見出し画像

こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚 稲田豊史

本書は、離婚を経験した男女(多くは男性)たちに、離婚に至るまでの経緯や顛末を聞いたルポルタージュである。
離婚そのものは、最終的には当事者同士の相性の問題だ。それは間違いない。しかし取材を重ねるうち、こう感じるようになった。

「社会の構造が離婚を促進させた側面もあるのではないか?」
離婚はその人の人生をあぶり出すだけでなく、その時点での社会のありようまでも可視化する。離婚で、社会が見える。

「社会の構造が離婚を促進させた側面もあるのではないか?」
著者が感じた疑問。

 この本の取材では元夫婦のどちらか一方にしか話を聞いていない。
「片方だけの言い分を聞くのは不公平ではないか、自分に都合よく捏造している、あるいは話を盛っているかもしれない」

 この本は語りの真偽をジャッジすることを目的としていない。
 
 語られる離婚に至った話を、淡々と記してあるだけ。
だが、それでも十分読みごたえがある。

 イライラするのが殆どだが、結婚、離婚というものに一石投じる重みは十分ある。


 この本の中で書かれている言葉。
「結婚の際、先方に釣書や親族書を用意させろ」

 釣書 
 内容は主に自分のプロフィール。 分かりやすく言うと、面接を受けるときに渡す履歴書のようなもの。

親族書 
 三親等にあたる叔父(伯父)や叔母(伯母)、そして兄弟姉妹の子どものめいやおいを記載するのが基本です。とはいえ、一緒に住んでいない祖父母や兄弟姉妹も親族書の方に記載することがありますので、両家で親族書の記載を揃えるよう話し合う。



 シュレーディンガーの猫
 オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの思考実験。
 「箱の中に入っている猫が生きているか死んでいるかは、観察者が箱を開けたときに決定する」

 無論、箱を開けない事には猫を見ることはできないが、開けるという「関与」によって初めて猫の状態が決定される。


 本文中に息子の離婚の報告に、父が息子にかけた言葉。

 「地位が上がれば上がるほど謙虚であれ。今まで以上に勉強しろ。部下と酒を飲んでも本音が聞けるなんて思うな。お前は若手たちにとって『会社側』の人間なんだから、その壁が超えられるなんて思うな、目下の人間には与えられるだけ与えろ。何かか返ってくるなんて期待するな。もし与えられたものの100分の1でも返ってきたら上等だ」

 「成熟した大人の夫婦が話し合いを重ねてその結論に至ったのだろうから、お前の決断は尊重する。人生は長く、一度しかない。我慢して残りの人生を不本意な相手と過ごすよりは、早く人生の再スタートを切って欲しい。母さんも同じ意見だ」

 とても素晴らしい言葉だと思いました。


 読んでいて不思議なのは、
「結婚したら変わるかも?」とか
「子供が出来れば変わるかも」
「再婚したら次は大丈夫」

 という根拠のない期待だ。

 人間はそんなに簡単に、結婚で変わるとも思えない。
だが、この本の中の方たちは「結婚」に希望を持つ。

 結婚でうまくいく場合もあると思う、でもこの本の中の方たちは上手くいかなかった。

 それでも、成長したと思えたらいいのに、ほとんどがうまくいかないし、懲りてない。

 だからこそ、読みごたえがある。
反面教師でいてもらえるように、生きたいと思いました。

 この本はおすすめです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?