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ウォン・カーウァイ的付かず離れずの男女が醸す雰囲気を寅さんで

寅さんを観続けてもうすぐ20年。たくさんの人に『男はつらいよ』を観てほしいという思いから、依頼いただいた内容をもとに好みや性格をお聞きし、おすすめの3本をご紹介します。


依頼者からコンシェルジュへの希望


 
依頼者プロフィール
正直者さん 日曜哲学者 40代男性 寅さん鑑賞経験あり(第1,11作)
 
映画は香港のウォン・カーウァイ監督作品一筋です。ウォン・カーウァイ作品は、現実を昇華し、ファンタジーと現実の間を美しく描いています。今回『男はつらいよ』でもそんな作品があれば観てみたいです。具体的に言うと、男女の付かず離れずの微妙な関係でのやりとり。男性が誘って、女性がかわす掛け合いや、その関係が醸し出すお洒落な雰囲気の作品がいいです。最近1作目『男はつらいよ』と11作目『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』を観ました。11作目のマドンナリリー(浅丘ルリ子)の自由奔放で男を振りまわすのがよかったです。また、寅さんの男の美学の一つである、去り際の身のこなしがかっこよかったです。
 

「付かず」は多いが「離れず」は少ない


 
正直者さんは、映画と言えばウォン・カーウァイ監督、というくらい一途なファンで、その作品の良さを軸に、どのような映画が観たいかを穏やかに丁寧に教えてくださいました。キーワードで言うと「男女の付かず離れずの雰囲気」や、「おしゃれ」、「粋」などがご希望です。「付かず離れずの距離感」が描かれている『男はつらいよ』は限られた作品のみです。なぜなら、寅次郎の片思いで恋が終わってしまうものが多いからです。そして「おしゃれ」な作品も『男はつらいよ』には少ないのではと思いました。正直者さんの言われる「おしゃれ」とは、お互いの好意を何となく気が付いている男女が交わす付かず離れずの会話みたいなもののようです。そんな数少ない該当作品の中から以下をご紹介します。
 

浪花節のなかに隠れたお洒落

※以下、作品の内容を記述します。
 

①  第17作 「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」


公開:1976年 
マドンナ:太地喜和子
ロケ地:兵庫県龍野市
 
あらすじ:一文無しで飲み屋にいた小汚いおじさん(宇野重吉)を寅次郎は、親切に家に泊めてやります。実はそのおじさんは画家で、その場で描いた絵を「売ってきてくれ」と寅次郎に頼みこみます。老画家の絵は売れるのでしょうか・・・。
古き良き町、播州たつのでは、寅さんと芸者ぼたん(太地喜和子)が「所帯を持とう」と言い交わします。たつのでは、老画家の昔の恋人(岡田嘉子)も登場し「人生の後悔」についての名台詞も。
 
この作品では、「付かず離れず」とおしゃれ、粋をお楽しみください。寅次郎とぼたんは嘘か誠か、所帯を持つことを言い交わします。寅次郎の愛情にぼたんが涙する場面も。そして、一見おしゃれとは無縁そうな老画家と寅次郎とぼたんが織りなす「おしゃれな人間模様」を最後まで見届けてください。
 

②  第38作 「男はつらいよ 知床慕情」

 
公開:1987年 
マドンナ:竹下景子
ロケ地:北海道知床
 
あらすじ: 知床を旅していた寅次郎は、変わり者の獣医師である順吉(三船敏郎)と知り合い、順吉の友人である町の人々とも意気投合。順吉の家に居候します。そこへ順吉の娘・りん子(竹下景子)が離婚し、東京から帰郷。寅次郎はりん子に恋心を抱きます。一方、妻を十年前に亡くしている順吉は身の周りの世話をしてくれている悦子(淡路恵子)を密かに想っているようですが、無骨な順吉と姉御肌の悦子は、お互いに強がって本音を言えずにいます。世界のミフネと渥美清の共演に、知床の大自然と名曲「知床旅情」をどうぞ。
 
この作品では、「付かず離れず」をお楽しみください。寅次郎はりん子に案の定惹かれますが、りん子も寅次郎に対し、まんざらでもない様子。順吉と悦子は、腐れ縁で結ばれた連れ合いのようにも見えます。そんな中、悦子が煮え切らない順吉に愛想をつかし、踏み切った行動とは・・・。付かず離れずの男女が二組登場する今作、寅次郎と順吉の愛は伝わるのでしょうか。
 

③  第45作 「男はつらいよ 寅次郎の青春」


公開:1982年
マドンナ:風吹ジュン
ロケ地:宮崎県日南
 
あらすじ:宮崎を旅していた寅次郎は、床屋の主人の蝶子と出会います。そして、偶然にも満男のガールフレンドの及川泉(後藤久美子)と再会。その直後、足を怪我した寅次郎は入院。泉による連絡で満男も見舞いに宮崎まで来たものの、蝶子の弟の竜介(永瀬正敏)と泉が仲良くする様子を見て不機嫌になります。ロマンチックな恋に憧れる蝶子と寅次郎、自分で幸せをつかみたい泉と満男の恋の行方は・・・。
 
この作品では、おしゃれ、「(少しの)付かず離れず」をお楽しみください。蝶子は裏表のない性格で、寅次郎への好意ゆえに怒る場面があります。寅次郎はなぜ彼女が怒ったか気づいていないようですが・・・。また、満男と泉の恋愛を描く作品の4作品目で、この二人の若者の付かず離れず感は上記の2作品とは異なるので、比較してご覧ください。そして、正直者さんが気に入っておられた「寅次郎の引き際の美学」についての明言化がされています。納得の理由にも注目です。
 

正直者さんより感想をいただきました


太地喜和子よかったです!僕のオーダーにピッタリでした。僕「男はつらいよ」好きかもw 昔は寅さんの言動許せなかったんですけど、歳を取ると見方が変わりますね。僕の大好物である男女のやりとりが堪能できる良い作品でした。
やっぱりいつの時代も男が駄目ですな〜
そして、恋愛もさることながら寅さんを取り巻く人間模様もホッコリしますね。
ありがとうございました。
また違うテイストの「男はつらいよ」も観たくなりました。
 

コンシェルジュを終えて


正直者さんは、お好きな映画がピンポイントでウォン・カーウァイ作品だっただけに、ご希望もピンポイントでした。私はウォンカーウァイ作品を観たことがない上、「おしゃれで現実とファンタジーの間」などのキーワードは、日常やリアリティ、人情をメインに映した『男はつらいよ』で探すのは難しいと思いました。でも、そのなかでも「付かず離れず」というキーワードを起点として、3本ご紹介することができました。付かず離れずの雰囲気がお好みというお話を聴いて、名作にはつきものの雰囲気かもしれないと思いました。今回は、正直者さんが既に第11作を鑑賞されていたため、あえて外したマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)の4作品は全て「付かず離れず」だと言えます。リリーの回は間違いなく名作です。そして今回、偶然ですが、寅次郎とマドンナ以外に男女のやりとりがしっかりと描かれる作品が3作揃いました。(第17作は過去の関係)そちらもぜひお楽しみください。
正直者さん、ありがとうございました。

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