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元禄の光と翳: 朝日文左衛門の体験した「大変」 大下武
元禄関東大震災、宝永大地震、富士山噴火、そのとき江戸時代の人たちは…。次々に訪れる難局に対し、冷静に対応し切り抜けてきた江戸時代人の知恵と態度を、『鸚鵡籠中記』の世界から学びとる。
元禄
江戸時代, 元禄 年間を中心として第5代 将軍 徳川綱吉 が治めた 約 30年間(1680〜1709年)をいう。
元禄時代にあった出来事
●1698年 (元禄11年)■江戸大火(勅額火事)
●1702年 (元禄15年)■赤穂浪士討ち入り
●1703年 (元禄16年)■江戸開府100年
●1705年 (宝永2年)■御蔭参り流行
●1707年 (宝永4年)■富士山噴火
芝居
朝日文左衛門は武士に珍しく芝居見物が生涯の楽しみであった。
日記に載る芝居の記事を丹念に数えると、元禄四年閏八月二日の操り(人形浄瑠璃)から死の前年享保二年10月12日まで、計143回と記されている。
初めて芝居見物に出かけたのは、元禄5年5月18日のことで「予、若宮にて操りを見る」と淡泊に記されている。
数えの19歳今でいう高校三年生か大学一年生。
いたって素朴な記述であった。
しかしその後4日連続で芝居見物している。
明神(赤塚神妙社)以外はすべて若宮の同じ舞台で、、完全に「操りの」世界に嵌っていることがわかる。
10日の記事の末尾などは、感激のあまり意味不明の言葉が並ぶ。
藩士の芝居見物は、原則禁止である。享保16年(1731)に七代藩主宗春は、先代の継友が出した「諸士並びに帯刀の輩の芝居見物禁止」を解いて人々を驚かせたが、それまでは藩士が公然と芝居見物をすればとがめられたのである。
朝日文左衛門重章は当時家督を継ぐ前だが、それでも見つかれば上役から父が叱責され、彼は父から𠮟られた。
いずれにせよ名誉なことではない。だから人目をはばかり、特に両親のめをはばかった。
杉村あたりで人形浄瑠璃が催された時などは、魚釣りと称して出かけた文左衛門は帰宅後ウソがばれて、こっぴどく叱られている。
歩いて一里半もある御器所msで、わざわざ見に来るのは余程の芝居狂いしかいないと思われるかもしれないが、文左衛門はせっせと通っていた。
芥子川氏によると、「女子高生がコインロッカーへ制服を預けて盛り場へ行くのに似ている」と評されているが、まずそんなところだろう。
芝居見物に行くときは法華寺に徘徊し、ただちに散歩道をゆき、真福寺に行く、ひとまず様子を窺い七ツ寺の茶屋に入る。
そこで「なら茶」なるものを食す、今でいう軽食のようなもの。
多いときは五杯食べることもあった、あきらかに食べすぎ。
ある日などは手違いから、帰宅するとこっぴどく叱らている。
文左衛門男お気に入りの演目は「心中もの」であった。
文左衛門は心中事件と聞くと居ても立ってもいられなくなるらしく、近くな現場へ飛んで行くところだが、御器所ではいささか遠すぎる。
好奇心旺盛なことに加え、当時芝居の心中ものに嵌ったことが影響しているのだろう。
富士山噴火(宝永四年(1707年)、旧暦の11月23日)
宝永の大地震の49日後富士山が噴火した。
江戸では風邪が流行った、灰や砂が原因で、気管支がやられ風邪をひきやすくなったのだ。
流行りに貴賎は関係なく、尾張の殿さまも他の大名も軒並み喉をやられ、
出仕日の登城も普段の3分の1程度であったらしい。
江戸に入る八里ほど手前から、砂が降り始めたという。
暇な人がいたとみえて、庭の坪あたりの積砂量を升で計ったところ、三升5合になったという。
計算してみると、江戸の町では夜中に2ミリも積もったことになる。
11月23日の噴火から12月9日噴火が収まるまで、江戸で降り積もった灰は15cmと伝えらている。
元禄地震
主人の鎗持ちは哀れであった。
運悪く、太く重い虹梁の下敷きになった。さらにその上に屋根材や瓦がのるから、とても二人、三人では動かせない。若党の新之右衛門は鑓持ちに「念仏を唱えよ」ときっぱり言い渡し覚悟を決めさせた。冷たいようだが、妙に期待を持たすようなことはしない。
やがて、火が迫り、鑓もちは焼死した。
「時代」を感じさせる。
残酷な優しさだ。
他にも絵島事件(文左衛門の大好物)、将軍になれなかった尾張藩主、新井白石悪い奴の話が、とても面白かったです。
300年前の方の日記であるのですが、やはり心構えが違うので、物事に対する対応に無駄がない。
諦める所は潔く諦めるし、努力を決しておしまない。
「えっ?どうして?」という所もあるが、でも、潔い。
とにもかくにも潔い。
今の日本に必要なことかもしれない。
面白かったです。
この本んはおすすめです。
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