監理技術者配置・巡視のルール改正で現場はどこまでリモート化できるのか
こんにちは。ANDPAD ZEROの髙橋です。
今回のnoteでは、前回の佐々木の「建築基準法」の話題に引き続き、建設現場の方にとって非常に重要な法律である「建設業法」「労働安全衛生法」のルール改正について取り上げます。
2022年6月、デジタル庁が「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」を策定し、「”目視”で確認しなければならない項目」や「有資格者を現場に”専任”しなければならない項目」など、アナログと言える規制を見直すことが決められました。
建設業では、主な対象項目として「労働安全衛生法における作業場所の巡視(労働安全衛生法)」「監理技術者の専任要件の見直し(建設業法)」が取り上げられ、2024年にルール改正が行われています。
この2つのルール改正について、改めて法律の趣旨、ルール改正の経緯をお伝えするとともに、こうした改正にあたって、建設事業者として何を検討するべきなのかといった点についてもまとめていきたいと思います。
労働安全衛生法における巡視の遠隔化
建設現場は他の業界に比べて作業員の職種や出入りが非常に多く、特殊な環境が形成されていることから、毎日の現場巡視を通じて、作業間の調整が適正に行われているか、機械や設備が安全に保たれているかを確認する必要があります。
この重要性は、労働安全衛生法及び労働安全衛生規則により法令として定められています。具体的には「元請事業者は毎作業日に少なくとも1回巡視を行うことが必要である」とされており、これは現場の安全管理の基本的な要件とされています。さらにこの法令は、「元方事業者による建設現場安全管理指針」にも反映されており、「その場で指導し改善を求めることも必要」と記載されています。このように、建設現場の巡視は、基本的には事業者が現場に出向くことが前提となっています。
しかし、現在の建設業界の深刻な人手不足を鑑みると、毎日現場に出向いつつ従来以上の現場巡視を行うことは、事業者にとって物理的に難しくなっていきます。
このような状況下で、巡視のあり方について再考する必要性が高まってきました。
アナログ規制見直しへの対応
「作業場所の巡視」については、冒頭にお話したとおり、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」の1項目として位置づけられ、2024年6月までに「情報収集の遠隔化、人による評価」が行える状態にすることが求められました。これを受けて、労働安全衛生法の所管省庁である厚生労働省は、安全衛生水準の低下を招かないことを原則としつつ、ウェアラブルカメラなどのデジタル技術を活用した巡視が可能となるよう、告示や通知・通達の発出を計画しました。
具体的には、建設業労働災害防止協会に設置された「ICTを活用した労働災害防止対策のあり方に関する検討委員会」のもとに作業部会(WG)が設置され、ヒアリング等に基づく報告書が令和6年3月に取りまとめられました。報告書では、遠隔巡視が可能な場合があることが明確化され、ウェアラブルカメラ等のデジタル技術の活用を許容する一方で、依然としてアナログ的な要素も残されていることが挙げられます。
検討結果の概要
作業部会(WG)での検討結果は以下のようなものとなります。
・遠隔巡視の導入: 直接巡視が必要とされる場合以外は、遠隔巡視を導入可能とする。
・カメラの使用: モバイルカメラの使用を基本とし、必要に応じて定点カメラを併用する。
・直接現場巡視: 安全な作業工程の確認や現場作業員のモチベーション向上のため、リスクの高い作業でない限り、週1回は直接巡視を行うこと。
・初日の巡視: 工期が1週間未満でも、工期の初日は直接巡視を行うこと。
・定点カメラの活用: 死角がない工程であれば、定点カメラのみの巡視も許可する。
・データ保存: 遠隔巡視に係る映像等のデータを一定期間保存すること。
・安全対策: スマートフォンを持ったままの移動は禁じるべきである。
・協力体制: カメラ装着等に協力する関係請負人は、安全衛生責任者が望ましい。
令和6年6月の通知発出
厚生労働省は令和6年6月に、デジタル技術を活用した巡視に関する通知を発出しました。この通知は、建設業労働災害防止協会の検討結果を受けたもので、内容はシンプルでありながらも重要な指針を提供しています。
通知の概要:
・作業場所の安全衛生水準が低下しないよう留意し、遠隔巡視が的確に実施可能な場合に限る。
・元方事業者が常駐する場合や重大なリスクがある作業時には、目視による巡視が適当。
・週1回の目視による巡視を推奨。
・双方向のコミュニケーションが円滑に行えること。
・遠隔巡視に関する合意や機器については、検討報告書を参考に対応。
毎日の現場巡視が求められていたところから、週1回の現場巡視が認められるようになったことは、大きな見直しと言えるでしょう。しかし、現場数の多い工期が1週間未満の工事や1日で終わる軽微な工事の場合、依然として現場巡視が必要とされるため、アナログ規制の見直しには限界があると指摘されます。
監理技術者等専任要件の見直し
続いて、「監理技術者の専任要件の見直し(建設業法)」について、そもそもの監理技術者等の配置のルール、実際に行われた見直しの内容、さらに今後の注目点を段階的に解説していきます。
監理技術者等の配置要件と課題
建設業法第26条によれば、建設業者は技術上の責任者として監理技術者等を配置する義務があります。特に、請負金額が4000万円(建築一式工事の場合は8000万円)以上の工事では、監理技術者等を”専任”で配置する必要があります。
