【小説】アライグマくんのため息 第5話 謎の男「小口君」①
これ以上晴れようもないだろうといえるほど、えらくお天気の良い春の日。「リカ」は、初めての恋人となった、「小口くん」とドライブに出かけることになった。
「あー、もうどうしよう。えーっと、どれ着ていこうかな。ねぇ、まみちゃん、これにあっているかなぁ?」と、リカは、部屋中に洋服という洋服をあちこちにおいて、鏡の前でとっかえひっかえ着替えてはうなっていた。
「知らないわよ。だから前の日に考えておきなさいって、あれほど言ったのに。いいんじゃない、このワンピで。かわいいし、汚れても目立ちにくそうじゃん。」と、テレビに集中して、リカを見もせず、ポテチをほおばりながら、「ちび」は言った。
「もー人のことだと思って。何よ!」
リカはぷりぷりし始めながらも、お弁当やらなんやらとバタバタとしていた。
それにしても、雲一つない青空。時折カーテンを揺らす心地よい風。なんて気持ちいいんだろう。考えてみれば、ぬいぐるみとしてこの世に生まれて以来、ほとんど外の空気、外の景色を見ることはなかった。こんなに天気の良い日。外に出たら、どれほど気持ちがいいんだろう…?
そんなことを、鼻をほじりながら考えていたら、どうにもこうにも、外に出たくなってしまった。
そうはいってもぬいぐるみ。買ってに動いてしまうことはできない。万一見つかったら大変だ。「呪いの人形」とか思われて、よくてお寺に奉納されるか、火あぶりにされるかもしれない…。
『そうだ!こっそりリカのリュックサックに入れば、外に出られるぞ!』
そんな考えが頭に浮かんだ。うっかり者で、ちょっとまぬけなリカ。オレ様がリュックサックに入っていたとしても、間違って入れてしまったと思うに違いない。これはチャンスだ!うへへへへ…!!!
そこで、オレは、リカが、最後の仕上げとばかりにメイクに集中している間、こっそりリュックサックの中に忍び込んだ。念のため、オレはリカのハンカチを隠れ蓑にして、息を凝らして隠れることにした。
案の定、リカはオレ様に気が付くことなく、ハンカチ(つまりオレ様の体の上)に、布に包んだ弁当箱をぎゅぎゅっと詰め込んだ。
(ぐっ。く、苦しい…。)
こうしてオレは、リカと初めての恋人となった「小口くん」とドライブに出かけることになった。
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