自由貿易の本質は自国の経済体制の危機を外国に輸出すること

「ダグラスは、なぜ現代の政治家が二言目には貿易、貿易と言い、貿易が国際政治の主要な問題になるかを、すでに第二次世界大戦前に説明しています。現在の経済システムの構造的欠陥は通貨改革によってしか解決できない。通貨改革を拒んだ場合、国民の所得不足、企業の生産過剰、恐慌と言う問題に対する各国の対応策は、この欠陥から生じた矛盾や歪みのツケを外国に回すことです。いわゆる自由貿易の本質は自国の経済体制の危機を外国に輸出することなのです。大戦前の恐慌下の世界では、各国は商品と通貨をダンピングして輸出を増やす、いわゆる隣人窮乏化政策によって完全雇用を実現し、国政を安定させようとした。これは結局失敗して、大戦による軍需ブームで完全雇用が実現することになりました」

「経済がグローバル化した今日でも問題の基本的な構造は同じです。経済の低成長、停滞に苦しむ各国は貿易戦争、通貨戦争に走っています。日銀による円の大増刷で円安にして大企業の輸出を支援しようという日本のアベノミクスはその典型でしょう。中国が輸出促進のために元をドルにペグしていることも、その国内の富の分配が少数の特権層中心の極めて歪んだものであることを示しています。かつてはこうした貿易通貨戦争は本物の戦争に行き着いたのですが、現代では総力戦は解決策にはならないでしょう。グローバル化した現代の特徴は、各国の政府と議会政治家が金融資本の手先として自国民に対し仕掛けている戦争です」


「今日のグローバリズムを予測していないし、今日のような経済が徹底的に金融化した事態も知らなかった国民の経済主権が空洞化され、IMFが国際金融資本のカルテルの代表として世界経済を取り仕切っている、財務省や中央銀行が国際金融資本の手先になっている状況は、さすがに彼も予想していなかった。国民の経済主権が空洞化され、IMFが国際金融資本のカルテルの代表として世界経済を取り仕切っている、財務省や中央銀行が国際金融資本の手先になっている状況は、さすがに彼も予想していなかった」

「この点は、彼の欠陥ではなくて、時代に即して社会信用論を刷新していくことはわれわれの責任だと思います。これほど有名人だったダグラスがなぜ戦後忘れられた人になったのかということですが、やはり恐慌の震源地だったアメリカが第二次世界大戦による軍需ブームで一時的に恐慌を乗り切った。さらに戦後のドル、核、石油のアメリカ体制で、石油のエネルギー収支の良さをテコに銀行経済の矛盾を先送りできて一時的に豊かな社会を作り出したことがその原因でしょう。恐慌は過去のものになったという幻想が広まったせいで忘れられたのだと思います」

世界大恐慌後、来日もし、ケインズとも対談したダグラスが、戦後忘れ去られたのは、同じく貨幣制度改革を訴えたシカゴ大学の経済学者たちによるシカゴプランが忘れ去られたのと同じ力学が働いたのかも知らねい。しかしリーマンショック以降に、シカゴプランが再浮上してきたようにダグラスも再浮上して来た。歴史の必然という言葉が思い出される。

関曠野『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたのか』

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