょうか。

その前に、この無償化問題の概要を理解しておく必要があります。

私立高校には、既に、一定程度の補助金を支給してきています。現状は、補助金を出しているため一定程度まで公平性を確保しようと努力をしているものの、それでも公立と私学の差がある、という状態です。
今般の議論は、私立高校の「無償化」と呼べるような水準にまで補助金の額を増額する、という議論です。完全な「公平性」を実現しよう、という試みです。

この場合、公平とは何か、という疑問がわきます。

公立学校と私立学校とでは、スタートラインが異なります。構造が異なります。
土台が異なるため両者間に公平性があり得るのか疑義が生じますが、保護者視点で見た場合、学費が公立も私立も同一である(無償である)という点に関しては公平なのです。

保護者視点で見た場合、無償化が実現することは望ましいことです。政党政治の観点からは、この保護者からの支持を得たいところです。

しかし、国家経済という視点で見た場合、どうなるのでしょうか。




1.正論:伊藤隆敏

そもそもなぜ公立高校と私立高校が存在するのか整理する必要がある。私立高校の授業料が高いのは、付加価値の高い授業や学校生活を提供していると考えれば、その付加価値増加部分にあたるコストは私立高校生(と両親)が負担すべき。

伊藤隆敏 コロンビア大学国際関係公共政策大学院 教授専門分野:国際金融

この場合、本当に、実態として、私学は付加価値が高いのか、という検証が必要になります。

この付加価値とは、スポーツ強豪校のようなイメージであり、スポーツ競技を強くするというような付加価値だろうと考えれば良いと思います。

私学は民間企業ですから入学志願者を集めるため広告宣伝をしますが、中学生受けを狙って、広告宣伝を「盛って」華美に魅力的に演出しているのではないでしょうか。
「スポーツの強豪」というイメージは中学生にとって魅力的でしょう。
しかし、それが、その後の一生の人生にどのようなかてになっているか、子供だましなのか、教育的意義があるのか、という検証は必要です。

子供だましであれば、たとえ付加価値であっても、そのようなものに、税金で補助する必要はありません。


2.正論:岩本康志

財政補助が必要とされる根拠は最低水準の保障(平等消費)にあるので、私立校の高い授業料までを対象にする必要性がない。

岩本康志 東京大学大学院経済学研究科 教授 専門分野:公共経済学、マクロ経済学

公立学校は「最低水準の保障」であり、私立は付加価値である、という発想ですね。伊藤隆敏さんの趣旨を言葉を変えて表現しています。

最低水準を超えた部分は受益者負担になるという発想ですね。


3.正論:安田洋祐

現行の無償化案では、私立に通う家庭にばかり高額な補助金が投入されるため歪みが生じる。

安田洋祐 大阪大学経済学研究科 教授 専門分野:ゲーム理論、マーケットデザイン

正論ですね。


4.帰結

私立への支援額上限を上げようとするのは、公立高校をつぶしてすべて学校はすべて私立にし、政府は私立に資金だけ提供する、という帰結を狙っているようなもの。

高野久紀 京都大学大学院経済学研究科 准教授 専門分野:開発経済学、計量経済学

語尾に「ようなもの」とありますが、そんなやんわり言うのではなく、「狙っている」のですよ。


私立高校授業料への補助金の上限額引き上げは、公立高校への志願者減少を招く可能性がある。少子化が進む中、これにより公立高校の統廃合や募集停止といった措置が必要となるおそれがある。

笠原博幸 ブリティッシュコロンビア大学経済学部 教授 専門分野:計量経済学、国際貿易

ここで指摘してる事象は、既に大阪で現実に起こっています。


実際に大阪府ではこの政策により定員割れの公立校が多数発生している。わざわざ多額の財政支出をして公立校の質を低下させる意義が見いだせない。

渡辺安虎 東京大学大学院経済学研究科・公共政策大学院 教授 専門分野:実証ミクロ経済学、計量マーケティング

「公立校の質を低下させる」という表現は不明瞭です。「定員割れを生じさせる」という表現の方が良いでしょう。


5.異論

次の、小島さんと高久さんは「無償化」に賛成という趣旨の意見です。

公立校と私立校の間の家計負担は同程度になるのが良いように思う

小島武仁 東京大学大学院経済学研究科 教授 専門分野:マーケットデザイン、マッチング理論

3割の高校生は私学に通っており(都市部では約半数)、現状で私学進学は「富裕層の例外的選択肢」では全くない。普通の選択肢が金銭的理由で選べない場合に負の影響は小さくないと考えられるので、カバーするのが妥当と思います。

高久玲音 一橋大学大学院経済学研究科 教授 専門分野:医療経済学

これら意見の場合、公立と私立とが同等の価値を提供している、という条件が必要になります。



複数の経済学者は「補助金支給によって、私立の授業料が高くなる(値上げをする)ことになる」という趣旨を書いていますが、この副作用は今後の政策の制度設計で調整可能ではないかと個人的に感じます。


これらの議論で注意すべき点は、経済学者視点だ、ということです。
教育学者の視点からすれば異論が出るかもしれません。
だって、実際に、大阪で、これで運用しているんだもんね。



何故、高校無償化という発想が生まれたのでしょうか。
それは、大阪では、受益者負担という発想がなく、付加価値部分にまで公費でまかなう、という発想で公教育を行っているからです。部活動が顕著ですね。

以上

#高校無償化