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冷気が苦手(うたかたの日々)

 2020年4月13日

 電車に揺られて帰っている。
 朝、次男を保育園に連れて行く。雨がずいぶんと降っていたので、身体中が雨で濡れた。次男は冷たい雨を浴びて、楽しそうにはしゃぐ。『かいじゅたちのいるところ』のマックスくんみたい。水たまりを見つければ、水たまりに入り、段差を見つければ登って跳ねる。隙間をみたら、体を入れないと気がすまない。雨の日は疲れる。

 通勤の電車、さすがに人の数は減っている。読みかけの『自然は導く』を読みはじめる。眠くなってきたので、スマートフォンを取り出して、noteに日記を書いた。『人類600万年史』のことを書いたら、荒ぶる感情を抑えることができず、保留にした。下書きに眠る。

 会社のオンラインストアを開設したい。開設の準備をしないといけないのに、売上の減少幅をシミュレーションしてばかりいる。エクセルに明け暮れ、オンラインストアには手が回らない。電話も鳴るし、会議もあるし、あたふたあたふた。相変わらずに要領が悪い。生まれてこの方、要領とやらにお会いできた試しがない。今さら悲観はしないが、要領の良い人を見かけると妬むし、嫉む。それから僻む。
 こういう時期はなおさら、要領の良い人間になってみたいと思うのだ。

 17:00に会社を出る。この時間、本屋へ行きたくなってしまう。どこの本屋も臨時休業をしている。本屋さんに会いたい、でも会えない。これは恋ではなくて痛み。
 外へ出たら本降りの雨。ビルの管理人さんが入り口の床にたまった水を雑巾で拭いていた。すごい雨ですね、というと、ずっと今日はこんなだよ、気をつけてね、と返してくれた。

 次から次へと雨の波紋が道に出来ては消える。すごい雨だし、冷たくて寒い。少々の雨なら走りに行こうと思っていたが、今日はやめておく。
 いつもなら、雨が降った日はクライミングのシムへ行く。ジムのスタッフにもお客さんにも会いたい、でも会えない。これも恋ではなく痛み。

 家の中へ入る前に寝室を見やった。長男はレゴブロックに囲まれていた。クッションの上にだらっと乗せられた両足は、色白の肌を丈の短いズボンからはみ出てさせていた。彼は目を見開いて、おかえり、というと自分の作ったベンチを見せてくれた。午前中にベランダで作ったらしい。
 カーテンを閉める間際に外を見る。太陽はすでに沈んでいるので暗い、雨はさらに強くなっているようだった。風も冷たく、ベランダの草花は元気がない。シューゲイザーみたいだ。冷気は植物を参らせてしまう。

『うたかたの日々』 早川書房 ボリス・ヴィアン

 右肺に睡蓮の花が巣食い、彼女の肺を壊していく。彼女の病を診た医者は、山へ行った方が良い、という。冷気が睡蓮を参らせてしまうから、と。
 裕福な家の青年が、綺麗で繊細な少女と出会い、恋に落ちる。すぐさま2人は結婚をする。ほどなく少女は特異な病を患う。
  
 『うたかたの日々』は2013年にロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ主演でミシェル・ゴンドリーが映画化をしたらしい。(1968年、2001年にも映画化はされている。)
 ミシェル・ゴンドリー。ああビョークの人ね、と思う私は、時代においてけぼり。たまに若い子と遊ぶと、若い子、と言う自分にしっくりくるくらい、時代に置いてけぼり。
 長男が生まれてから、映画はクレヨンしんちゃんかドラえもんくらいしか追わないし。
 当然、その映画は見ていない。たぶん去年くらいに知った。地球がすでに5周は回ってる。
 
 ボリス・ヴィアンを知ったのも、最近のことで、30歳前半くらいだったと思う。なにをきっかけで知ったのかは覚えてない。
 BOOK TRUCK で見つけた『ぼくはくたばりたくない』を買ったのは覚えているから、2012年よりは昔のようだ。

 ハーレクイン小説にはこの手の恋愛小説が溢れているのに、SF的な手法と詩的なイメージの描写によって、唯一無二の恋愛小説へと導いていく。ボリス・ヴィアンにしかこんなことは出来ない。
 あらすじを紹介したら凡庸でつまらなさそうだし、詳細まで説明したら無粋だ。

 新種の肺病が流行ってる。睡蓮の花が咲くことはないだろうが、周りを花で取り囲んでみてもいいかもしれない。悪さしてるやつらがおっかながる、みたいだから。

 ミシェル・ゴンドリーが『かいじゅたちのいるところ』を撮ったと思っていたら、スパイク・ジョーンズだった。彼らの撮ったPVに魅せられた時代ももうはるかに過去。
 どっちがどっちかも分からなくなってしまうなんて日が来るなんて思わなかった。
 
 冷気は苦手。
 今日は寒いので、早く寝ようと思う。

 

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