パイロットとお酒
個人的な経験から言うと、パイロットには、酒好きが多い。でもその分、自制が効いている。飲まないときには飲まない。これが(当たり前だが)常識だろう。
かくいう私もお酒は好きで、しかもベースのウェリントンときたらニュージーランド屈指のビール醸造所が林立している、まことに魅力的な街なのである。
私のお気に入りは PARROTDOGのRifleman。
さっぱりした苦味のあるピルスナーで、スーパーには卸されていない。
醸造所で瓶詰めしてもらう。瓶はリサイクル。
で、航空ニュースをチェックしていたら、酒とパイロットに関する残念なニュースが目に留まった。
もちろん、愚かなことには変わりない。翌朝の便に影響するほどの飲酒を、その前夜にするというのは、プロフェッショナルとして常識を疑われても仕方がない。でも、このニュースの例では、乗員が自己申告した、というところに救いがある。
極端な話、少しやばいかな、と思っても申告せずに乗務し、バレずにその日の業務を無事に終えれば、この話は世間に知られることはなかったはずだ。でも、この便のパイロットは、やっちまったと思いながらもしっかりと自己申告して、飛ばなかった。もちろん、プロフェッショナル?ということはあるが、過ちを犯しても「隠す」ことはしなかった。バレなきゃ、、の誘惑に打ち勝って、お客さんの命を危険にさらすことはなかった。決して擁護しているわけではないが、そこだけはいい判断だったと思う。
翻って、私はどうしているかというと、前述のように酒は好きだが、ステイ先では飲まないことにしている。ほとんどの航空会社がそうだと思うが、業務中に抜き打ちで、あるいは仮に何かインシデントを起こしてしまった場合には必ず、アルコールテストが実施される。これだけ人生かけてやってきて、酒で仕事を失ったら目も当てられない。でも、そういう理性的な判断を奪うのが酒の威力なので、意思の力を必要とする。ワインやビールのおいしいニュージーランドではなおさらだ。
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ちょっと話がずれるが、ニュージーランドでは、日本では酒気帯び運転として罰せられる量の呼気中アルコール量で自動車を運転しても、ある一定の基準値までなら合法というから驚きだ。具体的には1Lの呼気中に250mcgまでアルコールが混じっていても、OKで、これは日本では免許が取り消しになったり、停止になったりする基準だ。バー文化が生活と密着している故の妥協なのだろうか、それでも最初に聞いたときはにわかには信じられなかった。
そういう国だから、皆、酒を飲むことに関して非常におおらかな印象を受ける。先日もあるキャプテン、CAとステイ先で軽く夕飯を共にしたとき、キャプテンはビールを一本注文したが、私とCAはジンジャービア*(ノンアルコール)にしておいた。次の便が早朝便だったからだ。日本であれば、キャプテンが飲むのに、ペーペーの私が飲まないなんて、、、と白い目で見られるかもしれないが、そういうことはないし、仮に白い目で見られたとしても、引きずられることもないと思う。飲まないほうがいいに決まっているからだ。仮にその場の空気(私も日本人なので同調圧力には敏感だ)を台無しにしても、その居心地の悪さを引き受けるだけの覚悟はある。人によって代謝能力は違うし(もちろんそのキャプテンも一本だけだったし次の日も全く問題はなかった)何かあってもそのキャプテンが私のキャリアを守ってくれるわけではない。
もちろん、簡単ではない。飲みたいか飲みたくないかと聞かれたら、仕事の後でかーっと飲みたいし、なんといってもこっちの酒はうまいのだ。酒の誘惑は、飲む前から始まるから始末が悪い。意思の力が必要だといったのは、そういう意味だ。
*ちなみに、私がビールの代わりに飲んだジンジャービアというのは、こっちでノンアルコールを頼むときにアップルサイダーと並んで定番のもので、オーストラリア産のこういうやつ。
日本ではなかなか見ないが、ニュージーランドではどこでも売っている。ジンジャエールとは別物らしい。ショウガの香味が強く後を引き、それがアルコールを飲んだ時の爽快感に似ていて日本のノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」より私は好きだ。
ともあれ、同調圧力をしっかりと認識して(日本ではなおさら)流されずに、自覚的に行動を選択すること。言葉にすると当たり前で簡単だけど、気を抜くと愚かなささやきはすぐに忍び寄ってくる。そして、これは何もパイロットに限った話ではない。注意しよう、仕事なくすぞ。
たくさんの方々からサポートをいただいています、この場を借りて、御礼申し上げます!いただいたサポートは、今まではコーヒー代になっていましたが、今後はオムツ代として使わせていただきます。息子のケツのサラサラ感維持にご協力をいただければ光栄です。