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縁(えにし)

翠玉創作短編小説  『縁』(えにし)
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#フリー台本 #翠玉


縁 – えにし –


これは私に起きた不思議な出来事のお話です。
いつも前を通ると気になる場所がある。その場所は大きな通りに面していてビルの間に建つ赤い鳥居がある神社。
その鳥居と目が合う感覚があるが、バスの中という事もあって素通りをしていた。
 私は建築物に元々興味があり、よく美術館や博物館などへ出かけていました。この日も以前から気になっていた博物館へ行く予定で、母親が休日ということもあり誘って博物館へ向かっていました。
母親と合流をし目的地の博物館に到着すると、建築物としての美しさに見惚れて心を踊らせながら中へ入る。博物館の中はレトロな雰囲気で時代を感じた。順路に沿って歩み進めると暫くしてから不思議と調子が悪くなり呼吸するのが苦しくなった。今までこんなことはなかったのに…
空調のせいなのか何なのか分からないが、苦しくてたまらなくて早急に博物館を出て休もうと喫茶店へ一緒に行く。
徒歩十分の間のことなのに、やけに道のりが長く感じた。鼻にまとわりつく湿気た様な匂い。博物館内の空調が効いていたにも関わらず思い出すだけで息苦しさと気持ち悪さが合わさっていて…体は外なのにまだ博物館内にいる様な感覚だった。
やっとの思いで喫茶店に到着し席に着く。さっぱりしたものが良くレモンスカッシュを飲んでいたが体調は優れず、私から誘っていたのに申し訳ないが母親には謝って解散して帰路に着くことにした。バスに乗るまで息苦しさが凄かった。
 バスに乗っていると、気になっていた鳥居の前を通過。すると、スゥーっと呼吸が楽になりあの嫌な博物館の匂いも消えた。
以前から鳥居がずっと気になっていて、いつもバスだから行けていない。通る度に鳥居を見てしまうので今度機会があったら行ってみようと思い、自宅に戻って早々に休む。
その日の夜。愛犬の様子がおかしい。
玄関→ベランダ→玄関→ベランダ→玄関→天井→ベランダ…この順番でずっと繰り返し見ては確認をしている。そして時折吠える。それも威嚇の吠え方。普段の愛犬の雰囲気とは違うので、妹のような存在の友人・美月に相談をした。
彼女には霊感があり、そういう不思議な世界を知っている女性。
多分、愛犬の様子から美月の見解は『浮遊霊がいるのだろう』と緊急時の対処方法のアドバイスを貰った。
私には普段からその場にはない匂いを感じる事はあったが、このような体験は思春期に一度金縛りにあったっきりでほぼほぼ初めての事…愛犬の様子から動揺をしてしまったが美月のおかげで安心することができた。
その出来事から暫く経って、美容皮膚科へ行くはずが予約が取れず予定が狂い仕方なく喫茶店へ行きどうするか考え、急遽あの鳥居がある神社へ行こうと思った。
バスに乗り博物館へ行った日の事を思い出しながら神社に到着し、以前から気になっていた鳥居の前に立つと素直な気持ちになる感覚。一礼をしてから鳥居を潜って境内に入ると風が吹く。歩く度に風が吹いて、とても居心地の良い雰囲気。本殿に近づく一歩一歩が清々しい気持ちになっていった。
本殿を詣りした後に、銭洗弁天様、お稲荷様としっかり参拝。
このまま清々しい気持ちのままで帰宅したのですが、暫くしてから…やっぱりまたあの神社が気になって、後日改めて参拝。


