オリバー・ストーン オン プーチン5

12、ロシアはアメリカ大統領選挙に介入したか?


ー――二〇一二年のロシアの大統領選挙にはサイバー攻撃はあったのか。

「率直に言って、それにはあまり関心がない。ロシアには対処すべきもっと重要な課題がある。 われわれのパートナー諸国は自分たちだけの世界に生きていて、ロシアをはじめ他国の現実を まるで理解していないように思う」

―――これははっきりさせておきたい。サイバー戦争は現実に起きている。始まったのは数年前 だ。アメリカは絶対に認めないが、二〇一〇年にはコンピュータワームの「スタックスネッ ト」をイランに埋め込むのに成功した。

「われわれもそれは認識しているし、アメリカ国家安全保障局(NSA) のやり方もわかっている。スノーデンの告発のおかげでね。そしてスノーデン氏の話はメディアからも伝わる。スノーデン氏は必要と思うことはメディアに伝えるからだ。 情報伝達のためにインターネットも使う。だから世界中が彼の話を知っている。市民の私生活や政治指導者の私生活が監視されていることが明らかになったが、これは非常にまずいやり方だと思う」

―――しかしサイバー戦争とは、監視のことではない。監視と同じぐらい、当たり前のように行われているのは事実だが。私の撮影した映画『スノーデン』のなかで、スノーデンが二〇〇七 年から○八年にかけて日本にいたときの話をしている。NSAが日本の当局に、国民をスパイしようと持ち掛けた。日本側は断ったが、NSAはかまわず実行した。それだけでなくアメリカは日本の通信システムを調べあげ、日本が同盟国でなくなった事態に備えてマルウェアを仕 スノーデンはブラジル、メキシコのほか、ヨーロッパの多くの国で同じようなことが行われたと証言した。同盟国に対してこういうことをしているとは本当に意外だった。

「アメリカはあまりに手を広げすぎているからだ。注意を払うべき問題が多すぎる。しかも世界中、あらゆる場所が守備範囲だ。国防総省が安全保障と防衛にかけている金額は、六〇〇〇 億ドルの防衛費にとどまらない」

―――いや、話をそらさないでほしい、これは大事な問題だ。他人事のような口ぶりだが、ロシアはサイバー戦争の威力とアメリカに何ができるかを重々承知しているはずだ。アメリカが日本のインフラにマルウェアを仕掛け、発電所や鉄道を破壊し、国を停電させて機能停止に陥ら せようとしていることを私が知っているぐらいなら、ロシアの認識ははるかに先を行っている はずだ。サイバー戦争の危険を認識し、かなり以前からそのような事態がロシアで起きないように手を打っているに違いない。ロシアがアメリカの仮想敵の一つであるのは明らかなのだか ら。

「あなたはおそらく信じないだろうが、妙な話をしよう。一九九○年代初頭以降、われわれは冷戦は終結したと考えていた。ロシアは民主国家になった。自らの意思で、旧ソ連邦の共和国 の独立を支援した。このプロセスを開始したのは、ロシア自身だ。旧ソ連に属していた共和国 に主権を付与することを、われわれのほうから提案した。
 またロシアは世界のコミュニティの一員となったという自覚から、追加的な防衛措置はもはや不要になったと考えた。ロシア企業、国家機関、行政機関はハードウエアもソフトウエアもすべて外国から購入していた。アメリカやヨーロッパから購入した設備を諜報機関や防衛省でも使っていた。ただ近年はそうした行為のはらむ危険性も当然認識するようになった。技術面 での独立と安全保障を確保する方法を検討しはじめたのは、本当にここ数年のことだ。言うま でもなく、十分な検討をして適切な措置をとっている」

―――スノーデンの言うように、アメリカが二〇〇七年か○八年には日本でそうした行為を、つまり同盟国にマルウェアを仕込むようなまねをしていたのだとしたら・・・・・・私が何を言わんとしているかわかるだろう?  中国、ロシア、イランなどではいったい何をしていただろう?  要するに、ロシアは二○○七年にはアメリカがマルウェアを仕掛けていることを認識していたはずなんだ。二〇〇七年、○六年、○五年にはロシアに対する攻撃があったんじゃないか。

当時はそこに関心を払っていなかった。ロシアの核兵器の工場にすら、アメリカのオブザー バーを常駐させていたぐらいだ」

――――それはいつまで?

「「二○○六年まではいたと思う。正確には記憶していないが。ことほどさようにロシア側はかつてないほど西側を信頼し、オープンだった」

――――なるほど。その後何が起きた?

「残念ながら、向こうはそれを理解しなかった。ロシアのそうした姿勢を認め、評価しようとはしなかった」


いいなと思ったら応援しよう!