「栗山と鎌倉」地域を越えた人材育成プロジェクト
こんにちは、「〇〇と鎌倉」の狩野です。
地域間交流をテーマとした活動を4年ほど続ける中で、特に可能性を感じているのが、地域間交流を通じた教育や人材育成の分野です。
昨年の募集時から気になっていた、北海道栗山町とファブラボ鎌倉が進めている地域越境型開拓プロジェクト。
こちら、北海道栗山町が地域施策の一つとして立ち上げた「ものづくりDIY工房」のスタッフ研修を1年間ファブラボ鎌倉で行うという、地域を越えた人材育成プロジェクトです。地域おこし協力隊として採用されたスタッフは、1年間の鎌倉研修を経て、栗山町の工房運営や、新設する工房のコンセプトづくり、スタッフ育成などを行います。
昨年10月より1年間、鎌倉で暮らしながら学び、この11月に栗山町に戻る岡佑樹さんと土山俊樹さんのお二人に、お話を聞きました。
札幌出身の土山さん(左)、横浜出身の岡さん(右)
お二人がこのプロジェクトに参加した経緯を教えてください。
土山:僕は札幌出身で、札幌の大学を卒業後、市内のファブ工房で働いていました。栗山町でDIY工房をつくるプロジェクトが立ち上がった際、役場の担当者が工房に相談に来たり、栗山町に機械のメンテナンスに行ったりと、ゆるやかなつながりがありました。実際に応募を決めたのは募集内容を見てですが、会員向けにサービスを提供するだけでなく、地域に寄り添い、まちの人と一緒に地域課題を解決していくようなファブラボ鎌倉のあり方にとても興味を持ちました。また、ファブアカデミーという、世界で初めて市民工房を作ったMITの教授によるオンライン講義を受けられるため、自分自身のスキルアップが期待できることも大きな動機でした。
2人が1年間通ったファブラボ鎌倉
岡:私は横浜出身で、横浜の大学を卒業後、インターネット広告の仕事を経て海外留学しました。当初は、新しいテクノロジーの勉強をしてキュレーションの仕事をやりたかったのですが、徐々に興味がDIYのものづくりに移っていき、それが今の仕事につながっています。帰国後就職しましたが、利益追求型のスタイルに馴染めなかったので、半年間ハローワークの制度を使って沖縄のポリテックセンターに通いました。そこで基板にプログラミングを入れ込む技術を身につけました。
都市部での暮らしが長かった私にとって、地域コミュニティとのつながりを感じる沖縄の暮らしはとても心地良く、そういったこともふまえて仕事を探す中で出会ったのが今回の募集でした。
― 1年間の研修を経て、どんなことを得ましたか?
土山:以前クリエイター向けのファブ工房で働いていたこともあり、レーザーカッターなど工作機械の使い方は一通りわかっていたのですが、この一年で電子回路の基板を自分で組めるようになりました。その結果、例えば同じアクセサリーでも、工芸的なものづくりから、リモコンで変色するアクセサリーのような、製造業的なものづくりにシフトした実感があります。自分の技術力が上がってできることが増えた結果、ものづくりへの視点が明らかに変わって、何でも自分で作れるんじゃないかという自信がつきました(笑)。
土山さんが作った光るアクセサリー「光彩」
岡:僕は土山さんと反対で、基板づくりの知識はあったのですが、研修前まで工作機械は使えませんでした。ファブアカデミーやファブラボ鎌倉の山本さんの指導を通じて、基板づくりについてもかなり深くまで学べた実感はあります。
↑かまくらのコンピューターおじちゃんことファブラボ鎌倉の山本さん
土山:山本さんは、何を聞いても答えてもらえるという安心感があって、ラボにそういう存在がいることはとても重要だという気づきはありました。研修を通じて全国のファブスペース運営者とのネットワークができたことも、この1年の大きな収穫です。栗山町に戻っても、ファブラボ鎌倉はもちろん、各地に相談相手がいることはとても心強いです。
― 栗山町では、この後どんなことをするのですか?
