たまに受ける質問「父親がいないからですか?」 親の役割分担と叱り方についてもふれて
私、神経発達症/発達障害のお子さん(未診断含む)を対象に評価や療育、相談の仕事をしています。
ご家族からたま~に受ける質問を紹介し、自分なりの考えを書いていきます。自分なりなので、参考までにとどめてください。
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症(ADHD)な子の親から…
「(離婚して)父親がいないから、こんなふうになってしまったんですか?」
それは関係ないです。
片親家庭の子が全員、神経発達症の症状を呈するかと言われれば、そんなことはないのです。
こんな質問の背景には、片親で子育てしていることへの罪悪感だったり、不安だったりするのだと思います。
両親がそろっていると、子育てに関しては
母親の役割と父親の役割のように、役割分担することができます。
役割と書きましたが、母親の方が一般的に向いていることと捉えてもらえると良いです。
例えば、トンボが飛んでいるのを子どもが見つけた場面
●母親の役割
「トンボが飛んでるね~」とことばで伝えたり、「スイスイ~」と両手を伸ばしてトンボが飛んでいるフリをして見せたりする。
●父親の役割
実際にトンボを捕まえてみせる。トンボの捕まえ方や知識を披露する。
こんな感じの違いがある。
母親の役割は一般的に、子どもの安全基地となるよう子どもの情緒(気持ちや気分)を受容したり、共感したりするイメージ。
父親の役割としては、
●力仕事を担当することで、頼りになる存在を家族にアピールする!
母親では届かないような高い場所にある物を父親は取れる。
母親では開かなかった蓋を父親は開けることが出来る。
こんな経験を重ねていくことで、もしものことがあった時に、父親が居てくれたら何とかなるんだ!大好きな母親が困ったときに頼りになる父親ってすごい!などと心のどこかで子どもが思ってくれていると良い。
●ここぞ!という時の壁になる。
勝敗のあるゲームをする際、
母親は子どもの気持ちを優先して接待ゲームを行い、故意に負けてあげる。一方、父親はそんな忖度をしないで良いと思う。
容易には勝てない相手として振る舞ってもらうのは、全然アリ。
心を育てる上では負ける経験も大事だし、子どもが大人に勝ってばかりでは大人をバカにしてしまったり、自分を過剰に評価したりすることにつながるかもしれない。
また、特別に悪いことを子どもがしてがしてしまった時にも父親が登場すると叱りの効果がでやすいと思う。
母親は躾けのために日頃些細な小言をするはめになる。
「手を洗いなさい」「使ったハンカチを出しなさい」「遊んだおもちゃを片付けなさい」「宿題を先にしなさい」等々キリがない。
小言の注意が多いと、子どもは注意慣れして、聞き流してしまう。注意されたことに対して、危機感を持ちにくくなるのだ。
なので、注意する際にはメリハリが大事。些細なことは小言レベルで良い。一方、車の往来が激しい道路に飛び出した/友達に向かっておもちゃを投げて怪我を負わせたといった命の危険や社会的に絶対やってはいけないことをした際には、大きめの声/低い声/怒った表情でしっかり叱ってダメなことを伝えると良い。
親一人でも上記のように叱り方を使い分ければOK
ただし、両親揃っている場合には、普段は怒らない父親が大きめの声/低い声/怒った表情で叱るとなると、性の違いも影響して怖さは爆増だろう。だからこそ、ここぞ!という時には父親が直接叱れると良い。
話が脱線するが、いつだったか「叱らない育児」「褒めて育てる育児」的なフレーズが流行った。字義通りに育児している人がいないことを祈る…。子どもの自己肯定感を下げないよう、褒めるのは良い。子育てする上で、叱らないわけにはいかないと思うのだが。子ども時代一度も叱られることなく良い子ちゃんだったという方が、成人後に精神疾患を発症しないか心配になる。子どもが本当に危険なことをした時に限っては、「ダメ!」と強く短くスパーンと言い切って注意して良いと思う、私は。知的発達がゆっくりめな子だったり1~2歳の子には、ことばで説明するより、バシッと言った方が”本当にヤバイ”が伝わりやすい。
そして、そんな叱り方ができるのは家族しかいない世の中だ。そんな叱り方を園や近所の人がしてくれることは殆ど無くなってきていると思う。
知的発達に問題がなかったり、会話が成立したりする年齢のケースでも、本当にダメなことをした場合の叱り方は同じで良い。ことばで何がダメなのか、どういう状況でどう対応したらよかったかなんていう話し合いは、互いに冷静になってからで良い。
●父親は共感しすぎなくて良い
子どもの発達を心配しているお母さん側からは、「旦那に子育てのやり方を統一しようと言っているんですけど、適当なんです(怒)」という話をよく聞く。母親が仕入れた情報を共有して、同じように動いてくれる父親もアリだが、その情報が間違っていないのか/自分の子や家庭に合っているのか/それは家庭に負担を強いていないかなど冷静に判断するのも父親だ。
母親の方が子育てに脳のリソースを使いすぎて、視野が狭くなりがちになる時期がある。それを適当に流してくれる父親も子どもにとっては良い存在だと思う。
もちろん、子どもの発達状況によっては統一したやり方を望まれることもある。あるのだが、専門家による一般的なアドバイスより父親のやり方の方が子どもには好まれるというケースは意外とある。
色々なやり方で子どもが混乱していなければ、許容範囲だ。子どももいずれは臨機応変に対応していくようになるのだから、言うことをきかない旦那もダメとは言い切れない。
上記の役割は、両親の性格によっては逆転して良いと思います。
互いに補い合い、過剰なところはどちらか一方が和らいでいけるような関係性が理想かなと。
そして、片親の場合は場面ごとに、子どもが求めている状況ごとに役割を使い分ければいいのだ。演じ分ける感じで。
父親がいないから、多動だ~集中が続かない~注意しても同じことを繰り返す~というわけではない。
もともと、子どもの脳がそういう特性を持って産まれたのであって、片親だからそうなるわけではない。
例外もある。
片親育てで、親が愛情をもって育てていても子ども側が愛情を受け取りにくい場合だったり、愛情をキャッチできる子であっても足りていない場合だ。
前者は自閉スペクトラム症児に見られることがある一方、後者も産まれつきの脳の特性で満たされにくかったり、親が提供する愛情が子どもが欲しているものとずれていたりする場合に愛着障がいのような症状を呈することがある。もしかすると、親側に発達障害特性があり、子どもの気持ちを察しにくかったり共感しにくかったりするのかもしれない。そのようなケースでは、親と話す時間を多めに設けて、「子どもがこんな時はこう対応してみては?」と具体的な状況を元に例を示したりすることで親側の捉え方の改善をはかることがある。