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お母さんらは凄いなと思うなどをする

 その日のおもちは5枚ほどのジャンパーを一生懸命抱えていた。

 今度仕事で参加しなければいけないイベントのスタッフ用ジャンパーで、サイズ確認のために我が部署の野郎ども(一部)とおもちに着せるため事務局から借りたものであった。
 自分の分だけでも先にサイズ確認するか、とごそごそジャンパーをいじるおもちのもとに昼休憩を終えたボスが近づいてきた。

「お、ジャンパー来たんだ」「来ました!(`・ω・´)」

 ジャンパーを羽織りながら頷くおもちにボスはふむふむと頷き返した。あとでボスにも着てもらわねば、と自分の着ているジャンパーの丈を確認しているとボスのすぐ後に事務室に戻ってきた先輩が目を輝かせていた。

「でたそれ」
「サイズ確認用です」
「俺も着る」
「??????(先輩)さんが着る意味全くないけど????」

 先輩は当日のイベントスタッフではないのでまっっっっっったく着る必要はないのだがなぜか着る気満々だった。なんならすでに手に取っていた。行動はええ。
 Lサイズを着てみた先輩はやや丈が短かったのか首を傾げてから「ねえ、小さい」と文句を垂れながらLLサイズに袖を通していた。「俺LLで」
 もはや突っ込むのすら面倒になったおもちは先輩を放置して当日出勤予定の別の先輩とボスに「(先輩)さんのサイズはどうでもいいから着てみてください」と促していた。
 もう一人の先輩(ベビースモーカー)はMサイズを試してからLサイズを着てみてなぜか気に入ったのかそのまま仕事し始めていた。ボスはヘビスモ先輩の電話対応を終わるのを待っていた。
 そんなやりとりをしてから手元のジャケットが少ないことに気づく。
 どこいった、と辺りを見てからすぐに見つける。今日はすでに帰宅した人の机(先輩の隣)に無造作に放られていた。
 ……いやいいんだけど、いいんだけどさぁ。なんかさあ。
 何も言わずにジャンパーを回収し始めるおもちにさすがに悪いとでも思ったのか先輩は、

「ほったらかしちゃった」
「……借りもんなんだけど一応」
「だって俺畳めないもん」

そう、先日のファイル失踪事件もそうなのだけど、先輩、恐ろしいくらい整理整頓の類ができない。
 本人曰く「母親がやってくれてたから」だそうで(そしておそらく今は奥様がやっている)、いやおもちも決して整理整頓得意ではないのだけど、自分以上のヘタクソを見たことがこれまでの人生なかったから、全く未知の生命体として先輩と接している節がある。
 まあとはいえおもちも慣れたもんで、適当に流しながらジャンパーをとりあえず畳んだ。

 そんなおもちを同期がじーっと見つめていた。

「? 同期くんも着たかった?」
「いや……」

 おもちが首を傾げると同期はやや躊躇いがちに、

「可哀想だなって思って……」

 そんな同期のどストレート発言に顔を上げたおもちは大層元気よく、

「そう! ほんとにね!」

 元凶は楽しそうにしていた。多分私はまたこれをやらされる。反省してないもんこいつ。
 世のお母さんは凄い、本当に。私は猛烈に殴りたくなったのに。いや産んだ覚えがなさすぎる40歳児相手だから悪いんだなきっと。
 つくづくうちの家人はいい奴だなと思った。


【おまけ】

 畳んだジャンパーを抱えて席に戻るとMサイズを着てみていたボスが首を傾げていた。

「やっぱりちょっと小さいですかね」
「だねぇ」
「Lはヘビスモさん着てるし……LL着てみます?」

 そんなおもちの言葉に目を丸くしたボスは、

「いやせっかく畳んでくれたのに……」

 ボス、私の隣でニヤニヤしてるやつに聞こえるようにもっかいおっきい声で言って。

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