【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」①
リカの家に来てから、はや1年が過ぎた、ある寒い冬の晩、いつもよりもずいぶんと勢いよく、リカが帰って来た。
「ただいまー。アイスクリーム、買ってきたよ~♪」
どかどかと台所へと歩いて行った。
「わーい♥ねぇ、ハーゲンダッツ?あたし、あれがいいなー。そうじゃなかったら、いらないや。あっ!ハーゲンダッツだ!やったぁー♪サンキュー。」
「ちび」は、リカがまだアイスクリームを開けてもいないのに、さっさと食べ始めた。ゲンキンなヤツだ。
それにしても、「ちび」は単純なヤツである。さっき、リカが帰ってくるまで、さんざん電話口でママりんに、会社でいじめられたと言って愚痴って、ポロポロ涙を流していたくせに、アイスクリーム1個でこんなに幸せになれるんなら、2時間も愚痴に付き合った、ママりんの立場はどうなるのだろうか?挙句の果てに、近くのコンビニで一番高いアイスクリームを奢ってもらおうだなんて、本当に卑しい野郎だ。
いつもなら、そんな図々しい「ちび」の態度にへそを曲げ、
「そんなこと言うならあげないわよ!」
と、いつものリカならピシャリと言うところだが、なぜか今日のリカは、そんなことはどうでもよいようだった。怪しい・・・。何か言いたそうである。
すぐに「ちび」の言葉にきれるのになぜか穏やかな表情をしていることといい、「ちび」の分まで高いアイスクリームを買ってくることと言い、いつものリカとはおよそ違うのだ。これな何かいいことがあったな…?オレは、直感した。
横目でちらりとリカを見ると、お酒を飲んできたのだろうか?少し顔が赤い。これは何か面白いことが起きるに違いない、オレはそう確信した。ぬいぐるみの勘は、人間が思うよりはるかに鋭いのだ、ふん!
「うーん、おいしい♪やっぱり、これが、一番よね。」
「ちび」は、バクバクとリカが買ってきたハーゲンダッツのアイスクリームを食っている。リカは、自分の分も食べず、何となくもの言いたげに「ちび」を見ている。が、「ちび」は、気づいていないのか、一向にリカのことなど気にすることなく、バクバク食っている。
「あのね・・・」
リカが言いかけているのに、バクバク食らう「ちび」。本当に嫌な野郎だ。
「あのね、今日ね・・・」
リカがまた言いかけたのだが、「ちび」はハーゲンダッツしか見ていない。挙句の果てに
「ねぇ、これ食べないの?食べないんなら、貰っていいかな?」
と、ずうずうしくもリカのアイスクリームに手を伸ばした。
(やばい・・・。来るぞー!!!)
オレの心配は見事に外れた。機嫌のよいリカは、ちびの手をピシャリ吐物なんてことは、この夜は決してなかった。だが、食い意地に関しては「ちび」に引けを取らない、いや、それ以上に「クイーン・オブ・食い意地」を誇るリカは、すっと自分の分のアイスクリームをかっさらった。そして、横目でちらりと「ちび」を睨みつけ、
「これは、私が食べるの。ねぇ、ちょっときいてほしいんだけどさー。」
と、とうとうリカはその「聞いて欲しいこと」を話し始めたのだった。
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