オリバー・ストーン オン プーチン3
5、平和を支持するのは楽な立場だ
―――アメリカがこうした冷戦モードにあることを踏まえたうえで、あなたは近い将来、ウクラ イナをめぐって戦争をする気があるのか。
「それは最悪のシナリオだと思う」
―――アメリカがウクライナにさらに多くの武器を送り込み、ウクライナ政府がドンバスに対す る攻撃を一段と強めた場合、そしてロシアがドンバス地方のために戦う腹を固めたら、武力衝 突は避けられない。
「そんなことをしたって状況は何も変わらない。私はアメリカのパートナーにそう言ったんだ。 ただ犠牲者が増えるだけだ、と。その結果も今日とまったく変わらないだろう。このような衝突、つまりドンバス地方で起きているような対立は武力では解決できない。直接対話が必要だ。 などあらゆる方便を使ってそれを先送りするのか。キエフの友人たちがそうした現実に早く目覚めるほどいい。それにはアメリカやヨーロッパなどの西側諸国が、キエフ当局がこうした現 実を理解できるよう支援する必要がある」
ー――そうなるといいのだが。二〇一六年のアメリカ大統領選の候補者を見ると、特に共和党の 候補者を見ると、誰もが一様にロシアに対して攻撃的な発言をしている。
「それはアメリカの国内政治を意識した主張だろう」
――ロナルド・レーガンの時代からアメリカは右傾化してきた。いまの左翼は・・・・・・・左というこ とになっているのはヒラリー・クリントンだ。おそらく民主党の候補者となる彼女はウクライナについて非常に厳しい発言をしており、あなたをヒトラーになぞらえた。
「今に始まったことじゃないさ。彼女とは個人的に面識があるし、非常にエネルギッシュな女 性だ。こちらだって同じような比較をしようと思えばできるが、われわれの政治文化においてはそのような極端な発言は控えようとする」
―――そう、あなた方もこのような発言をしようと思えばできるが、しない。分別があるからだ。 そして直接戦争で苦しんだ経験がある。一方アメリカは本土での戦争を一度も経験していない。 だから国家で重要な立場にある人々の多くにとって、戦争はゲームのようなものだ。ミサイル 危機のさなか、空軍参謀総長だったのは東京大空襲を指揮したのち、広島と長崎に原爆を落と した責任者のカーチス・ルメイだ。そのルメイはケネディにソ連を叩きのめすことを進言した。 「今がそのときだ。彼らが強くなりすぎる前に」と。
「われわれもそれは知っている。当時も知っていた」
「ロシアが中国と接近するのに、特別な協定など要らないさ。もと 共有している国境は世界一の長さだろう。だから両国が良好な隣人関係を維持すべきなのは当 然で、おかしなことは何もない。むしろそれは中国とロシアの双方の国民にとってきわめて望 ましいことだ。世界にとってもね。両国には軍事ブロックをつくろうという意思はない」
―――なるほど。
「ただ両国の貿易と経済的結びつきは急激に強まっている」
ー――しかし中国はロシアと同じように、アメリカとの対立は避けたいという姿勢を明確にして いる。
「それは良いことだ。正しい行動だ。われわれだって対立は避けたい。ロシアにはロシアで対処すべき国内問題があるのだから、アメリカとの対立など一切望んではいないよ」
――それはわかるが、ウクライナによって直接的な対立の可能性が出てきた。
「問題は、対立を始めたのはこちらではないということだ。クーデターを組織したり支援した のはわれわれではない。ウクライナの一部の住民がクーデターで発足した新政権を支持しなかったのも、ロシアの責任ではない」
ー――アメリカは戦略があるのだろうか。「中国が世界の経済大国になることはわかっている。 ロシアを崩壊させることで、この問題に対処できないか」といった長期戦略だ。
「そんなことは一切知らない。向こうに聞くべき話だ。ただそれが事実ではないことを期待するよ。それは方向性として誤っている。正しい道は、対等な関係を構築し、互いへの敬意を持つことだ。ロシアにはこれ以上拡大を目指す理由がない。すでに広大な領土が・・・・・・世界最大の国土を持っている。潤沢な天然資源に恵まれ、すばらしい国民がいる。自らの国家を発展させ、 刷新していくための確固たる仕組みがある。他国との対立は、こうした戦略目標に集中する妨 げとなるだけだ」
―――最後にひと言、伝えておきたいことがある。あなたは二度、私を反アメリカ的だと言い、 自分をそこに引きずり込まないでほしいと言った。それについて説明しておきたいんだ。私は母国を愛している。アメリカを愛している。そこで育ったのだから。母親との関係と同じだ。 ときには意見が合わないこともあるが、それでも母親を愛している。ときに愛し、ときに憎む。 それは母国も同じだ。母国と意見が合わないこともある。
「いいかい、あなたが自由に母国の指導者の行動を評価できること、そうする権利があるのは、 アメリカ人だからだ。厳しい批判をすることだって許される。一方、われわれはあなたの国とだけでなく、政府とのパートナー関係を構築しようとしている。だから慎重にふるまう必要が あるんだ。どれほど意見の隔たりが大きくても、互いに一定のルールに従わなければならない。 さもなければ国際関係を構築することなどできない」
――それはわかる。非常に明快だ。最後に言いたいのは、私は反アメリカでも親ロシアでもな い。親・平和だ。生きているあいだに平和な世界を見たいと強く願っているが、今は恐れを抱 いている。世界の先行きに不安を感じるのは、母国の平和への姿勢に不安を感じるからだ。ア メリカは自らがどのような危険を引き起こしたのか、理解していないようだ。このドキュメン タリーで私が伝えようとしているのはそういうことだ。
「あなたは平和を支持するという。それは楽な立場だ。私は親ロシアだ。私のほうが難しい立 場にある」
――ここ数日、さまざまな危険を具体的に示してくれたことに感謝する。