土山:2023年に栗山町に完成予定の観光施設のキーコンテンツとして、新しい工房をつくる予定です。それまでに、工房の基本サービスをつくったり、スタッフを育てておかなければなりません。12000人規模の地域で、どんな工房をつくれるのか、ファブラボ鎌倉の代表・渡辺ゆうかさんに相談しながらビジネスモデルの組み立てを行っています。
個人的に、北海道コンプレックスが強いこともあり、栗山町の子どもたちが北海道にいながら、鎌倉の子どもたちと同じように多様な経験ができる機会を作りたいと思っています。カマクラビットラボのような子ども向けプログラムはすぐにでもやりたいです。
二人がファブラボ鎌倉で実施した子ども向けプログラム
岡:新しい工房は、当初お土産づくりのような、町のPRコンテンツをつくる場として考えられていたのですが、地域の人材育成を担ったり、もう少し地域コミュニティに開かれた工房にしたいなと思い始めています。
ものづくりを通じて関係人口・交流人口を増やすこともできると思っているので、観光や移住・定住のきっかけにファブラボ栗山がなれたら理想ですね。外の人と中の人がつながる、まさに「〇〇と鎌倉」のような場のイメージです。
土山:ファブラボ鎌倉は、日本で最初のファブラボであり、ファブシティ宣言からもわかるように、しっかりとしたビジョンを持って運営している特別な存在です。そこで学んだ僕らが、栗山町で何をできるのかプレッシャーも感じています。ここまでしてもらってラボを作るというのは日本で初めてのケースだと思うので。
岡:ファブラボ鎌倉というだけで、温かく受け入れてもらえる土壌が出来上がっていて、ゆうかさんたちが築き上げたものの偉大さを強く感じる一年でしたね。だからこそ、栗山町に行ったら、鎌倉にも何かを返せたらいいなとは思っています。地域の課題という点では、規模的に鎌倉より栗山町の方が向き合いやすい可能性もあるので、私たちが実験した結果を鎌倉にフィードバックできるような関係を目指したいです。
土山:本当にそうですね。鎌倉と北海道、地域を超えてラボ同士が一緒にプロジェクトをやるようなこともしたいですね。
― 鎌倉で暮らして、変わったことはありますか?
土山:マインドセットは大きく変わりました。鎌倉で暮らしている人は、劣等感がないというか、自分に自信を持っている人が多い気がします。早起きしてサーフィンしたり、海沿いを走ったりしてから仕事に行ったり、素敵なライフスタイルを送っているからなのか(笑)。ここで暮らしているだけで、自分まで自信がつく特別な地域だなと思いました。
岡:僕は横浜で生まれ育ったので、鎌倉には何度も来ているのですが、実際に暮らしてみてコミュニティの強さには驚きました。仲間意識が強いのか、お店同士のコラボレーションなども多いですよね。
コロナで閉ざされた時間が長かったので仕方ないのですが、自分たちで放課後倶楽部を立ち上げたり、鎌倉の地域コミュニティの中に入ってもっと色々試してみたかったです。
土山:栗山町は札幌から車で1時間なのですが、これまでは遠いなぁと思っていました。でも、鎌倉あたりだとおもしろいイベントがあると、平気で1時間以上かけて来るんですよね。おもしろいコンテンツさえ作れれば、栗山町にもチャンスはたくさんあると思いました。鎌倉で暮らしてみて、面白い人がいるから面白い人が集まるんだなというのも実感したので、栗山町でも、栗山町でもファブ工房を起点に、そういった流れを作れたらいいなと思っています。
岡:鎌倉には定期的に学びを兼ねて戻って来たいと思っています。鎌倉の人たちにも、ぜひ栗山町に遊びにきてほしいですね。
― 本日は、ありがとうございました。
オリジナルの変身ベルトを装着して。真ん中がファブラボ鎌倉代表の渡辺ゆうかさん。
北海道栗山町の地域おこし協力隊が、鎌倉で1年間暮らしながら研修を受ける、という私たちが「阿久根と鎌倉」で構想していたような地域を超えた人材育成のしくみ。
このプロジェクトは、ファブラボ鎌倉が技術や知識を得るために最高の環境であることに加え、「地域における工房のあり方」を学ぶことができる稀有な工房であるというのも大きなポイントだと思いました。地域それぞれ特性は違えど、コミュニティとの関わり方を運営側で体感できることは、岡さん、土山さんにとって貴重なロールプレイングの機会ですよね。
鎌倉での暮らしを通じて距離の感覚やマインドセットが変わったという話がありましたが、その地域特有の空気感や常識のようなものはどこにでもあって、感覚的に染み付いているものです。これまでの自分にとっての当たり前を疑い、新たな視点や感覚をインストールできることは、地域を越えたプロジェクトの大きな副産物かもしれません。
二人は栗山町に戻りましたが、ファブラボ鎌倉のサポートは続きます。地域を越えたプロジェクト、今後の展開を楽しみにしています。