漫画『ルリドラゴン』第1巻の対比するシーンからルリたちの心情を考える
※『ルリドラゴン』コミックス第1巻のネタバレを含みます。ご注意ください。
『ルリドラゴン』のルリが、ユカが、お母さんが、登場人物の1人ひとりが非常に愛おしい。ルリの通う学校のクラスメイトや家族と高校時代を過ごしてみたいと思ってしまったほど、コミックス第1巻のエピソードからは不安を抱くルリをあたたかく包み込むような登場人物のやさしさを覚えた。
キャラクターの魅力もさることながら、本作の演出には気になる点がいくつか見られた。本稿では『ルリドラゴン』第1巻における構造や要素を振り返りながら、本作の魅力について考察したい。
第1話と第3~5話で対照的なルリの行動
物語の主人公は女子高生「青木ルリ」。登校前に歯磨きをするルリはあたまに生えたツノの存在に気づく。学校で目立ってしまうことを心配しつつ登校すると、案の定クラスメイトの視線を集め注目の的となってしまう。第1巻では周りと自分が異なることなどに不安を抱くルリが様々な登場人物と交流する様子が描かれる。
第1話ではツノが生えたことに気づき登校したルリの1日が描かれ、第3~5話では1週間ぶりに登校したルリの1日が描かれる。そんな第1話と第3~5話では類似する点が多い。
その例として、どちらの1日もルリは友人のユカと共に登校している点や、登校直後にルリはクラスメイトの視線を集めてしまう点、放課後にユカとチャットアプリで連絡を取る点が挙げられる。ふたつの1日には類似する出来事がいくつか存在しているものの、なかには対照的に描かれているものも存在する。
例えばどちらの1日もルリはクラスメイトと写真を撮るのだが、第1話ではクラスメイトである宮下さん・三倉さんがルリに写真の撮影をお願いしているものの、第4話ではルリが宮下さん・三倉さんに写真の撮影をお願いしている。また第1話ではユカがルリにチャットアプリでメッセージを送っていたが、第4話ではルリがユカにメッセージを送っている点も対照的だ。
上記は第4話の出来事であるが、第4話でルリはユカに悩みを打ち明けつつ、同級生・神代さんに勉強を教えてもらい、宮下さん・三倉さんも加え神代さんたちとオシャレな人が集う(ルリ談)カフェへ行くこととなる。第1話と第4話を比べた際の2つの対比は、神代さんたちに対してルリが抱く心情の変化、そしてユカに対するルリの気持ちの表れを示しているのかもしれない。
第3~5話におけるルリとクラスメイトの変化
前項では第1話と第3~5話で対比するシーンを挙げたが、第3~5話で描かれた1日のなかでも対となるシーンはいくつか存在する。
そのひとつが自宅でゲームをするシーンだ。第3話ではルリは「(学校へ)行きたくな~~~い」と嘆きながらひとりで携帯ゲームをしているが、第5話では1日を終えて帰宅したルリと彼女の母親が一緒にTVゲームをする。
また第3話の冒頭には窓から陽の光が差すシーンが描かれているが、第5話の終盤(ルリが1週間ぶりに登校した日の翌朝)では窓ガラスに雨が降りつける様子が描かれている。
前項で挙げた対比するシーンと同様に、登校前の空模様の違いもルリの心境の変化を映している可能性があるだろう。現に第3話の晴れた日に玄関の扉を開けるルリと、第5話の雨が降る日に玄関の扉を開けるルリが描かれる画の構図は一致しているなか、ルリの表情は対照的に描かれている。
対照的なルリの姿と共に、この日はクラスメイトの様子も少し変化する。
第3話ではルリが登校するとクラスメイトのほとんどは彼女に視線を向け、(第1話と同様に)ルリの周りには多くの生徒が集まった。ただ第3話の中盤でルリは“自身がドラゴンであること”を明かすと、第4話の授業外の時間ではクラスメイトの多くはルリに背を向け、ルリ以外の生徒と過ごすようになった。
第3話と第4話における光景の対比は、ルリに対するクラスメイトの心情の変化を表しているのかもしれない。もちろん、その変化がルリに対する関心の薄れなのか、目立ちたくないと思うルリへの気遣いなのかは定かではない。ただツノの生えたルリが小さく描かれクラスメイトのなかに紛れる第3話最後のコマは、作中ではじめてルリが教室のなかに溶け込むことができた瞬間であったと感じる。
思春期を迎えた少年少女たちの抱く心情の繊細な揺れ動きから生まれる、行動や表情の変化を丁寧に描いた『ルリドラゴン』。描写から登場人物1人ひとりに確かな心の存在を感じるからこそ、彼ら彼女らに大きな愛おしさを覚えるであろう。
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