
【小説】アライグマくんのため息 第2話 「武討姉妹」②
そうこうしているうちに、「ちび」が帰って来た。
「ただいま~♡疲れた~。」
疲れた様子ではあったが、いつもより「ちび」の声のトーンは高かった。
「ご飯ある?」
「あるよ。」
「ラッキー♪」
リカが作った生姜焼きをおいしそうにほおばり、いつものようにおしゃべりな「ちび」は、今日会社であったことをひとしきり話した。ま、大抵は自分の自慢話だったりするのだが…。
食事の後にビールを一口入れ、
「あー生き返った!!!あ、そうだ、あれ食べちゃお♪」
と、「ちび」は、冷蔵庫の上に目をやり、手を伸ばそうとした次の瞬間、
「えぇ!!?」
さっきまで高かった声が、突然、任侠映画のやくざさんの声のように、度数のきいた声に変わった。
(えぇ…!!?なんじゃこの声?)
次の瞬間、「ちび」は、ゴミ箱に目をやった。そう、ゴミ箱にかすかなにおいを残して、「なげわ」の袋が物悲しく、扇風機の風を浴びて、ひらひらと揺れていた。
「ちび」の目は、さっきの優しい目つきとは反対に、四天王のような凄まじい目つきに変わっていた。
「ちょっとぉー!!!」
「リカちゃん!!?」
この「ちび」の声をきっかけに、すさまじい悪夢のような二時間が始まった。
オレは、やくざさんのような雄々しい雄叫びと、四天王のような形相にすっかりビビり、そそくさと二人に気づかれないように、こっそり部屋を抜け出し、押し入れに身を潜めた。
ガシャーン。
バン!
「なんで勝手に食べるのよ!この泥棒!」
「買ってくるからいいじゃん。今買ってくるよ。コンビニすぐじゃん。ケチ!」
「はぁ?はぁー???何言ってんの、この馬鹿!」
「ばかぁ~?はぁ?」
もはや何で起こっていたのか忘れるほど、二人とも冷静さを失って、そこら中のものを投げたり、取っ組み合いの騒ぎだったからだ。こんな喧嘩の最中に、うっかりその辺で寝転がっていたりでもしたら、大変である。
ぬいぐるみは、基本的に永遠に生き続けることができると考えられているが、だからと言って、ボロボロになどなりたくはない。ボロボロになれば、日々の生活がやりづらくなるだけでなく、自分がしたことはさておいて、
「このぬいぐるみ、もう汚いからすてちゃおっと」と、
ポイっとゴミ箱、いや、生ごみと一緒に捨てられるのが関の山である。
燃えるごみと共にこの世から抹殺されてしまうのである。とても20代前半の、うら若き乙女のすることとは言い難い。恐ろしや、恐ろしや…。
そんな嵐のような夜の後、今日の日曜日がやってきたのだ。
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