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世界初!京急電鉄×シナスタジア「オープントップXR観光バスツアー@横浜」開発の裏側

京浜急行電鉄株式会社、東洋観光株式会社、株式会社シナスタジア、株式会社サムライインキュベート4社による、VRやAR技術を活用して横浜の魅力を発信する「オープントップXR観光バスツアー@横浜」(2021年6月26・27日)が行われました。

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大好評に終わったバスツアーですが、なぜこの企画が生まれたのか。今回は開発に携わったシナスタジア・有年氏、京急電鉄・野元氏の対談を開催。共創に至った経緯や目的、XRの技術、これからの展望などを京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査の野元 淳さん(以下、野元)株式会社シナスタジア 代表取締役社長 有年 亮博さん(以下、有年)へAND ON SHINAGAWA運営事務局のサムライインキュベートが伺いました。

京急電鉄×シナスタジア 共創に至った経緯

サムライインキュベート(以下省略):みなさん本日は、よろしくお願いします!京急さん(以下、企業の敬称略)は色々なオープンイノベーションに取り組まれていますが、この取り組みを知ってもらう上で、改めてその全貌を簡単に教えてください!

野元:弊社のオープンイノベーションでは、モビリティを軸として豊かなライフスタイルを創出することをビジョンとし活動に取り組んでおります。

実現のための施策は主に3つです。

1つ目は、コミュニティ・コワーキングスペースである「AND ON SHINAGAWA」の運営です。AND ONには弊社の事業隆起であるモビリティ、ライフスタイル分野を中心としたスタートアップ起業、大企業、自治体など多くのプレーヤーに参画いただいていますのでN対Nで新たなイノベーションを起こせるようさまざまな施策を打っているところです。

2つ目は、シナスタジアとの共創のきっかけにもなったアクセラレータープログラムです。こちらはサムライインキュベートの支援のもと過去3回、合計約400社の応募がありました。その中から、全部で22社の採択を行い、PoCや共同事業の立ち上げなどスタートアップと一緒に行っています。

3つ目は、サムライインキュベート6号ファンドに出資、ファンドを通じたスタートアップの紹介、それを通じた共創も進めています。

これらの施策は別個のものでなく相互に関連しており、例えばAND ONで接点ができたスタートアップを当社のアクセラレーターにソーシングし一緒に社会実装する。同じくAND ONがきっかけで、サムライインキュベートのファンドからもスタートアップに出資していただいています。3つが密接に関連し、オープンイノベーションやスタートアップエコシステムを構築しているといえます。

京急がシナスタジアと共創したきっかけはアクセラレータープログラムからでしたね!

野元さん

野元:はい、シナスタジアさんは第3期アクセラレーターでご応募いただき、昨年度よりご一緒しています。弊社が交通事業者として移動自体に付加価値をつけたいという課題を抱えていたところ、「移動体験の新たな価値創出」「街全体をテーマパーク化することでの観光資源の創出」という、まさに合致する提案がありました。

技術的にも唯一無二であり、共創により新たな未来が作れると採択した次第です。

今回の共創事例では、京急本社だけではなくグループ会社の東洋観光を中心に取り組まれている印象がありました。京急グループとして取り組まれることは多いのでしょうか?

野元:はい。今回のシナスタジアさんとの取組みに関しては、グループ会社でバス運行をしている東洋観光にもコミットしてもらったという状況です。それにより、さらに実現に近づきました。

京急電鉄単体ではアセットやリソースが限られてしまう、さらにグループ全体として中長期の戦略を考えると、京急グループ全体でオープンイノベーションに取り組む必要があると考えています。ですので、他の採択企業との共創についても、積極的にグループ会社に入ってもらっています。

なるほど。共創のなかでそれぞれどう思っていたか教えていただけますか。

野元:私はアクセラの途中から担当になったため、最初はシナスタジアさんの技術を体験したことがなかったため、絵に描いた餅のような疑心暗鬼の気持ちで進めていた部分もありました。しかし、年明けから3月の実証に向けて進めていくなかで、圧倒的な技術力の高さを体験し、シナスタジアさんとご一緒することで面白いものが作れると思うようになりました。

