【小説】アライグマくんのため息 第6話 不気味な「小包み」
リカの家に来てから、三度目の冬が来たある日。リカは小口の野郎と二回目のクリスマスをどう過ごそうかと、ミーハー雑誌とにらめっこしていた。その晩、いつものように、小口の野郎から、電話がかかってきた。
「あ、もしもし、あたし、うん・・・(中略)え?なっ、何?えっ?プレゼントって?えー!びっくりするもの?えーなんだろう・・・?」
妙にうれしそうである。へらへらしていて気持ち悪い。なんとなく憎らしいと思うのは、なんでだろう。どうして人間っていう野郎は、こう、恋人同士というものの会話は、こう、へらへら、デレデレ、歯切れのない会話をするのだろうか。横で聞いているこっちが、こそばゆくなってくる。そんなオレの思いをよそに、リカと小口の会話は続いた。
「えっ?送ってくれたの?そのプレゼント…。なによーもったいぶって。えー、直接手で渡すのが恥ずかしいから?えー、何だろう。結構、高価だったりするもの?えー、高いんだ・・・。そうか、うん、楽しみにしている。それじゃあ、うん、おやすみなさーい。」
電話を切った後、しばらくリカの「お花畑」状態が続いた。うきうき、ランランだ。しかもそのプレゼントが届くまでの間、丸三日、リカの「お花畑」ぶりが続いたのだ。この話を、リカが黙っていられるはずもなく、さっそく「ちび」に話した。「ちび」は、その話を聞くと、
「それって、ねぇ、指輪なんじゃないの?あんたたち、付き合って、もう結構長いわよね。いいな。あれっ?ってことはさぁ、もしかして、それってプロポーズ?小口くんって、変わったことする人みたいだし。でも、郵送なんて、危ないわよね。でも、いいなぁ~。リカちゃん、あたしより先にお嫁に行くのかしら・・・?」
ちょっと悔しそうである。
リカは、この「ちび」の「結婚」「プロポーズ」という言葉にすっかり酔いしれ、完全に頭が「パラダイス」「お花畑」化してしまった。
リカの「お花畑」に、オレ様が付き合わされたのは言うまでもなく、オレは、この「お花畑」野郎に付き合って、超・寝不足状態に陥ってしまった。リカは、オレの頭をなでては、
「あたしたち、もう長く付き合ってるもんね。もしかして・・・、ひょっとして・・・。キャー!!!ひぇーだったらどうしよう♪ねぇ、ねぇ、どうする?やっだぁー!」
と、オレ様の頭を決まりごとのように最後は必ずぶつのであった。
(痛ってぇんだよ!)
か弱いプリティなオレ様が、でかいリカに殴られたら、どれほどの傷を負うことか…。なんせ身長に比例して、リカの手は超でかいのだ。そんな手でぶたれたりしたら、いきなりロケット弾が、頭を直撃するようなものだ。だいたい、あんな小口野郎がくれるプレゼントなんか、ろくなもんじゃないに決まっている。大体「ちび」は、なんでも大げさに言いすぎだ。すぐあおりやがって。大げさ野郎なのだ。リカもリカだ。ぬいぐるみのオレが、声を出して答えるとでも思っているのか?大馬鹿野郎だ!!!
オレは、リカのこの「お花畑」劇場のせいで、頭にたんこぶとあざを十数か所こさえてしまい、はらわたが煮えくり返った。そこで、オレは、リカに復讐することを思いついた。
…、と言っても、ぬいぐるみとしては、人間が起きているときに、襲うわけにはいかない。したがって、復讐は、リカが寝ている間に行わなければならない。そこでオレは、毎晩、リカと「ちび」が寝ているとき、こっそりオレの身体にくっついた、「家ダニ」と「わたぼこり」を奴らの鼻の中に、こっそり入れてみることにした♪
そう、ぬいぐるみはダニとわたぼこりの宝庫だ♪時々家の隅っこに、わたぼこりが集まっているのを見たことはないだろうか。それはもしかしたら、ぬいぐるみが密かにためておいたものかもしれない。
何はともあれ、オレは夜な夜なリカと「ちび」の鼻に、しっかり入れてやった♪効果はてきめん。もともと別名「鼻アレルギー姉妹」の異名をとる武討姉妹は、オレ様の「家ダニ攻撃」のために、リカの「お天気劇場」が続いた1週間、くしゃみの大嵐に見舞われることになったのである。
そしてついに、あの「プレゼント」がやってきたのである。
その日は、雲一つない天気の良い日で、リカは、もうそろそろ「プレゼント」がおくられてきてもいいのではないかと、休みの日にも関わらず、じっと家でプレゼントの到着を一人で待ち構えていた。と、お待ちかねのベルが鳴った。
「こんにちはー、白わんこ配達でっす!」
と、筋肉むっきむきのお兄ちゃんが勢いよくやってきた。超ニコニコ顔だ(汗)。
むきむき兄ちゃんが手渡したもの。それは、とてつもなくどでかい段ボール箱であった。荷物を見るや否や、リカの顔は一瞬にして、赤から青に変わった。
むきむき兄ちゃんは、そんなリカの気持など当然気づくわけもなく、
「すいません。これ、重いんですけど、もてますぅー?あっ、はんこう、もらえまっすぅ?」
(もらえまっすぅ???)
と、そそくさと荷物をリカに渡し、てきぱきと仕事をこなすのであった。
「まいどー。ありがとうございまっすぅー!」
ドアの閉まる音とともに、リカの方ががくっと下がった。
「なんだろう。こんなに大きいものって…。」
がさがさと音を立てながら、リカは手荒く段ボール箱を開けた。すると、中からこれまた、とてつもなくバカでかい、「ハスキー犬のぬいぐるみ」が出てきた。リカは、大きなため息をついて、そのばかでかいぬいぐるみをボーっと眺めていた。
そのバカでかい「ハスキー犬」は、いかにも頭が悪そうで、自分の置かれた立場など、まったく把握していないようだった。そいつ、「おバカなハスキー野郎」は、ようやく狭い段ボール箱の中から出られた喜びと、自分に主人ができたことへの喜びで、頭がいっぱいなのか、それとも単に、頭が「春」なのか、とにかく、ただ、落ち込んでいる目の前の主人をニコニコと見つめていた。いや、ご主人が自分の頭を撫でてくれるのだろうと、待っていたのかもしれない…。だが、そいつの「淡い期待」は、リカの次の行動で、一瞬にして打ち砕かれることになった。
「へい、へい、へーい!」
なんとリカは、そいつの大きな背中にまたがり、そいつの首輪を引っ張って、ポンポンと飛び跳ねた。だが、そいつは、苦しむどころか、自分がご主人に気に入られて、かわいがられていると勘違いしたらしく、ニコニコ笑いながら、
「ワォン、ワォン!わーい、わーい♪」
と吠えるのだった。
(おめでたい奴め…。)
こうしてリカの「夢」は、はかなくも、消え去ってしまったのであった。
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