【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」③
デートをOKしてからというもの、その「デートの日」までの数日間、リカはまさに「夢見る夢子ちゃん」そのものであった。毎晩、毎晩、リカはオレに向かって、「むっつり君」と、今までどんな話をしたのか、どういう風にして「むっつり君」がリカに対して接してきたか等々、数少なーいエピソードを、繰り返し繰り返し、布団に入ってオレの頭をなでながら、オレに語り掛けるのだった。
「ねぇ、アライグマくん、どうしよう、どうしよう。どう思う?」
(むぎゅっ)と言っては、オレを抱きしめるのだった。
(かなわん。勘弁してくれー)
そしてようやく、「むっつり君」とデートする日がやってきた。
天気予報では、デートの当日は2月にしては結構暖かい1日ということであったが、実際は予報に反して、えらく寒い一日になった。天気予報に裏切られ、リカは、あらかじめこの日の為に決めていた洋服を急いで変更しなければならず、その日の朝はてんてこ舞いであった。
「あー、もう!これがいいかな。それともこれ?あ、ちょっとけばいかなー。あー、もう!どうしよう!!!」
と、ぶつぶつ言いながら、支度をするのであった。
「どうせ、なに着たって、変わり映えしないんだから、テキトーに決めちゃえばいいじゃん。見てやしないよ。」
と、ちょっぴりオレはこばかにしてやった。そんなオレの気持ちが通じたのか(ちなみにリカはぬいぐるみの言葉がわかる「ぬいぐるん」ではない)、リカはいきなり、
「カズのシュート!!!」と言って、思いっきりオレをけ飛ばした。リカのキックは足がデカいせいか、強烈で、オレはリカの部屋から3メートルも離れた洗面所まで飛ばされ、隅に置いてあった洗濯機に思いっきりぶつかって落ちた。全身ムチウチだ!
リカはそんなかわいそうなオレのことなど気にも留めず、せっせとデートの準備を続け、ご機嫌に鼻歌を歌いながら家を出て行った。
(鬼だ!悪魔だ!デートなんか失敗しちゃえ!!!)
心の中でオレは何度も唱え続けた。
その言葉が通じたのか、デートから帰って来たリカはやけに元気がなかった。
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