神奈川県や観光庁の公募事業なども積極的に活用するなど、ビジネスの進め方にも長けていて、素晴らしいスタートアップだと思っております。

あとは有年さんのお人柄です。コミュニケーション能力もコアな知識もお持ちで、人として尊敬でき、一緒に取り組むことが率直に楽しいと感じています。

有年:ありがたいです(笑)。私は、京急さんは大企業ながら、非常に挑戦的にイノベーション創出に取り組まれている印象を受けました。また、知り合いのベンチャーの方々からも、京急さんは非常にお付き合いしやすい企業様だとよく耳にします。

「知覚革命で人々を幸せにする」技術とは

シナスタジアのミッションやビジョンなど教えてください。

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有年:弊社は「知覚革命で人々を幸せにする」ことをミッションとして掲げています。情報革命と呼ばれるこれまでのインターネットの普及は、情報の民主化といえます。一部の特権階級しか持ちえなかった情報や地球の裏側の情報が、あらゆる人々に平等に分配されるというブレイクスルーでした。

今後は、そうした情報だけでなく、さらに五感体験がデジタル化され、民主化される時代が来ると私たちは考えています。視覚・聴覚・触覚に加え、最近では味覚もある程度のレベルまでデジタル化されて来ました。今後は嗅覚情報もさらにデジタル化が進むと期待されています。そうすると、いずれ地球の裏側の空気感や匂い、一部の特権階級しか味わえなかった体験自体がインターネットを通じ平等に分配される時代が来るだろうと私たちは考え、それを知覚革命と呼んでいます。

そのなかで私たちは「移動体験の新たな価値創出」をビジョンとして掲げ、これまでただの手段でしかなかった移動自体を目的とした新しい体験付加価値を作ることを目標に、VR技術・AR技術・自動運転技術などを組み合わせた新たな旅客・観光サービスの開発に挑戦しています。

横浜三塔

今回のXRバス観光体験は、世界初の取り組みでした。有年さんが研究されてきた自動運転とXR技術に親和性はありますか。

有年:私がコアに研究していたのは、自動運転技術のなかでも特に、位置推定技術に関連する領域です。自動運転車・ドローン・自立歩行ロボットなどは、高精度かつ低遅延で自分がどこに居るのかを計算しなければいけません。

スマホで自分の位置を把握する時などにはGPS情報が主に利用されますが、GPS情報だけでは精度に限界があり、数十m〜100mほどの誤差が生じることもあります。仮に自動運転車が100mほど位置を誤認識して走ったらすぐに事故が起きてしまいます。

そこで、そうした三次元空間内での自分の位置情報を数cm〜最大でも10cm程度の誤差でセンシング・計算するための技術が重要になります。こうした位置情報技術は自動運転だけでなく、VR、AR技術にも活用できます。スマホカメラをかざしたときに、周囲の景色にぴったりと重なるバーチャルなAR映像を表示する時などにも必要な技術です。

そうした三次元空間内で自分がどこにいるのかを認識する技術は、XRの分野でも自動運転の分野でも、根本的に共通しています。そうした位置情報技術を活用し、観光バスなど乗り物の移動情報と高度に連動させることで、乗り物の移動や周囲の景色と連動した没入感のあるXR体験を実現させています。

クジラ

シナスタジア_センシング技術

今回の観光体験というテーマでいうと、自分の車の位置だけなく、周りの物体も認識をして同時に進める技術ですね。世界的にもそのような技術を日常生活に実装しているのは、まだ珍しいのでしょうか。

有年:三次元空間をコンピューターが人間と同じように処理するための技術の研究・開発は、学術研究の世界でも今盛んに行われています。その反面、まだまだ研究段階で、社会実装され広く普及するレベルに至っていない部分もあります。

弊社では、大学院で最先端の研究を行いながらも、そうした技術の実サービスへの実装も得意としているメンバーが集まり、これまでにない新たな付加価値サービスの普及に向けて挑戦しています。

街全体をテーマパークにという机上の空論を実現するまで

XR体験の販売に際し、京急の社内外の反応はいかがでしたか。

野元:15時に売り出しを開始したのですが即完売、追加販売した分もその日に完売でした。完売するとは思っていたのですが、即日完売は予想外だったため、嬉しい反響でしたね。

この実証や販売に弊社の社長も期待を寄せており、即日完売を大変喜んでおりました。社長が外部にもこの取り組みを広めていこうとアクションをおこしていたり、リリース等を見ていただいたいろいろな企業様からもお声かけいただくようになり、当初私が予想していた以上の反響があります。

有年さんはいかがでしたか?

