クリーニング屋さんに行くと切なくなる
重い腰を上げて
冬物をまとめてクリーニングに出しに行った。
パンツ3枚、ジャケット3枚、コート2枚だったはずだ。
クリーニング屋さんのおばちゃんが手際よく衣服をさばいていく。
「ここ、だいぶほつれてますねー。クリーニングすると穴が大きくなるかもしれません」
…はい。
「これ、全体的に色落ちしちゃってますねー」
…はい。
「ここ、だいぶスレてますねー。毛玉は取れませんから、お願いしますー」
…はい。
「コットンのものはクリーニングで色落ちする可能性がありますー」
…はい。
「この合皮の部分、だいぶボロボロですねー。クリーニングで劣化していきますけど、それでも出しますか?」
……はい。お願いします。
おばちゃんの手元で、ぱたぱたと広げられ、たたまれていく1着1着をぼんやりと眺めながら、切なくなってしまった。
どの服も買ったシーンをちゃんと覚えているぐらいには気に入っている。
8着中、5着ぐらいは10年選手だ。
そりゃあ、ほつれも色落ちも、スレだってあるだろう。
でも、だから、分かってることを言われて切なくなった。
「ダメージ負ってますから、もう長くないですよ」
って言われている気がして。
すごくすごく気に入って着ている服たちなのに
そんなこと言わないであげてよ…って。
わたし、この服いつまで着られるんだろう…って。
おばちゃんに悪気はない。
仕事の一環で、お客さまにリスクを説明しなければいけないのだ。
彼女はただ、自分の仕事を果たしているだけである。
でもクリーニング屋さんに行くとどうにも、自分の大切な洋服たちが余命宣告を受けているようで、切なくなる。
クリーニングという、大手術の説明のように聞こえてしまってならない。
きっと大手術は高確率で成功するし、自宅に戻ってきたらまた冬まで思い出すこともないだろう。
どんなに大切にしているつもりでも、
いつか自転車に乗ってどこかに引っ掛けるかもしれない。
どうにもならないシミをつけてしまうかもしれない。
そんな風にお別れの瞬間があっけなかったとしても、
あなたたちのことを大切に思ってるのよ
ってことを、今日の記録として残しておこう。
…まだまだ現役でいてください。