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絵本「ひばりに」

アリス館

大震災にあった子どもを励ますために書かれた詩と描かれた絵だということを知った上で読む方が、より深く理解できる気がします。

見開き二ページで、左に絵、右に数少ない文字という構成。

ぼくには ことばがない
きみに かける ことばがない

絵本の最初の二行

慰めようがない大きな喪失と痛みの真っ只中にいる人たちに、ことばはあまりにも無力に感じられることがあります。それが、空白にほんの数文字、力なくふわふわと浮かぶ用に印刷された文字に象徴されています。

その心許なさをそのままに、ただ、そばに寄り添おうとする気持ちが描かれている絵本です。

深い悲しみの中に沈む人のそばに静かにすわるしかない。
それがたんぽぽの花でも少し存在が強すぎる。
だから、たんぽぽのわたげになろうとしたのです。

そうすれば、悲しむ人が、それでもふと顔をあげてわたげにそっと息を吹きかけるほどの元気を出せれば、わたげは空高く舞い上がることができます。

うついむいていた人が、少し顔をあげることができたこと。
その人のいのちが自分で起こすことができた小さな風のこと。

それをつたえる郵便屋さんになろうとわたげは思うのです。

かくしきれない よろこびに
こえを つまらせながら
ひばりに はなそう

風に舞い上がったわたげのことば

私は、文字通り声をつまらせながらこのくだりを読みました。

春の象徴であるひばりが、わたげのことばに潜む思いを、さらに遠くへ高いところへ抱き上げてくれそうです。

この絵の色合いがまた、とても穏やかで、暖かさと優しさと希望が絶妙に混ざり合った風合いを出しています。

わたげからひばりに。
ひばりからまた何か別の存在に。
そうやって伝わった言葉や想いが、回り回ってわたげを飛ばした本人に届いたとき、それはなぐさめのことばよりも何倍も心強い支えになります。

直接的なことばは、時に相手を傷つけることがあります。
ことばを使わない思いやりが確かに存在することを教えてくれるお話です。

大震災にあった子どもをはげます詩。
そんな思い上がった詩は書けませんでした。
でもわたしの気持ちはつたえたくて、
詩を書けない詩を書きはじめました。

あなたのところへも、小さな風がとどきますように。

内田麟太郎氏によるあとがき




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