読書のススメ
新年あけましておめでとうございます。旧年中は「AND BOOKS」へのご来店、誠にありがとうございました。今年はもう少し楽な生活を送りたいと思っておりますので、さらなるご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。
さて、新年といえば何か目標を立てたり、新しいことを始めたりしがちだ。例えば日記を書き始めるとか、運動を始めるとか、それらは自分の生活を向上させようとする表れなのだから、何にせよ一歩踏み出すことは素晴らしい。ちなみに私が立てた目標は「無駄遣いをしない」だ。一見小学生のようだが、小商いを営む者にはとても大切なことだ。
何かを始めたいが決めかねている人には、ズバリ読書をお勧めする。読書はちょっと、と敬遠するなかれ。普段本を読まない人は、本を買ったからには最初から最後まで全部読まなくてはならない、との強迫観念にとらわれているような気がする。全部読み切れるかしら、と行く先の長さを考えて尻込みをしてしまうのだと思う。こう考えると、実は本を読まない人ほど読書に対して真面目なのかもしれない。でも大丈夫、もしつまらなければ読むのをやめればいいのだ。いわゆる「積ん読」にして寝かせておけば、時間や経験を経ていつかまた読みたくなる時が訪れるはずだから。
とっかかりとして、まずはエッセーを読むことをオススメする。エッセーは長くても数ページで完結する。毎晩ベッドに入って、眠りにつくまでの時間で少しずつ読み進められる。いつもスマホの画面を眺めている時間を少し本に変換するだけで、より良い生活になることだろう。なんなら睡眠の質も向上しそうだ。
スタートは、贔屓の俳優や芸人が好きと言っている作家が良い。その人の文章が違和感なく読めれば相性がいいはずだから、次は小説を読んでみると良い。そうして一人でも好きな作家ができれば、あとは枝葉のように自然と読書世界が広がっていくはずだ。
作家の人となりを知るのも読書の動機になり得る。私が今読みたいと思っているのが「石川淳」の作品だ。彼は昭和初期の作家なのだが、先日読んだ『知識人99人の死に方』(荒俣宏監修)で知ったエピソードが面白かった。それは飼い犬と写っている写真のキャプションで、こう書かれていた。
「戯れているのは石川が溺愛した飼い犬。メスなのに名前は“ぼうや”だった」
溺愛しているのに名前がテキトーという。いや、溺愛のあまり性別を超越してしまったと考えるべきか。彼について調べてさらに驚いた。冒険に関する著作が好きで読んでいた、カメラマンの石川直樹氏の祖父であることが分かったのだ。こんな自分だけが感動する小さな偶然に出合えるのも読書の良いところだ。
と、ここまで書いてハタと思った。今この文章を読んでくれているあなたは普段から読書を楽しんでいると思われ、読書をしない人はそもそもこれさえも読まないのだろうから、もしかしてこの提案は意味ないんじゃあないかい?
デーリー東北新聞社提供
2023年1月11日紙面「ふみづくえ」掲載