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強い人たち 運動神経が悪いということ Vol.21

タイトルと内容が不釣り合い。芥川賞受賞作、高瀬隼子の「おいしいごはんが食べられますように」を読んで、事前にネットで見かけたレビューに納得した。心温まる物語を連想させながら、蓋を開ければ、男女の三角関係を軸に意地悪や打算など人間社会の淀みに覆われた群像劇。「文藝春秋」の選評では、主たる登場人物の一人である芦川という女性について「恐ろしい」という意見が複数あったが、いずれも女性の選考委員によるものだった。人間の嫉妬に類する感情というものは、主に同性へ向けられるものなのだろうか。私が本作で一人勝ちしてズルいと感じたのは、二谷という男性の登場人物だ。交際相手としては手作りのお菓子をふるまうほど女子力が高い芦川を選びながら、その芦川を嫌う押尾という別の女性からも接近され、会社では押尾の仕事上の能力の高さを買っている。両者と円満な関係を保ち、対照的な女性の「いいとこ取り」を実現するとは、なんとしたたかなことか。

かれこれ5・6年ほど経つが、タイトルに惹かれて読んだ「男がつらいよ」という本はいまも印象に残っている。「男性学」を提唱する社会学者の田中俊之氏による著書で、男らしさの証明となり得る経験は「成功と逸脱」だという。事実、一流のビジネスマンや筋金入りの不良たちには、異質ながらも総じて貫禄が漂っている。元ヤンの金満経営者など、両方の経験を兼ね備えれば、さしずめ「男の中の男」だ。わが国では、腕っぷしの強さで鳴らしたという高校時代に乱闘騒ぎなどで二度に渡る停学処分を受けながら、やがて文部科学大臣に就任した人物まで実在している。

凶弾が文字通りの引き金となって、旧統一教会と政権政党との根深い関係が続々と明るみに出るなか、漫画のような経歴を実現した「男の中の男」たる萩生田氏も、渦中に巻き込まれることとなった。擁立を主導して先の参院選で初当選した生稲氏ともども、苦しい釈明で急場を凌ぐ腹積もりなのだろうか。後者もまた、アイドル時代から相手に応じて態度を使い分けていたそうだから、その才覚と選挙運動は親和的だったのかもしれない。100キロ級の巨漢と、いまだ健在の愛嬌。容貌は凸凹でも、どこか似たもの同士の二人に見える。

畏れられ、難があっても大目に見てもらえるためか。表向きの愛想の良さで、好印象を獲得するためか。方法はさまざまあっても、強い人やしたたかな人が幅を利かせ、のし上がりやすい素地が、私たちの世間には確かにある。身体的な強靭性だけではなく、世擦れして知恵を身につけることも、また強さなのだろう。したたかとは、漢字に変換すれば強かとなるのも頷ける。


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