有年:弊社的には、ある程度想定通りの反応でした。当初京急さんから頂いたご意見と照らし合わせると、少し挑戦的な価格設定ではありましたが、必ず売れるという自信がありました。今回弊社では敢えてほとんど宣伝活動を行っておらず、Twitterで京急さんが発信されたものを私がリツイートしただけです。

それでも即完売するという結果を示せれば、京急さん社内でもこの事業に対する見方が変わるだろうというと考えていました。京急さんとして想定されている以上の反響があったことで、京急さんもアクションスピードをより加速して下さったなと感じており、非常に嬉しく思っています。

それだけこの取り組みに注目度が高かった、スタートの時から半ば成功が見えていた事業だったのですね。

有年:他に類を見ない新しいサービスではありますが、それなりの反響は想定内でした。ただ、私たちベンチャーの立場からは実現できると信じられても、京急さん側からすると机上の空論がどこまで本当に実現するのか、ある程度懐疑的ではあったと思います。大企業様として、慎重に事業開発を進めたい考えは当然です。そうした中で、今回の結果は、弊社の描く未来がただの絵空事でなく、十分に実現可能なものであると京急さんにもより実感して頂き、さらにもう一歩前に踏み出して頂くための良い機会だったと捉えています。

実現させる過程で障害と感じたことはありますか?

有年:弊社は技術開発力に関しては一定の自負がありますが、一方でそうした技術を活用したサービスの開発に於いては、一定品質以上のサービスに落とし込むまでに、単純な技術力とはまた別種の難しさがあります。そうした課題を完璧には解決出来ていない状態のまま、それでもなお挑戦的な価格設定での販売に踏み切る判断を行った裏には、企業としてすでに確立された信用のある京急さんとして、一定のリスクであったと捉えており、言い換えれば挑戦的なトライアルにお付き合い頂いたと認識しています。

未成熟のサービスを、それでも実証的に販売するという決断は、大企業様には勇気のいる決断だと思います。(京急さんの)原田社長が自らサービスを直接体験され、そうした判断に乗り切ってくださったことは大きかったですね。

今年3月に原田社長自らご体験頂いて以降、トップダウンでゴーサインを出して頂き、事業協創スピードが大きく変わったと感じていますし、本気で新規事業開発に取り組まれようという強い意思を感じました。そうした積極的・挑戦的姿勢に、私たちベンチャーも負けていられないなと背筋が伸びる思いです。

野元:あまり取り組みで褒められることはないので、そういっていただけると非常にありがたいです(笑)。

さらなる観光体験を拡張していきたい

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イノベーション自体が難しいなか、規模が違う会社が共創するにあたり色々な問題があったと思います。そのなかでベンチャーに目線を合わせ、リスクを抱えつつカードを切る度量があったのは京急ならではですね。お話を伺い、信頼関係が垣間見えました。最後の質問ですが、今後の展開・展望など教えてください。

有年:引き続き、観光バスにおけるXR体験サービス開発を行って参ります。次に観光における回遊中の体験だけでなく、各観光地の点での体験を新しい移動手段により面的により密接に結びつけ、観光バスの乗り降りの前後でもさらに一貫性のある体験ができるような観光商品にしていきたいと考えています。

もう一つはバスに限らず、電車など京急が持つモビリティでも同じ技術を活用・展開して、より観光体験を拡張していきたいと考えています。

野元:来年度以降のことについては、シナスタジアさんと適宜議論をさせていただいています。

まずは今回のXRバス体験を、三浦半島など当社線沿線の別の場所で開催することを考えています。また、沿線に限らず、全国でバスの事業者の方にエリア展開するのも展望のひとつです。電車・タクシー・船などを含め他のモビリティへの展開も考えられます。その時には今回のサービスをなんらかの形でパッケージ化してそれを全国に販売、日本中に移動型テーマパークを作ることを実現したいと思っています。

ありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。

野元:シナスタジアさんとの取り組みはアクセラをきっかけに事業化に向けて共創できている一つの成功事例だと思っております。当社とシナスタジアの間に入ってベターな方向に導いていただいているサムライインキュベートのお力添えがあったからこそだと思っています。

有年:野元さんの仰る通り、大企業様である京急さんと弊社のようなベンチャー企業との間にどうしても存在するコミュニケーションギャップを埋め、取り持っていただいたのはサムライさんの力があってこそだと感じています。ありがとうございました。

私たちもAND ON SHINAGAWAを盛り上げることもシナスタジアさんとの協業のサポートも引き続きご一緒させていただきます!本日は貴重な機会をありがとうございました!


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