おとなしくて目立たないようにしてきた女子が、「妖怪大魔王」の役をやって変わった話
小さな頃、私はおとなしくて、いじめられっ子で、よく泣いていた。
目立つとさらにいじめられるっぽいとわかってからは、目立たないほうが良いと解釈した。足が遅いから鬼ごっこはずっと鬼でも仕方ないけど、鬼じゃない時は目立たない場所で逃げよう。ひっそりと、無難に、出る杭にはならないように。
いろいろあっても、そんなふうにして、小学校の高学年まできた。高学年にもなるとみんな精神的に落ち着き、平和に過ごせていた。
転換点
そしてクラス単位の学芸会で、西遊記をやることになった。私は、無難に村娘とかかな、と思っていた。そうしたら母が、こういった。
「普通なんて、つまんない」
「ママがやるなら悪役だな、だって現実世界ではできないんだから」
確かにそうか、と思った素直な私は、深く考えずに悪役に立候補した。
それは「妖怪大魔王」という役。
今から約30年前、「大魔王」というネーミングの役を、女の子がやるという話はなかなか聞かなかった。立候補した時は、心臓がバクバクした。
女なのに、っていう声もどこからか聞こえたような気がした。
他には男の子がひとり立候補していたので、オーディションをすることになった。台本を読んで、そのあと多数決。相手の男子は何度もつっかかっていたし、ひいき目に見ても、「読み方」は私の方が上手だった。
そして多数決…
見渡すと、ほぼ同数。やっぱり男子の方が迫力が出るからとか、いろんな理由があっただろう。
1,2,3・・・・先生が数えたら、ほんとうに僅かな差で私が妖怪大魔王に決まった。
やってみたら
結果、面白いしエキサイティングだった。人生にこんなに面白いことってあるんだと思った。自分じゃない人になれる体験。性別も超えた。親に言われて立候補してみただけだけど、知らないことをやってみると、新しい世界が見えるんだと知った。
そしてもうひとつ気づいたことがある。自分で立候補しなかったら、おとなしい私を「妖怪大魔王」に推薦する人なんて絶対に現れなかったということ。
あれ?目立たないことをよしとしてきたのに、正反対。おかしいなと思いながらも、普段は目立たず、これぞと言うときだけ妙に張り切る人になった。
本気で欲しいと思ったものは、気になるレベルでも自分で意思表示することが大事らしい。だいたい欲しいものなんて、自分の目に見えているとは限らない。だからちょっと気になることはなんでもやってみればいいんだ。
以来、欲しいものは、自分から取りに行く姿勢になった。
恋愛でもそうだし、就職でもそうだった。
欲しいものは、とにかく自分からとりにいく。
本気で伝えたいことは、絶対にどうにかして伝える方法を探す。
逆に、欲しくないものは、はっきりと断る。
想いが強すぎて、一日中同じ曲を、何週間もピアノで弾き続けて心配されたり。中学校の頃はただ想いを伝えたいためだけに、親にバレずに一人で夜行バスに乗って伝えに行く方法を考えたり…そんなことばっかりやってるから、もちろん失敗もある。フライングもある。
でも、差し出された選択肢から選ぶより、自分から選択肢を探して掴みに行く方が絶対にいい。もっというなら、一番欲しい選択肢を自分で創り出したい。
今の時代、なんだって創り出せると思うから。