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頸部の三角

この記事は解剖学を学ぶ医学生向けです。
全て教科書通りの記載なので真新しいことはないですが、次の「頸動脈三角へのアプローチ」のnoteへの導入の意味も含め書いていきます。


頸部の三角とは

解剖学の定期試験でのひとつのヤマであるが、なぜこれを学ぶ必要があるのか。それは「臨床で重要だから」に尽きる。ただ臨床を知らないとなかなかにその重要性がわかりづらい。一例を挙げると、中心静脈カテーテル挿入という手技がある。これは、高カロリー輸液など必要な場合に前腕の静脈からの点滴投与では浸透圧により血管が傷んでしまう→ならば内頸静脈など太い静脈からカテーテルを挿入すればよい、というもので何科であろうと必須の知識・スキルである。

じゃあここで問題。たとえば誰かの頸部をみて、どこに内頸静脈があるかイメージできる? 近年は中心静脈カテーテルは超音波(エコー)でみながら穿刺挿入するのが常識になってきたけど、そもそも場所がイメージできてないと超音波プローブ当てる場所わからないよね。

あくまでこれは一例。前置きが長くなったが、以下とりあえず順にみていこう。

頸部の部位 region と 三角 triangle

これはどの教科書にも載っている有名な図だ。そして、「教科書によって書いてあることが違う!どっちをテストで書けば良いの?」という問題に毎年何人かは必ず直面するが、それはregionとtriangleの概念の違いによる。
 まず三角 triangleを考える前に部位 regionを考えてみよう。

頸部は、胸鎖乳突筋・僧帽筋を指標として4つの部位 regionに分けられる。すなわち、A. 前頸部、B. 胸鎖乳突筋部、C. 外側頸三角部、D. 後頸部、である。Bはそのまんま胸鎖乳突筋のエリアで、Dは僧帽筋のエリア、すなわち頸部のうしろがわ全体となる。Aは胸鎖乳突筋よりも前側のエリア(要は頸部の前面)、Cは胸鎖乳突筋と僧帽筋の間のエリアである。そして、AとCは筋・骨・正中線によってさらにいくつかの三角 triangleに区分される。三角の名称と、そこに観察される代表的な構造物を一部列挙すると、

①顎下三角   :顎下腺、顔面動静脈、舌下神経
②オトガイ下三角:オトガイ下リンパ節
③頸動脈三角  :総頸動脈、内頸静脈、迷走神経
④筋三角    :舌骨下筋群や甲状腺
⑤後頭三角   :副神経や頸神経叢の枝
⑥肩甲舌骨三角 :鎖骨下動静脈
⑦胸鎖乳突筋三角:内頸静脈

である。ちなみに、①~④をまとめて前頸三角、⑤+⑥をまとめて後頸三角と呼ぶ。ここで、前頸部 Anterior cervical region の中に①~④が、外側頸三角部 Lateral cervical region の中に⑤~⑥が含まれていることがわかると思う(厳密には三角の一辺は筋肉の縁であり筋肉本体に含まないのだが、おおまかな理解としては前頸部(のうち正中線で区切った左右片側)=前頸三角外側頸三角部=後頸三角、の理解で差し支えない)。ではなぜ「教科書によって書いてあることが違う!」ということが起こりうるのか。

これは、外側頸三角部 Lateral cervical region を、外側頸三角 triangleとしばしば誤って記載してあることに起因する。あともうひとつ混乱しやすいポイントとして、前頸部=前頸三角なのに、後頸部=後頸三角とはならない 点も今一度確認しよう。なので、しばしば学生が直面する「テストで三角を書けって問題出たら後頸三角か外側頸三角かどっちを書けばいいの?」の答えは、「外側頸三角部 regionは三角 triangleではないよね」となる。この点をクリアすればあとは覚えるだけだから頑張ってね。

ちなみに、⑤後頭三角は後頭部でないのになんでそんな名称があるのかと思った人も多いと思う。これは、三角の頂点を後頭動脈(外頸動脈の枝)が通ることに起因している。

なお冒頭で述べた「内頸静脈穿刺の場所」であるが、結局はエコーみながら穿刺することにはなるのだが、おおまかには胸鎖乳突筋三角の頂点(胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭が合流するところ)あたりから正中線とおおよそ平行方向に胸部方向に穿刺すればだいたい当たる(患者を仰臥位にさせ医者は患者の頭側から手技を行う)。詳しくは穿刺するときに指導医に教わってください。

おわりに

以上が頸部の三角についてのおおまかなまとめである。足りない部分は各自成書を確認されたい。これをふまえたうえで次のnote「頸動脈三角へのアプローチ」では、実際に手術で頚動脈三角にアプローチするときに確認すべき構造を学習し、派生知識として外頸動脈の枝、脳硬膜の栄養動脈、頸神経叢、喉頭の筋肉、などもまとめて勉強していこう。noteを読んでいろいろな局所の知識がつながっていき、定期試験や卒後に受けるであろう専門医試験に役立ててもらえれば幸いである。

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