アップマン マグナム54
着火。
2022/11現在、日本では希少となりつつあるキューバシガー。キューバ産葉巻の流通が壊滅してもう一年になろうか。
葉巻強国であるヨーロッパ各国においても気軽には手に入らないらしく、原産国キューバにおいてもそれは同様のようだ。
自然、火を付けるのはドミニカ、ニカラグア産に偏り、葉巻のロールスロイスと呼ばれるダビドフに随分とお世話になっている。
ダビドフは優秀だ。
どれを喫っても完璧なドロー、品質管理が徹底されたクリーミーでシルキーな味わい、ラッパーの美しさ、流石一流の銘柄だと感心する。
しかしながら完璧に馴染めば馴染むほど、元々の性格が大雑把な私としてはなにか物足らなくなってくる。
荒々しく、土の香りが濃厚で、時折、品質管理がザルに感じるようなキューバシガーが猛烈に恋しくなるのである。そう、キューバの葉巻工場でおばちゃんトリセドールが適当に巻いた絵が浮かぶような。
モンテクリスト、パルタガス、パンチ、ボリバー、ロメフリ、ララナガ。
良好な雑味を孕んだスパイス、煙の森深くにふと見つける甘み、顕著な変化を感じ、どっしりと浮遊していく感覚。ああ、フィデルに感謝を。
燃えて地層のように重なって行く灰を眺めながら、近づいてくるラベルに手をかける。
始まれば終わってしまうごく当たり前の事を毎回のように惜しみつつ、いずれ来たる寂寞までの思考旅行を愉しむ。
あらゆる煙草を喫うがシガレットでは到底届くことのできないニコチントリップの醍醐味を、喫煙者一同しっかりと確かめるべきである。
義務にしてもよい。
ふと、遅ればせながら先日シーシャというものを初体験した。
せっかくなのでとCBDもトッピングして2時間ばかしの時間、思ったより心地よくこれはこれで良いものだと感じたが、やはり葉巻で到達できる深さまでは潜れなかった。
葉巻とは原始的な煙草の形である。
文明が進むにつれ時間を惜しみ、より楽に手軽に形を変えて行き、今の5分足らずでニコチンを摂取するシガレットになった。
決して悪いことではないが、楽に愉しむという事は本来の楽しさを手放して行くことである。
車はATの方が楽だが、MTの方が圧倒的に楽しい。
現代人の我々は、時間に追われている錯覚に焦燥する精神病を患っている。
反面、葉巻を喫うという無駄な行為こそが、その精神病に対して高い薬効を持つという事をこの文章の結末としておく。
流石のアップマン。
無骨かつ華やかなシガーでした。