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愛するか、愛されるか。[後編]
起業家という道を経て、今は作家を夢見て執筆活動に明け暮れる橋本なずなです。
男らしさ、それを問うならば私は一人の男の子のことが頭をよぎった。
( 前編はこちらから )
先日、同じiroha部の二期生を務める友人と天満で飲んでいた日のことだ。
男性二人組に声を掛けられて、それから四人で居酒屋に行った。
一人は同い年の東大生で、もう一人は22歳の一橋大の学生。二人はベンチャーの立ち上げを行っていて、大阪には仕事で来ていたのだという。
終電も過ぎた頃、各々解散した後に私は一橋大の男の子と一緒に居た。
『 いやぁ、もう僕なずなさんのことめっちゃ好きっすよー 』
「 分かった分かった、ありがとう… でもとりあえず帰るね 」
酔っ払いが二人。その時交わした会話なんて有って無いようなものだ。
翌日 目を覚ますと私はちゃんと自宅のベットの上に居て、スマホの画面には男の子からのLINEが届いていた。
〈 昨夜はありがとうございました、また会いたいです! 〉
「 うううっ… 」お酒の抜けていない頭と身体を無理やりに起こして返事を打つ。
〈 こちらこそありがとう!昨夜は酔っ払っちゃってごめんねー。 〉
それからの返事は割とすぐに帰って来た。———〈 11月会いに行っても良いですか? 〉
昨夜の言葉も、会いに行くなんて言葉も全部社交辞令だと思っていた私は、軽くあしらって返事をした。
しかしその後、
〈 じゃあ11月○○日でどうですか? 〉
〈 場所は天満にしますか?又は他にお勧めがあれば教えて欲しいです 〉———〈 おぉ、そのお店良いですね。予約しちゃいましょう! 〉
そんな具合で男の子との二度目は早々に決まった。
( 東京に住んでいるのに、わざわざ大阪まで来てくれるんだな…)
そう思うと、正直に言って嬉しかった。
男の子は志が高くて素直で、年上に愛される雰囲気に溢れている。その魅力に少しだけ惹かれた自分が居たのも事実だった。
——— 『 おー、ええやん。その男の子 』
「 ベンチャーやってるだけにさすがの行動力よね 」
私たちは焼き鳥屋さんを後にして、お洒落なイタリアンレストランで飲み直していた。
「 ・・・ん、まぁ、そもそもの話ね 」
気持ちが良い程度に酔っていた私は、ベリー風味のクラフトビールを一口飲んで口を開く。
「 あんま普段口にせぇへんことなんやけどさ、言ってもいい? 」
『 ん?どうしたん? 』
「 私23歳で、起業してて、会社してて、メディアにも出てて、本も出してて、可愛くて、良い身体してて、」
「 こんなにイイ女、あんたの人生にあと何度現れると思ってんの!・・・とは思うよねぇ(笑) 」
「 いねーぞ、この優良物件は!そうそう空かへんのやからね! 」
「 へへっ、とか言って一年半も空き物件なんですけどね 」と笑って見せると、ユウキくんは『 いいぞ!もっと言え! 』と私を煽る。
「 いつか○○くんに改めて気持ちを伝えたとして、 」
「 もしもその時フラれたら、私は○○くんの肩を抱いて「 乙 」って言ってやるーぅ! 」
私は普段口にしない “高飛車な感情” を吐き出して、再びクラフトビールを口に運んだ。
これは紛れもないヤケ酒の一口だった。
『 なずなちゃんはそっちの方が良いよ、今めっちゃ良い顔してる 』
ユウキくんは和やかに笑っていた。
強くなろう。
その帰り、私は電車に揺られながら再び心に決めた。
嫌なんだ、男の人に振り回されるのは。
人生も恋愛も、主導権は自分が握っていたい。
よく女性の間で話題に上がる【 愛するか、愛されるか。どちらが幸せか問題 】は、私の母や既婚者のお姉様など大人の女性ほど愛される方が幸せだと云う。
私も心のどこかで分かっている。
言い寄って来てくれる人のほうが、好きだと言ってくれる人のほうが、東京からわざわざ会いに来てくれる人のほうが。
私を幸せにしてくれるのかもしれない、と。
でもまだ、私は愛していたい。
まだ幼稚なのだろうな。
あと数年経ったら私も「 愛される方が幸せだよ 」と言っているのかもしれない。
理屈じゃなく感情が勝るのが恋愛だなとつくづく思う。
強くなりたい。大人になりたい。
子どもから大人になろうとしている23歳の今、この葛藤はあまりにくすぐったく感じた。
● 併せて読みたい ●
足るを知る彼と、満たされない私 [前編]
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