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******* その夏、光里にはよく分からない理由で両親は酷く忙しかった。楽しみにしていた旅行も中止になった。お母さんは何も言えずに黙り込む光里の頭を撫でて 「代わりにお盆の間は、おばあちゃんの家に行こう」 と言った。 11歳の光里にとって、かなり遠くの、しかも峠を越えた先の山奥にあるおばあちゃんの家は想像するだけでも退屈で、それならいっそ誰も居ない家で漫画を読んだり、リンゴサイダーを飲んだりしていた方が有意義だと思った。 けれど、申し訳なさそうにこちらを見つめるお
〈初任給入った? 今日メシ行こう〉 一ヶ月間停止していた三人のトークルームに、そうメッセージを送ってきたのは悠木だった。悠木は大学時代の友人で、僕、悠木、あとは美鈴の三人で四年間のほとんどを過ごした。けれど僕らは、あんなに一緒にいたにも関わらず社会人一日目のその日からめっきり連絡を取っていなかった。 そして今日、悠木の一言で僕たちは渋谷のレストランで一ヶ月ぶりに再会した。僕はすでに席に座っていた悠木と美鈴に声をかけた。 「変わらないな」 「おう、真島。当然だろ、たったの一