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メルク(Merck & Co., Inc.)2024年第4四半期および通年の財務とパイプライン概要
はじめに
メルク(Merck & Co., Inc.)は、腫瘍学、ワクチン、感染症、循環器・代謝疾患などの治療領域において革新的な医薬品を提供する世界的な製薬企業です。本記事では、2024年第4四半期および通年の財務実績とパイプラインの進捗について詳細に解説します。
財務概要
2024年第4四半期の業績
総収益:156.2億ドル(前年同期比+7%、為替調整後+9%)
GAAP純利益:37.4億ドル(前年同期 -12.3億ドル)
GAAP EPS:1.48ドル(前年同期 -0.48ドル)
Non-GAAP純利益:43.7億ドル(前年同期 0.66億ドル)
Non-GAAP EPS:1.72ドル(前年同期 0.03ドル)
為替変動の影響を除外すると、売上成長率は 9% に達する 。
2024年度通年の業績
総収益:641.7億ドル(前年比+7%、為替調整後+10%)
GAAP純利益:171.1億ドル(前年比+4,588%)
GAAP EPS:6.74ドル(前年比+4714%)
Non-GAAP純利益:194.4億ドル(前年比+407%)
Non-GAAP EPS:7.65ドル(前年比+407%)
為替変動を除くと、売上成長率は 10% に達する 。
セグメント別売上
腫瘍領域
Keytruda(抗PD-1抗体、様々ながん):Q4:78.4億ドル(前年同期比+19%) / FY:294.8億ドル(前年比+18%)。他社製品との競争の中、適応拡大により引き続き強力な成長を維持し、年間の売上高が300億ドルに迫っています。歴史的なブロックバスターです。
Lynparza(PARP阻害剤、BRCA変異陽性がん):Q4:3.65億ドル(前年同期比+16%) / FY:13.1億ドル(前年比+9%)
Lenvima(VEGFR阻害剤、様々ながん):Q4:2.55億ドル(前年同期比+13%) / FY:10.1億ドル(前年比+5%)
Welireg(HIF-2α阻害剤、腎細胞がんなど):Q4:1.60億ドル(前年同期比+122%) / FY:5.09億ドル(前年比+133%)
ワクチン
Gardasil/Gardasil 9(HPVワクチン):Q4:15.5億ドル(前年同期比-17%) / FY:85.8億ドル(前年比-3%)
ProQuad, M-M-R II, Varivax(麻疹・風疹・水痘ワクチン):Q4:5.94億ドル(前年同期比+9%) / FY:24.8億ドル(前年比+5%)
Vaxneuvance(肺炎球菌ワクチン):Q4:1.61億ドル(前年同期比-9%) / FY:8.08億ドル(前年比+22%)
循環器・代謝領域
Winrevair(sGC作動薬、肺動脈性肺高血圧症):Q4:2.00億ドル / FY:4.19億ドル
Bridion(筋弛緩回復薬):Q4:4.49億ドル(前年同期比+5%) / FY:17.6億ドル(前年比-4%)
動物薬(Animal Health)
総売上:Q4:13.97億ドル(前年同期比+9%) / FY:58.8億ドル(前年比+4%)
期待されるパイプライン
オンコロジー
Subcutaneous Keytruda:皮下投与タイプのKeytrudaです。第3相試験で非劣性が示される。
Zilovertamab vedotin(抗ROR1抗体):未治療DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)に対する第3相試験が進行中 。
Paritumab deruxtecan (抗HER3抗体-抗体薬物複合体):EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する第3相試験が進行中。
Sacituzumab tirumotecan(抗TROP2抗体-抗体薬物複合体):EGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対する第3相試験が進行中 。
他にも多くの抗体薬物複合体 (ADC) の臨床試験を進行させており、各種ADCの開発を通じてKEYTRUDAの特許切れに備えています。
感染症領域
Clesrovimab(RSV抗体、RSウイルス感染予防薬):第2b/3相試験で発生率の低下と入院率の低下が示されました。
Islatravir/doravirine(ヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害薬):第3相試験でHIV治療薬としての有効性が示されました。
循環器・代謝領域
Enlicitide decanoate(経口PCSK9阻害薬):高コレステロール血症に対する第3相試験が進行中。
MK-4082(経口GLP-1受容体作動薬):Hansohとの独占契約を締結 。
免疫領域
Tulisokibart(抗TL1A抗体):潰瘍性大腸炎に対する安全性と有効性が第3相試験を通じて示唆されています。
業績と展望
2024年は Keytruda の成長に率られ堅調に売上、利益を成長させました。KEYTRUDAは歴史に残るブロックバスターに成長しました。一方で、Gardasil の売上減少や Januvia/Janumet(DPP-4阻害薬)の特許切れによる影響には注意が必要です 。
研究開発では、皮下投与型のKeytruda や clesrovimab 、各種ADCの開発で進展が見られます。2028年以降に迎えるKEYTRUDAの特許切れを単独でカバーできるような候補薬は見受けられませんが、複数の候補薬の成功が今後の成長の鍵となるでしょう。
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