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あの味をさがしてる
毎週金曜日、ヤクルトのおばさんはやってくる。
夏休みをおばあちゃんの家で過ごしていたわたしは、おばあちゃんの家の前で、その時を今か今かと待つ。バイクの音がして、ヤクルトのおばさんがぶどうの木の下で停まる。
きた!
おばさんが荷台の箱を開けてくれるや否や、わたしは箱に顔が入る勢いで覗き込み、お目当てのものを探す。チョコムースである。
おばあちゃんが会計してくれると、すぐに走って帰る。チョコムースは12個入り。ひとつ取り出して、残りは冷蔵庫にしまう。
まあるく平べったい容器に、ぷるんとしたムースの海。一口すくって口に運ぶと、ムースの気泡が舌の上ではじける。耳をすませば、口の中がシュワシュワ鳴る。
おいしい……。
そんなことをゆっくり感じる間もなく、ムースはなめらかに溶けてなくなる。(今のわたしが形容するなら)高級ウニを食べるみたく、小さな口で大事に大事に味わう。
祖母は自分用に買ったジョアを飲んでいる。わたしを見て、
「ゆりちゃんはほんっとに飽きないねえー。」
と笑う。
食べ終わると決まって、一度にふたつ、いやみっつ、食べられたらどんなにいいだろうと考える。でも、次の金曜日まで、まだ一週間ある。ムースは12こ。一度に複数個食べるのを許される日は確かにあるが、その食べどきをしっかり見極めなければならない。
大人になってもわたしはチョコムースとかチョコババロア、チョコプリンとかの類には目がなくって、コンビニやスーパーで新しいのを見かければ買うようにしている。どれも個性豊かでおいしいけれど、あのチョコムースに近いものはまだ見つからない。
忘れられない味とはよくあるけれど、おばあちゃんとの思い出が、あのチョコムースをおいしく美化させてしまっているのではないかと言われたら、それは声を大にして否定したい。正真正銘、今まで食べたどのチョコムースよりもおいしかった。(おばあちゃんも大好きだ。)
もう一度食べることができたら、泣いちゃうかもしれない。
いつもあの味を探している。
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(調査の結果、このチョコムースは、ヤクルトの「ホイップランド」なるものらしい。ヨーグルトで作られているとのことで、他と比べるものではないのかも。なんにしても、死ぬまでにもう一度は食べたい味。)
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