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「現代アートの勝手口」の修了展

 美学校スタジオで「現代アートの勝手口」の修了展を見てきた。現代アートの勝手口は美学校が行っている現代美術の教室である。東京には美大が数十校あるけれど「現代美術」を教えてくれるところは驚くほど少ない。それが美学校は私塾として現代美術のコースを持っている。ありがたい話である。完全なド素人だろうが他の美大に通っていようがとにかく入学金を用意できる生きた人間ならよほどの反社会的人格でない限りは現代美術の勉強ができる。いや、かなり反社会的な人格でも多分大丈夫だ。美学校はかなり度量が広

¥100
    • 田中千智 【傷痕】

       ずっと彼女の作品が欲しかった。狙いを定めてから何回か個展に足を運んだものの、売り切れていたり開催地が遠かったり思ったよりも作品が小さかったり中々手に入れる機会がなかった。しかしようやくチャンスが巡ってきた。百貨店での個展だ。私はすぐ職場に急病のため通院の連絡を入れると初日の朝一に百貨店に向かったのだ。  新宿伊勢丹、オープン前にたどり着くとすでに人々が開店を待っていた。初売りのニュースで見たことがあるけど、毎日待っている人がいるのだ。そして開店時間になると店員さんが深

      • Wisut Ponnimit ウィスット・ポンニミット (タムくん) 【タイトルなし】

         これはコレクションにいれてしまっていいものかどうか。実はこの作品は、私の似顔絵である。わかっている。私本人とは似ても似つかない。そもそも性別が違う。タムくんの作品を散々見ていた私は女性キャラクターの魅力に比べて男性は魅力に乏しいことがわかっていた。そこで自分を描いてもらうのに魅力の無い男性として描かれるのは辛いので女性にしてもらったのだ。ちなみにこの似顔絵を描いてもらった際にタムくんはファッションブランドとのコラボレーションをしていたため女性はそのブランドの服に着替えて

        • サディ・スターン 【Sucker Punch】

            初めて買った作品である。銀座のメグミオギタギャラリーで、私はその翌々週にメグミオギタショーケースでの展示の予定が入っていた。そこで私は下見を兼ねてギャラリーに行ったのだが、そこでこの絵に出合った。私は初めてこの絵を見たとき「そういえば作品って売ってるんだった」と思い至った。当時の私は展示の機会に恵まれ、写真作品を販売しており何枚か売れていたにも関わらず「自分が買う」という視点がすっぽり抜けていたように思える。しかし、私は写真作品の相場はわかっても絵の相場は全くわからな

          【矛盾として佇む】

                                   柴田英里  台湾、桃園市大渓区にある慈湖紀年雕塑公園をご存知だろうか。200体近くの蔣介石像を収集し展示する公園である。それでは、なぜ200体近くもの蔣介石像が集められているのか、一体どこから集められるのかはご存知だろうか。 慈湖紀年雕塑公園では、自由と民主主義を侵害した負の歴史の象徴として台湾全土から撤去されている蒋介石像が集められ展示されているのだ。  1949年、台湾島の台北を臨時首都とした蔣介石は、自らを「中国40

          【矛盾として佇む】

          温度と距離に引き裂かれる ー野澤梓個展「ふれてほとぼり」ー

                                       伏見 瞬  MEDEL GALLERY SHUで行われていた野澤梓の個展、「ふれてほとぼり」を観たのは3月の最初の日だった。今この文章を書いているのは3月9日だから、まだ一週間ほどしか経っていないのだけれど、大分昔のことのように感じる。当日の他の出来事にはまだ現実感があるのに、展示の記憶はまるで遠い夢のようなのだ。その遠近感の乱れは、おそらく野澤さんの作品がもつ性質に起因している。    この展示が「ふれてほとぼり」

          温度と距離に引き裂かれる ー野澤梓個展「ふれてほとぼり」ー