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最近の車の、前傾しすぎたヘッドレスト角度を調整する方法
最近の車の前席ヘッドレスト
最近の車のフロントシートは概してヘッドレストが非常に前傾している。下の写真は生産終了した日産・セドリックと現行の日産・スカイラインのシートである。後者は前席のヘッドレストが大きく前傾している。
このようなシートに、骨盤をシートバックに押し付けたアップライトな姿勢(=本来の運転姿勢)で座ると、頭が前に押されて強制的に下を向いた姿勢を強いられ、背筋を伸ばすこともできず、首や腰に疲労が蓄積して、とてもではないが長距離ドライブなどできたものではない。
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このようにヘッドレストが前傾している理由は、衝突安全性のうち「後面衝突頸部保護」つまり追突されたときに首にかかる荷重を減らし、むちうち(外傷性頸部症候群)を防ぐためである。被追突時、ドライバーの頭はヘッドレストに衝突するが、その際の頭部の移動量を極力少なくするため、あらかじめ頭部と隙間ができない位置にヘッドレストが配置されている。したがって、こういった部品を安易に改造するようなことは、厳につつしまなければならない・・・のだが、しかし!
なぜ前席だけ異様に前傾しているのか
頭部と隙間をつくらないために前傾しているのだとすれば、後席も同じ形状でなければならない。安全性評価の試験対象が前席だけだからという理由で他のシートを無視するほど自動車メーカーの意識は低くはない。
なぜ前席だけヘッドレストがこんな極端な形状になっているのか。下の図はトヨタのGA-B設計の小型車の車内である。表皮はともかくシート自体は見たところ同じユニットである。上の写真の前席は常識的なアップライトな角度で、ドライバーの頭は前傾を強いられる。前後席のヘッドレスト角度の違いに注目されたい。下の写真は前席をかなり倒したルーズな状態で、ドライバーの頭は直立し、ヘッドレストは適切に頭部を支える位置にある。
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このように、写真からすべては明白である。自動車メーカの社内設計基準において、前席乗員は様々なシート角度で乗車することが想定されている。そのうち最もシートを倒した状態でも頭部と隙間ができないように、ヘッドレスト角度が設定されていると考えるのが自然である。これは言い換えると、残念なことだが、ルーズに座る人を守るために、アップライトに座る人の快適性や肉体的疲労を犠牲にしているとも言える。
既報調整方法のまとめ
多くの方々が自らの車でこの問題に直面し、ヘッドレスト角度を物理的に調整されている。自動車系SNSで「ヘッドレスト角度調整」と検索すると、海外での事例を含め、幾多の実施例が報告されている。著者もそれらのほぼ全てを参考にさせていただいたので、情報提供された方にはこの場を借りて厚くお礼申し上げる。これら既報の方法は大きく分けて2通りがある。
ヘッドレストとシャフトの「く」の字型の頂点を機械力で押す方法
油圧プレス機や車載ジャッキを用いた例が多く、シャフト先端を角材で持ち上げる、荷重負荷ポイントを固定する、反力側の枕の下にも角材を配置するといった様々なコツがあるらしい。ヘッドレスト(枕)を固定し、シャフトを長パイプで曲げる方法
枕全体またはシャフト根本を荷重に対して固定し、シャフトにやといパイプをかけ、てこの原理で人力で曲げる。固定方法が肝になる。
簡単・安全・手軽な調整方法
今回角度調整するヘッドレスト。見事な前傾ぶり。なお寸法は、全高約40cm、シャフト長150mm、シャフト径14mmである。
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方法2を実施する場合、枕を固定する方法がカギになる。あちこち物色した結果、合法的に立ち入れる場所で、コンクリート製垂直擁壁のすぐそばにコンクリート製の踏台が設けられた場所を見つけた。右が垂直擁壁、左が踏台で、間隔は約12cm。
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ここにヘッドレストを差し込んだところ、きつめの嵌めあいで、うまく固定できそうであった。やといパイプは、エレクターパイプ90cm(約500円)を使用。下図は差込んだ状態。これを鉄道の転轍機てこのように倒していく。スポンジの弾性が強いので、かなり倒さないとシャフトは変形しない。
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角度調整後がこちら。未調整品に対して10°程度しか曲がっていないように見えるが、取付状態でヘッドレスト前面が垂直に近くなってはいた。
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垂直擁壁(※ブロック塀は強度が不明のため不可)そばの固定構造物という組み合わせが見つからない場合、U字溝でも代用できると考えられ、幅的には120サイズが最適だが浅いので、高さのあるヘッドレストの場合150サイズで内幅を木材か電話帳等で調整することが考えられる。ただしU字溝自体が固定されている必要がある。
同じ悩み(というか怒り?)の方は潜在的に多いと思うので、本稿が参考となることを願ってやまない。当然だが自己責任での実施となる。