しかし、建設従事者の高齢化や入職者不足等も踏まえ、専任要件を満たすための技術者確保が難しい事業者が増えていくことも事実です。
こうした背景から、監理技術者等の配置に関して専任要件の見直しが求められるようになりました。さらに、ICT技術の進歩により施工管理業務の効率化が進み、リモート環境が整備されていることから、兼任を可能とする規制の合理化が期待されています。
アナログ規制見直しへの対応
「工事現場における主任技術者・監理技術者の専任」は、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」に基づいて、2024年6月までに「情報収集の遠隔化、人による評価」が可能な状態にすることが求められています。これを受けて、国土交通省は建設業法、関連法令の改正を進めています。
このプランは、デジタル技術の進化に対応しつつ、建設業界が抱える人手不足の問題に対処するためのものです。特に、ICT技術を活用した施工管理が進む中で、現場の状況をリアルタイムで把握し、安全性を確保するために、専任要件の見直しが必要だとされています。
令和6年6月に行われた建設業法の改正
アナログ規制見直しを含む改正建設業法は、令和6年6月に衆議院で可決され、その後参議院でも可決されました。改正建設業法は令和6年12月から運用が開始される予定であり、詳細な兼任要件は現在国土交通省で議論されています。
また、この法改正では、衆参両院の付帯決議において「技術者の専任要件については、関係団体の意見も踏まえて必要に応じて見直しを行うこと」という文言が盛り込まれました。今後の議論や運用において、常に発展を続けるICT技術に合わせて要件を見直す重要性があると言えるでしょう。
現在検討されている兼任要件
12月の運用に向けて、現在、国土交通省で検討されている兼任要件には以下のようなポイントがあります。
・工事請負金額: いずれも1億円未満(建築一式工事は2億円未満)の工事を兼務できる。
・リアルタイムの通信環境: 監理技術者等と各現場間で、現場の状況確認と意思疎通ができる音声・映像の送受信が可能であること。
・現場間の距離: 各現場が1日に巡回可能な範囲に存在すること(移動が2時間程度で可能な距離)。
・連絡要員の配置: 1年以上の実務経験を有する連絡要員を配置すること。
・下請次数の制限: 当該建設業者からの下請次数が3次以内であること。
改正建設業法の第26条第3項ただし書により、兼任化が可能となるものの、対象となる工事の要件は検討段階であり、実際に運用する際には適用しやすいものにする必要があります。工事請負金額や下請次数の上限、連絡要員の必要性など、現場やICT技術の発展に応じた要件の見直しが求められるでしょう。
社内運用のポイントと注意点
ここまでお話した2つのルール改正のみならず、昨今のICT技術の進歩も踏まえると、これからの建設現場では、デジタル技術を積極的に活用することが不可欠です。といっても、遠隔巡視や遠隔臨場といった現場監理の遠隔化に取り組めていない事業者の方も少なくない中、今後以下の3点が非常に重要な留意点であると考えています。
①情報共有の徹底
現場の遠隔管理を進める上でリアルタイムでの情報共有が肝となります。遠隔からでも意思疎通が可能となるようウェアラブルカメラなどのリアルタイム通信はもちろん、日頃からの連絡体制や資料や情報の共有なども紙・電話・FAXから、アプリケーションやクラウド利用などに移行していくことで運用が効率化するのではないでしょうか。
②法令遵守と更新の確認
政府の規制や法令が改正されるたびに、社内の運用体制も見直す必要があります。最近ではインボイス制度や改正電子帳簿保存法、労働時間上限規制への対応に苦労されている事業者の方も多いと思います。また、2025年には改正建築基準法や改正建築省エネ法の施行により、4号特例のルール変更や省エネ適判の対象拡大などへの対応が必要になってきます。
政府からの通達や業界団体・企業のセミナーなどにアンテナを向け、定期的に法令の確認を行い、適切な対応を続けることが求められます。
③自社での運用体制の見直し
①に挙げたデジタル化の体制構築や、②に挙げた法令確認をもとに、社内での運用体制を見直していくことも非常に重要だと考えています。
例えば、今回の建設業法改正により専任が必要な現場の兼任化が認められたところですが、一方、専任が必要ではない現場に対する技術者配置の最適化にも取り組むことが重要です。特に1人の有資格者が複数の現場の主任技術者になっている場合、どの業務をリモート化できるのか、どの業務は現地での確認が必要なのか、といったことを洗い出し、社内での運用体制を見直すことで業務の効率化が図られるのではないでしょうか。
まとめ
2つのルール改正について、改めて法律の趣旨、ルール改正の経緯をお伝えするとともに、こうした法改正にあたって、建設事業者として何を検討するべきなのかといった点についてまとめましたがいかがでしたでしょうか。
法令や法改正など、小難しい話も多かったかと思いますが、建設業においても法令遵守は不可欠ですので、ぜひ適切に理解するとともに、最適な運用を検討する機会となれば幸いです。
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最後になりますが、ANDPAD ZERO noteも今回で50投稿目となりました!皆さまあたたかく応援くださりありがとうございます!
引き続きANDPAD ZERO noteをよろしくお願いいたします。
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