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幸せを願うことで幸せになる
20日目(4月23日)
20日、いよいよ5分の1が過ぎた。マラソンのランナーに声をかけるように、こ自分に掛け声をかけつつ進むのだ。
そして、今日は父の誕生日だった。実は母から声をかけられるまで忘れていた。
母の誕生日はちょうど、父の誕生日の1ヶ月前で、そのときは、ちょうどコロナが始まった頃。
近所の花屋さんを応援したい気持ちも重なって、花好きな母のために豪華な花束を贈った。
母の誕生日に花を贈ることは、ここ最近の恒例で、この日を忘れることはないのだが、父の誕生日は忘れてしまうことがある。申し訳ないと思うのだが、こればっかりはしかたないよね、、と思う部分もあったりするのだ。
今年は例年と違った。
母から電話がかかってきたのだ。
「今日お父さんの誕生日なのよ、ほら、あなた、私の誕生日のときにお花をくれたじゃない、自分の時に何もないと、寂しがるから、、、、おめでとうの電話だけでもいいから、何かしてくれない?」
父はそういう気持ちを子供達に対して一切口にしないが、実はとても寂しくなってしまうタイプ。母はいつもその気持ちを推し量って、私たちに伝えてくる。
しまった!と思った。
「あ、、、お花買ってくるわ、、、、いやお花より、甘いものの方がお父さんは喜ぶね、とにかく何か持っていくね」
そう言って、電話を切った。
慌てて、出かけようとしていると、またスマホが鳴った。母からだ。
「私から言ったことは、お父さんには言わないでね」
「わかった、わかった。大丈夫」
昔は、こういうやりとりをいつも避けていた。
父に気を使う母、そういうのが嫌だった。
最近は、母の気持ちもわかるようになってきて、
それも可愛いな、と思うようになった。
外にでると、今にも雨が降り出しそうだ。
早足で近くの商店街に向かいながら、ふと、ホールのショートケーキでお誕生日ケーキはどうだろう、と思い浮かんだ。
子供の頃よく買ってもらった、近所のケーキ屋さん。
昔ながらのホイップクリームのたっぷりのったいちごのショートケーキ。
食にはとてもこだわりのある父。
有名な菓子店や目新しいものをとても喜ぶし、84歳の人に子供みたいな誕生日ケーキはどうだろう。。と一瞬思ったが、なんとなく、年をとるごとに、可愛らしくなってきている父をみていると、なんだか喜んでくれそうな気がした。
雨がポツポツと降り始めた中、ケーキ屋さんに駆け込んだ。
入るとすぐ目の前にイチゴのショートケーキがあった。大きさは5号サイズ。
年寄り二人で食べるには少し大きいが、このくらいあった方が幸せ感がある。
さっそく、店員さんに、このケーキをお願いした。
すると店員さんが、今、出来上がったばかりなので、本当に気をつけて持って帰ってくださいね、と言う。
出来立てを食べれるなんて、嬉しい、と伝えると、
ショートケーキは冷蔵庫で冷やして、2日目がしっとりしていて美味しいのだという。出来上がったばかりなので、とにかく冷やしてくださいね。と何度も言う。
そういうものなんだ。作る側の人は本当に美味しい状態で食べて欲しいんだね。
箱に入れて、大切そうに手渡してくれるのが、とても嬉しかった。
言われた通り、小雨の中、箱を揺らさぬよう気を使いながら、母の家に向かった。
インターホンをならし、玄関に母と父が出てくるのをまって、一言「おめでとう」と言って、ケーキを手渡した。父は大喜びだった。
しばらくして、母から Lineでメッセージと写真が送られてきた。
「いいお誕生日になりました。あなたと私たちのまわりの人々すべての人に感謝して、我が家で一番いい紅茶をいれて、美味しいケーキをいただき、二人だけの誕生日でしたが、幸せいっぱいでした。ありがとう」
なんだか涙がでてきた。
母からこんな形でお礼を言われたことは初めてだった。
そうやって全てに感謝しながら生きてきた、彼ら夫婦のあり方をあらためて言葉で伝えてもらって、心に響いた。
何よりも、母と父がこんなにも幸せを感じてくれていることが心から嬉しかった。
幸せであることで、人を幸せにする。
人の幸せを願うことで幸せになる。
これをこの人生で体験できてよかった。ありがとう。