 ある日、ひょんな事から美月とあの鳥居のある神社のお話をしていて、弁財天様がご本尊様という事を知る。
…弁財天様??私の中で思い当たる節がある。私の祖母の家の事だ。
両親の仕事が忙しかった為に祖母の家で過ごす事が多かった子供の頃。
都内の第一京浜から少し入った所の私道の突き当たりに祖母の家があった。今でいう古民家みたいな雰囲気で、1階に応接間の他に和室が数部屋と台所と貯蔵庫と納戸とお風呂場とトイレと箱庭、2階に和室が数部屋にトイレとベランダが2つ。立地の割には広い家で、祖母は2階の一番大きな和室の1室で日本舞踊を教えていた。生徒さんがお稽古でいらっしゃっている時は邪魔するといけないので、玄関から直ぐの応接間の皮張りのソファーで大人しく本を読んで過ごしていた。祖母の家で過ごす時の私の定位置でもあった。
お稽古が終わると生徒さん達が2階のお稽古場から祖母と一緒に降りてくる。お見送りが終わると、祖母は良い子に過ごしていたご褒美で美味しいお茶を祖母のお気に入りのティーカップで淹れてくれ、大好きなお菓子と共に出してくれた。一緒にお茶をしながらの会話が楽しくて祖母とのお茶の時間が私にとってたまらなく好きな時間。
 そんな思い出がある祖母の家には不思議と立ち入り禁止の場所が何箇所かあった。
2階へ向かう階段を上がった直ぐ左手の和室が立ち入り禁止エリア。玄関のドアの上に小さいベランダがあったのだが、ここも立ち入り禁止エリア。後日分かったことなのだが、その小さいベランダが急に崩れ落ちて下にいた人に怪我を負わせてしまったり、他にも家にまつわる不運が続いていた。
祖母はこの不運に対して心を痛めていたのですが、日中、箱庭に白蛇が出てきて直ぐいなくなり、白蛇を見かけたその夜の祖母の夢枕に弁財天様が立って『“この場所“を掘り返せ』『そこに眠っている』『“井戸“もあるからちゃんと供養しろ』という不思議な夢を見たという。
“この場所“とお伝えのあった場所は祖母宅の玄関脇の花壇ような所で、私の記憶では井戸なんて全く見当たらない。
祖母は実際に夢枕に立った弁財天様の言う通り指定された場所を掘り返すと、白い弁財天様の像と一緒に井戸も出てきた。
まさか本当に弁財天様と井戸が出てくるなんて…ずっと住んでいた祖母ですら井戸の存在には気がついていなかった…
夢の中のお告げ通りに弁財天様と井戸が出てきたので、祖母の家に親族全員が集まりお坊さんを呼んでお経をあげて白い弁財天様の像を井戸の近くに祀って供養。
それ以来、祖母の家にまつわる不運が止まり弁財天様を祖母は大事にするようになっていました。
その時の供養は今現在も朧げながらも記憶に残っていて、子供の頃の私にはこの出来事が大人になってからの私に関わって来るなんて思いも寄らず『そういう事もあるんだな』という軽い受け取り方をしていました。


 友人・美月との会話に戻りますが、この美月との会話中にも他にも私が訪れた事のある神社の多くは弁財天様が祀られていた事を知る。
そして、あの赤い鳥居がある神社のご本尊様も弁財天様…
偶然って凄いなぁと思っていたけれど、私が気になってるあの赤い鳥居の神社は、ある地域の一画にあり元は広大な敷地だったらしい。元々はどこからどこまでの広さだったんだろう?という好奇心から調べてみると、なんと!私が体調不良になった博物館辺りまであった事が発覚。しかも博物館の位置に、一の鳥居があった事を知る。
鳥肌が立ち、驚きのあまり震え、ゲップが止まらなくなる。
 そのことを知った数日後から妙にあの神社が気になる。脳裏に鳥居と本殿が散らついていて美月に伝えると『その神社に呼ばれてるんだよ。行けば何か分かるかもしれないよ?』とアドバイスを貰い、予定を組んで行ける日を見つけ準備。
調べるとどうやら弁財天様に行くのは巳の日が良いらしい。直近の巳の日を調べてみる。私の行く日は満月で巳の日。
偶然にしては重なり過ぎているなぁと思いつつも、この日に行くと決めたので行く。
神社は、本殿と銭洗弁天様とお稲荷様がある。お稲荷様にお揚げとお酒をお供えしようと思い、お狐様の像の数を思い出そうとしたが思い出せず…大体どこのお稲荷様も2体と祠の1体の合計3体だろうし多いかなぁ?と思ったけど少ないより多い方が良いだろうと一袋5枚入りの油揚げと日本酒を買って行く。
スムーズにバスが来て向かっている最中…何故か頭痛と動悸が走る。体調不良を起こしているが最寄りの停留所でバスから降りて神社へ向かっていると、聴こえてたはずのヘッドホンから急に音が聴こえなくなる。動揺したが深呼吸して心を落ち着かせる。
鳥居を潜る時に一礼して入った途端に体調不良が治り涼しい空気を感じた。
本殿が見えた途端に今度は風が吹く。
目の前では式典をしている…神事をしてるなんて知らない。
でも、コレに呼ばれてたんだって直感で分かった。
お手水で清め、お詣りし、お稲荷様に行きお供えして気がつく…お狐様の像が4体、祠に本体の計5体。
油揚げ、一袋5枚入りだった……え?これも偶然か?…お稲荷様でも風が吹く。
お稲荷様にご挨拶してから隣にある銭洗弁天様にご挨拶。銭洗弁天様でも風は吹き、小銭を洗っている時に妙に落ち着く。有難いので池の中にお賽銭を置いてきた。
神社を後にする時まで風が吹いていた。
 何となく直ぐ帰る気になれなくて神社の隣の喫茶店で休憩をしていたら、席についた途端にゲップが出る。
美月に報告をしたら『やっぱりその神社に呼ばれてるんだよ。』と言われる。そして、こういう霊障が起きる時はゲップがでると教えてもらい…スマホの画面を見ながら驚いていた。
喫茶店で休憩してそろそろ帰ろうとしていたけれど、何だか神社が気になって仕方がない。これは無視して帰ると良くないと直感で感じ、喫茶店から神社へ戻る。
鳥居を潜るとまた風が吹いた。
神社は式典が終わっていたけれど片付けをしていて、式典中は邪魔にならないようにと思い、ゆっくりご本尊様にご挨拶ができなかった。
なので再度お詣りをしてゆっくりご挨拶する事ができてよかった。
肌守りと弁財天様の琵琶守りと浄め塩を購入した後に、ご本尊様にゆっくりご挨拶ができなかったから呼ばれてたのかな?とふと思った。
帰る時も妙に後ろ髪を引かれていて何度も本殿の方を振り返った。だけど何かあるわけでもない。視界には本殿が入ってくるだけ。ずっと風が吹いていたけれど不思議と鳥居を抜けた神社の外は風が吹いてない。神社の参拝は終えているのに、バス停から鳥居が見えていて鳥居と目が合ったままバスが発車していても、私は見えなくなるまで鳥居を見続けていた。
帰宅して一息ついて愛犬のお世話や食事の準備中に今日は不思議な日だったなと振り返っていると、またあの神社が脳裏に散らつき始める。
きっと振り返ったからだなと思っていたけれど、時間が経過しても常に頭の中は神社の本殿や鳥居が散らつく。頭の片隅に棲みついているかのように常にあの神社の存在が…
疲れているし休もうとその日を終え、翌朝を迎える。


