【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」②
実はこの夜、リカは会社の同期の何人かと飲みに出かけたのだが、その帰り、ちょっとした出来事があったのだ。
「ちょっとしたこと」とは、1人の男性にデートに誘われたことだった。22年にして友人以外の男性から、デートに誘われるなんてことは、初めてのことだったらしい。リカは、すっかり自分の世界に入って、うっとりしながらその出来事を「ちび」にとうとうと話すのだった。
一通り話した後も、しばらくの間、
「困っちゃったなぁ~。どうしよう、まみちゃん。あたし、その人のこと良くまだ知らないんだよね。だって、今まで全然しゃべったことないんだもん。ねぇ、やっぱりまずいかなぁ?だって、バレンタインデーだよ、その日。いくら鈍感な人でも、やっぱりその日にデートに誘うのって、なんかあるよね?・・・まいったなー、会社の人だしなー、困っちゃうなー。」
なんて、一人でぶつぶつとつぶやいている。よく見ると、目が三日月目になっていやがる。
(こいつ、ウキウキじゃねぇか)
さっきまで、うわの空で、アイスクリームを食べることに絶賛全力投球中(?)だった「ちび」も、やはり「お姉ちゃん」。リカの話を聞き終えると、
「そうね、でも、リカちゃん、その人のこと、嫌いなわけじゃないんでしょ?だったら、一回くらい、一緒に出掛けてもいいんじゃない?別にそれでつきあうってことにはならないでしょ?バレンタインデーなんだから、チョコレートくらいお礼すればいいっていうか、、、ん、いいんじゃない?」
と、アドバイスしたのだった。
(こいつ、やればできるじゃねぇか)
「そうかな~。でもあたし、その人のことわかんないし、全然付き合う気なんてないんだよ。それでも?」
とリカ。
「そんなのわかんないじゃない。嫌な気がしないんだったら、せっかくだから一緒に出たっていいんじゃない?」
と、「ちび」。しばらく二人は、珍しく「仲の良い姉妹」を演じているのであった。が、それも長くは続かず…
「そんなに人の話を聞かないんだったら、最初っから人に相談しないでよ!」
「別にまみちゃんの言う通りにしなきゃいけないって決まりはないでしょ!」
「あんたねー、人に相談しておいて、そういう口の利き方はないんじゃない?ちょっとくらいデートに誘われたからって、はしゃいじゃって、、、ばっかみたい!」
と、例のごとくバトルを繰り広げたのだった。オレはまたとばっちりを受けるのは嫌だったので、そそくさとその夜は部屋の隅に隠れて眠ってしまった。
すったもんだの末、結局リカは「ちび」のアドバイスに従って、その「全然しゃべったことのない人」(ここでは、「むっつり君」と呼ぶことにしよう)と、バレンタインデー・デートをすることになった。
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