E.H.カー『歴史とは何か』
「人間が自分の置かれた社会的・歴史的な立場をこえて立ち上がる能力は、自分が置かれた立場にどれほど拘束されているかを認める感受性に左右されると思われます」
「歴史とは社会的プロセスであり、これに個人は社会的存在としてかかわっています。社会と個人のあいだの対立関係とは幻であり、わたしたちの思考を混乱させるために通路にまかれためくらましにすぎません。歴史家とその事実とのあいだの相互作用のプロセスは、現在と過去のあいだの対話ですが、これは抽象的で孤立した諸個人のあいだの対話ではなく、今日の社会と過去の社会との間の対話です」
「あらゆる集団は外来の不都合な価値観 の侵入にたいして自己防衛しますが、そのさいに不都合なものを非難して、 「ブルジョワ」「資本家」とか、「反民主的」「全体主義的」とか、さらに粗っぽいですが、「非国民」といった焼き印を押すのです。抽象的な基準や価値は、社会からも歴史からも切り離されたならば、抽象的個人のような幻影にすぎません。本気の歴史家であれば、すべての価値観は歴史的に制約されていると認識していますので、自分の価値観が歴史をこえた客観性を有するなどとは申しません。自身の信念、みずからの判断基準といったものは歴史の一部分であり、人間の行動の他の局面と同様に、歴史的研究の対象となりえます。」