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有藤通世考
落合博満は運が良い。彼はその全盛期をロッテオリオンズと中日ドラゴンズで過ごした。彼の試合は全国中継されない。ニュースでは結果しか報じられないことも多かったろう。試合のリポートがされても、彼が取り上げられるのは打点をあげた場面にかぎられていたはずだ。
となれば、およそのプロ野球ファンにとって落合博満とは「よくわからないが本塁打をよく打ち、高打率をあげてたくさんタイトルを獲った人」という印象しか残らない。
今日、そして往年のファンの多くが落合のプレースタイルの真実を知らない。
落合は守備に難があった。
たとえば32歳になる85年、彼は全試合出場し、圧倒的な成績で二度目の三冠王に輝いた。が、三塁手としては出場124試合で19の失策を記録している。これはオリオンズ内での最多失策だ。
同年の他チームの代表的三塁手はどうかといえば、ジャイアンツの原は9失策、タイガースの掛布が10失策と落合より少ない。
失策は野球に付き物だ。では落合の失策に守備範囲を越えてボールを取りにいった結果のいわゆる積極的失策が含まれるか否か。 しかし残念ながら同年の補殺数を比べると落合が190、原が238、掛布が230となっている。
落合はまず間違いなく捕球可能なボールしか捕っていない。その上での19失策だ。野球ファンなら思い返してみるといい。過去の好プレーを扱った番組で、落合が三塁線の打球を好捕した場面など流れなかったはずだろう。
当時のパシフィックリーグには右打ちの強打者が多かった。バファローズのデービス、ブレーブスのブーマーそしてライオンズの秋山。ライオンズには石毛もいたし、ファイターズには柏原も古屋もいた。三塁手落合は、そういった選手が振り切って放つ痛烈な打球を身体で止めることなく、ぼんやりと見送っていたのだ。
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