黒いブラウスを買ったんだ
「てかそのブラウスめちゃくちゃいいっすよね」
わちゃわちゃと仕事の話をしてから、会社の後輩がふと何気なくそんなことを言った。
おもちは小首を傾げながら「これ?」と自分の着ていた黒いブラウスを摘んでみせた。
「そう、先週も色濃いの着てましたよね、いい感じ」
この後輩はとても感受性が高くて、自分の感想を言語化して伝えてくれる素直さがあって、そのどストレート感情表現が結構嬉しいし羨ましい。
おもちがニコニコしながら「ね、これね、思い切って黒いの買ってみたから嬉しくて着てんの」と返すと後輩も嬉しそうに笑った。いい奴。
さて、おもちの会社、今までは女性には制服があるタイプの会社だったのだけど、今年から廃止になって、スーツでの通勤となったのだった。
オフィスカジュアル、ではなくあくまでもスーツ。どこまでが許される範囲かわからず、しかも同部署に同じ立場の女性もおらず、困り果て、4月のおもちはとりあえず無難な白いブラウスを何枚か買って着まわしていた。
でも周りを見ると結構カラフルで、羨ましくなったおもちは夏は結構いろんな色を買って試してみた。といってもラベンダーや黄色、黄緑のパステル系が多くて色味が暗いブラウスはあまり着ていなかった。ちなみに黄色のブラウスは先輩からは「オムライスみたい」という評価を得た。
夏はカラフルになりたくなる。なんとなく。
そんな夏も終わそうになり、そろそろ寒くなってきたなーとスーツを新調しに行くと黒いブラウスが目についた。
黒いブラウス、着てみたいなーと思ってしまった。ちょっと袖口が細くなったタイプのブラウスで、気付いたら買っていた。
早速着てみた。着てみて旦那に見せてみた。「可愛い〜」ちなみに旦那はおもちが何着ても可愛いとしか言わない。
「まあおもちちゃん可愛いからな」
「そうだね」
相変わらずのおもち全肯定マン。
なんならこのやりとり毎日やってる。けど日々可愛くないと言われてるおもちには全肯定旦那はちょうど良いのだった。自己肯定のバランスを取るな。
後輩に褒められたのはそんなやりとりの後だったので今日は肯定多めでいい日だなと思った。しかもあとからボスに褒められてさらにいい日だった。たまにあるボーナスデー。
そんなやりとりから数日後、またそのブラウスを着ていた日。
「そのブラウスいいよね」
給湯室で、奮発して買ったジャスミンティーのティーパック突っ込んだマグカップにお湯を注いでいたらそんな言葉を投げかけられた。
びっくりして振り返ったら私の宿敵、ことおもちを以前蹴りやがった先輩がいた。
ちなみにこの先輩、さすがというべきか、オムライスの件も含め、身なりのことは本当によく気付く。髪の毛ちょっとアレンジすると「どうやってんの?」だし。娘さんがいるのもあるんだろうけど、ちょっと感心する。さすがに休日飲みに行ったときにアイシャドウ緑にしたの言われたときはちょっと引いたけど。(いつもブラウン系)引くな先輩だぞ。
閑話休題。普段からおもちのことを「可愛くねえ」「褒めたくねえ」などとのたまう先輩の言葉にクソほどびっくりしてから、「えへへ、みんな褒めてくれるんですこのブラウス」
「うん、いいよね、金田一のオペラ座の殺人みたいで」
それは知らんけども。
たまにこういう自己肯定のバグというか、褒められイベントが発生するとびっくりするくらいウキウキしてしまう。
だから普段は会社のクソさとバランス取るために旦那に肯定してもらってるけど。天秤が褒められに傾くと素直に嬉しい。ちょっとビビるけど。
こんなこと言ったけど、先輩もこんな時があるんだなあとちょっと思った。反省。
まあ、先日サザエさんの出身大学のこと「企画モノみたい」とか言いやがったのですぐこの評価取り消しになったけど。やっぱりこの人、会社のクソの部分を担っている。
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