頸動脈三角へのアプローチ
もともとは脳神経外科専門医試験の対策講義を担当していた経験を活かし、それを書籍化するのは色々面倒 → とりあえず気軽にはじめようというのがnoteをはじめたきっかけです。専門医試験といえども医学生レベルの知識で解ける問題も多く、今回の目的としては頸動脈三角内の動脈や神経が理解できればそれでおしまい(高確率で出題される!、なのに案外間違える人も少なくない)ですが、せっかくなのでそこから派生した事項も医学生でもわかるように書いたので知識の整理に役立ててもらえればと思います。
なお、医学生の勉強にもなるようなnoteにすべくあくまでも解剖学的知識にフォーカスしており、手術操作については触れていません。また、note表示したスマホ片手に自分の好みの図譜をみながら使ってほしいので、イラストは最小限しか載せてません。悪しからず。
(医学生へ:脳神経外科は脳の手術だけでなく、脊髄や末梢神経など全身の神経に関わる部位や、頭蓋方面に分布する血管など、文字通り頭から手足まで全身の手術をする科なのです。頸動脈三角ももちろんそのひとつです。)
頸動脈三角に至るまで
皮切を胸鎖乳突筋前縁に沿って置くとして、その前に知識として覚えるべきは、胸鎖乳突筋後縁のErb's point(エルプ点)から出てくる頸神経叢の皮枝、すなわち大耳介神経、小後頭神経、頸横神経、鎖骨上神経である。このうち大耳介神経が時として頸動脈三角内の術野の妨げとなることがある。
さて、皮切ののち皮下に広頸筋ならびに浅頸筋膜(≒皮下脂肪)が出現する。それらの深層に進むと、深頸筋膜(狭義の頸筋膜)の浅葉に覆われた胸鎖乳突筋などの筋が確認される。さらにその深層が頸動脈三角内であり、頸動脈鞘に覆われた頸動脈、内頸静脈、迷走神経が確認される。ちなみに頸動脈鞘は深頸筋膜の浅葉・気管前葉・椎前葉の3成分ともから線維を受け構成されている。
前のnote(頸部の三角)と重複するが、今いちど頸動脈三角の構成を確認しておこう。胸鎖乳突筋前縁・顎二腹筋の後腹・肩甲舌骨筋の上腹で囲まれた③の領域が頸動脈三角である。
顎二腹筋は舌骨上筋群の1つで、肩甲舌骨筋は舌骨下筋群の1つである。舌骨下筋群の働きにより開口運動時に舌骨の位置が固定され舌骨上筋群の働き(開口)を補助するが、要は舌骨上筋群も下筋群もいずれも「くちを開ける」のに使われる筋肉という理解でとりあえずはよい。各群とも4つずつ筋肉があるのでその支配神経とともにまとめると、
舌骨上筋群:顎舌骨筋(CNⅤ)、顎二腹筋(前腹-CNⅤ、後腹-CNⅦ)、茎突舌骨筋(CNⅦ)、オトガイ舌骨筋(CNⅫ)、
舌骨下筋群:胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋、甲状舌骨筋、肩甲舌骨筋(いずれも頸神経ワナ支配)
(※CN:Cranial Nerveの略)
念のため確認だが、「くちを閉じる」のに使われる筋肉は、口唇を閉じるのは口輪筋(CNⅦ)、顎を閉じるのは咀嚼筋(いずれもCNⅤ支配)であるので整理して覚えておこう。
(※咀嚼筋には側頭筋・咬筋・外側翼突筋・内側翼突筋の4種類があり、外側翼突筋以外の3つの作用は下顎骨の挙上だが、外側翼突筋は下顎骨を前方に引く役割がある。少し脱線した話だが一応補足として・・・。)
頸動脈三角 carotid triangle の解剖
さて、いよいよ試験のヤマでもある頸動脈三角内に入る。下の模式図は、右の頸動脈三角の3辺の筋肉を術野拡げるよう展開して、頸動脈鞘を開き、術野を横切る顔面静脈などを切断したところである。冗談抜きでこの図の要点だけ覚えれば専門医試験で確実に役立つし、医学生なら定期試験で十分に得点できる。どの教科書にも載っていることだから自分で勉強すれば事足りるだけど、以下ではよりポイントを明確にして極力全景を理解しやすいよう必要最小限の模式図にして解説していくので、興味ある人は是非読んで順に知識を定着させていってください。
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