そうしたら、こんな美しい花が咲いた
ベランダに緑を置き始めたのは、ここ数年のことです。
そう、置き始めたのです。
育て始めたわけではありません。
というのも、これは、我が家にとっては画期的な試みだったからです。
それまで、植物を上手に育てたことがなかったので、育てようなどという大それたことは最初から考えていませんでした。
気に入った絵はがきを額に入れて飾るように、ただ、植物をベランダに置いてみようと思っただけなのです。
ある意味、とても無責任な始め方です。
でも、その手軽さが、慣れないことを始めるのにはちょうど良かったのかも知れません。
あるいは、よほど世間の騒がしさに対する不安感が大きかったのか、植物の面倒をみることが、思った以上に癒やしにもなってくれたようです。
気づけば、ベランダの植物がかなりの数になっていました。天気のいい朝などは、キャンプチェアーを出して、ベランダコーヒーをしながら、緑を背景にした色とりどりの花を眺めることが、大きな楽しみになりました。
このイエギクは、確か一年前に購入したものです。
ところが、ひと冬を越して残ったのは、ところどころ、葉っぱが枯れてしまった雑草としかいいようのないものでした。
ここで完全に枯らせてはいけないと、二回り大きなプランターに植え替えたのが八月でした。
でも、植え替え後の土にうまく馴染めていないのか、しばらくは枯れるでもなく育つでもなくという状態が続きました。
やっとのことで、運良く元気をとりもどしてくれたのはいいのですが、待てど暮らせど、花が咲く気配がありません。
本当は、背が高くなり過ぎないよう、まめに剪定をする必要があったのですが、そんな知識もなく伸び放題にしていました。
花のつぼみかと期待したものはことごとく緑の葉っぱに変身していくので、これはもう、大きな春菊になるにちがいないと思ったほどです。
「あの春菊、もう捨てるしかないかな」
その頃には、元が何の花だったのかも忘れていた我が家では、その呼び方が定着していました。
そんなある日、今まで緑の葉っぱにしかならなかったつぼみが、少し赤みがかっていました。
もしやこれはっ!
と思ったのもつかの間。
あっという間に、赤い花弁の美しい花がたくさん咲き始めたのです。
それはもうものすごい勢いでした。
毎朝ベランダに出る度に、花の数も、つぼみの数も増えているのです。
今までのうっぷんを晴らすかのように、どんどん花を咲かせるこの春菊くん、いや、イエギクさんの姿に、私は涙が出そうになりました。
私:諦めなくて良かった!
イエギク:諦められてたまるかっ!
そんな言葉が私の胸の中でこだましました。
やっぱり、諦めてはいけないのです。
ここで言う諦めるとは、消極的な姿勢で、面倒になってそこから逃げ出すことを指しています。
最大限の努力をし、あらゆる方法を模索した上で、考え抜いて下す決断は、同じ諦めるでも、納得して断念することです。
逃げ出さずにいたおかげで、美しいイエギクさんに会えて、本当に良かった。
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