 翌朝になってもあの神社が脳内に浮かんでくる。
これは…美月が言っていた『呼んでいる』ということなのかもしれないと身支度中に思った。
TO DO リストを見て神社に行く時間の確保ができるか確認。いつもよりも早く行動をすれば行く時間が確保できそうだった。
用事を済ませてから神社に向かう。鳥居と目が合う感覚は相変わらずで風はやはり吹くし落ち着く空気感。境内には誰もいなくて私一人。本殿の前で深く深呼吸をしてからお詣りをして、お稲荷様と銭洗弁天様にもお詣り。
お詣り終えた後も昨日と同じ様に神社から帰ろうという気持ちになれず同じ喫茶店で過ごしていた。するとやはり脳内に神社が浮かび始めて来た。お茶を飲みながら弁財天様の事をタブレットで検索をかけて勉強を開始。調べれば調べるほど神社が気になって仕方がない。
開いていたタブレットを閉じてお茶を飲み干してからお会計を済ませ神社へ戻った。
 誰もいない境内。陽がさしていて本殿が綺麗で思わず写真を撮ってしまった。昨日感じた後ろ髪を引かれる感じ。何故こんなにもここの神社が気になって仕方がないのか…私には全くわからない。わからないけど兎にも角にもこの神社が気になる。
祖母が大切にしていた弁財天様がご本尊様だからだろうか…
思い返すと行く先々の神社に弁財天様が祀られているのも、実家の近くに弁財天様が祀られている神社があったことも、祖母の家から出てきた白い弁財天様の像も…この神社も弁財天様…あまりにも弁財天様が繋がっている日常。私はどのように今の状況について対応したら良いのだろうか…神様のことについては無知すぎて勉強が必要なんだけれど、調べようとすると神社が浮かんできて気が散って弁財天様の勉強ができない。
目の前の本殿に向かいたいが気安く近寄っては行けないような気がして、弁財天様には申し訳ないが先にお稲荷様と銭洗弁天様にご挨拶をしようと思った。
 お稲荷様の像は人によっては怖く感じるのだそう。だけど私にはここの像は親しみを感じていて、失礼だとは思いますが…可愛くも感じていました。『また来ますね』と心の中で伝え、銭洗弁天様でお水を触らせていただく。短期間の間に何度もこの境内の銭洗弁天様にも訪れてお水を触っている。お水を触りたくなるのです。理由は何故だか分からないけれど、このお水を触ると心が穏やかになり妙に落ち着く。心がささくれ立っていても触れる事で安心感を得られている。
お狐様の像といい、弁天様のお水といい、惹かれてしまう事実。私は不思議な気持ちになっていました。
 本殿の前に来ると先程の近寄りがたい空気感とは違って導かれるように本殿に立っていました。お詣りをして暫くの間、本殿内の祀られている弁財天様に日頃の感謝を伝えると背筋がゾクっとする。だけど嫌な気配ではない。どちらかというと前向きになるような緊張感と言った方が正しい。本殿の中に祀られている弁財天様を一時見つめていました。
何となく写真を撮りたくなって境内の写真を数枚撮ってから一礼をしてバス停に向かった。
待っている間も鳥居から目が離せない。鳥居を見ていたらカラスが一羽、目に留まった。鳥居を潜り抜けてすぐ近くの電柱に止まった。バスが来て乗り込もうとするとカラスはまた鳥居を潜って神社に戻って行った。カラスは知能が高い事は知っていたが、まるで私を導くような八咫烏様がお見送りしてくれている気がした。
最寄りでバスから降りて歩いてると追い風。空には変わった形の雲が。追い風なのに遠くに行かずに近づいて来ているような…
気になっていたので、その雲を撮りながら自宅を目指して歩いた。その雲が龍の様にも見えて雲って面白いなぁと観察を続ける。
自宅に近づくにつれて、龍のような雲はどんどん近くに感じてくる。到着したら、その雲は自宅の上に来ていた。
こんな事ってあるのかな??と思いつつ、写真を撮ると…一本の光が自宅に向かって真っ直ぐ伸びて写っていた。ん??これは…どういうことだ?と不思議に思い、撮ってきた神社の写真を見返すと普段は撮れない不思議な写真が何枚もあった。
私はカメラを趣味にしているのですが、太陽の光にしては変だな?という光や、スマホのレンズの汚れかな?と思うような影…他には写っていない物だったり、通常のカメラで撮るにはあり得ない様な難しい物が写っていました。
でも写真を見る限りでは嫌な気持ちにはならないし怖いと思う感情も芽生えなかったので縁起物として大切にしようと思いました。
美月にその写真を見せると『不思議だね!』とこの出来事の共有をしてくれました。


