王手とはいえ Footballがライフワーク Vol.14
先月、ユトレヒトに加入した前田直輝が新天地のデビュー戦で負傷してしまった。シーズン中の復帰が絶望的な重症だったらしい。不憫なのと同時に、個人的にはこの技巧派ドリブラーが海を渡ったのを不覚にも知らなかったことがショックで、日本人の欧州移籍が頻繁なあまり、もはや大々的なニュースになりえない現状を思い知った。その後も田川亨介がサンタ・クララへ移籍し、セルティックは次なるターゲットとして荒木遼太郎をリストアップしているという。ふと抱く疑問と不安は、はたして彼らの名前が、どれほどの人に認知されているのかということだ。
かつて、欧州へ活躍の場を移す選手といえば概して、その時点ですでに完成されたスター選手だった。Jリーグで名を上げて日本代表でも主軸となり、十分な実績や知名度を獲得した選手が満を持して進出した時代が、遠い過去になった感がある。年始に観た番組で、現在の日本代表への印象として、「得点力不足」や「メンバーの固定」とともに、「わくわくしなくなった」という声が挙がっていた。日本人選手の欧州への移籍ルートが「短縮」され、国内で名実ともに熟成されぬまま代表に選ばれる選手が増えたことも、「わくわく感」が減退した一因ではないだろうか。
カタールW杯アジア最終予選も、残すところ2試合となった。日本にとってホームで連戦した今月の2試合は、出場権のうえでも興行の面でも正念場だった。下位の中国を確実に叩き、迎えた首位サウジアラビアとの天王山。進境著しい伊東純也の1ゴール1アシストの大活躍による快勝を、出張先ホテルの壁掛けテレビの大画面で堪能できたのは幸いだった。次のオーストラリア戦に勝てば7大会連続出場が決まる状況となったものの、舞台はアウェーだ。これまでも、日本は最後の1試合を残して最終予選を突破してきた傾向にあり、今回も同じタイミングで「王手」となった。
序盤の3試合で2敗を喫した苦境から立て直し、切符に手が届きそうなところまできたというのに、手放しで喜べないのがもどかしい。日本の7度目のワールドカップがかかる大勝負は、DAZNで独占放送されると発表された。仮に伊東が最終予選新記録の5試合連続得点を決め、日本の救世主となっても、地上波で放送されないことが改めて悔やまれる。「自腹を払ってでもできないか」日本サッカー協会の田嶋幸三会長は地上波放送を模索していると明かしていたが、どれほど意気込んでみても、契約が成立したあとでは如何ともし難いであろうことは素人にも察しがついた。そのDAZNは、今月から従来1,925円の月額料金が3,000円へ値上げされることになった。記者会見では算出根拠の説明も無く、「これが適正価格」の一点張りだったようだが、サービス開始から3年あまりの料金はずっと不適正だったのだろうか。マルチコンテンツをテレビに加えオンラインでも提供するWOWOW以上に高額となる料金は、割に合わず、他の有料サービスのように顧客に応じた選択肢が無いのも腑に落ちない。それでも、日本代表もヴィッセルも全試合が観られる唯一の手段である以上、この理不尽な決定をも呑むしかない。同様の理由で私を含めたコアなファンが搾取される一方で、ライトなファンはますますフットボールから離れていく。そんな悲しい現象が、着々と進行している。
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