 その出来事から暫くして…私は体調不良で辛い思いをしており、それを知った美月が弁財天様と宇賀神様の所に参拝に行ってくれ私の事をお願いしてくれた事を報告。その時の弁財天様と宇賀神様という神様の写真を送ってくれた。
弁財天様は分かるが何故この宇賀神様という神様も一緒なのかと不思議に思いましたが、私を思って参拝へ行ってくれた美月の気持ちが嬉しくて有難く写真を保存しフォルダを作って保管をしました。
 その後、とある方と知り合い、その方も力を持っていて不思議な世界を知っている方。
あの龍のような雲の写真を見せると龍ではなく白蛇に見えるとの事。弁財天様の頭に乗っている白蛇の神様で宇賀神様ではないだろうか?と教えて頂き、銭洗弁天様のお水を触らせて頂く時に蛇の像があった事を思い出したのと、祖母が箱庭で見た白蛇を思い出し…美月が参拝していた宇賀神様の事も。
その方のお話では、亡くなった祖母が私と弁財天様を繋げてくれていて、弁財天様の頭上に乗っている宇賀神様も一緒に繋がっていると…
そして私が神社へ参拝に行くといつもお見送りをしてくれているとお話をしてくださいました。
こんな偶然ってあるのでしょうか?いつもお見送りをしてくれているという事にも驚きました。
私自身、元々こういう不思議な世界は信じる方ではなく美月と知り合ってからそういう世界を受け入れ始めました。今迄はその様なお話は聞きたくなくてシャットダウンをしていましたが、不思議と美月のお話はすんなりと耳に入ってきて受け入れ、更に理解する事も異様に早かったのです。そして神様という存在についても何処か異次元でファンタジーな世界の方達、というか俗世を離れた存在で自分たちとは切り離した象徴という認識でした。この出来事から…深い繋がりのある身近な存在であるという事と切っても切る事のできない存在なのかもしれないと思うように…私にとっての弁財天様という存在はそのような存在なのかもしれません。
よく考えると祖母は芸事のお仕事をしていた事と私も芸事を習っていたという事もあり、私の名前には水と弓矢が関係していて住んでいる地域にも祖母の住んでいる地域にも水が関係している。弁財天様と共通する事柄が多くありました。
美月にその事を伝えると『絶対、弁財天様が関係ある!』言われました。
 弁財天様は水の神様で芸事や勉学の神様でもあり琵琶を持っていらっしゃいますが、阿修羅神を撃破したという神話もあることから戦闘神の一面もあり、武器をもった弁財天様の姿も描かれていたりもします。その武器は弓、矢、刀、矛、斧、長杵(ながきね)、鉄輪(かんなわ)、羂索(けんじゃく)
そして…今夜は双子座満月の夜。実は、美月も水と弓矢が関係していて、美月と私との関係はまた機会があればお話したいと思います。

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